第二十五話 サニー
三人が酒場から駆け出すと、街の住民が杖を抜いて戦っていた。
住民の男が、襲い来るオオカミに向けて雷魔法を放って撃退する。
「やった!」
次の瞬間!
大きな鳥の魔物が飛来し、男を空へと連れ去っていった。
「イヤアアアアアアアアアア!」
三人は街を見渡す。
すると、道に、空に、魔物が大量発生していた。
どうして、こんなことに。
魔物が、あの巨大な城壁を突破できるはずがない。
しかし、街に魔物が発生した原因は、すぐに分かった。
街の至る所で、フードで顔を深く覆ったローブ姿の人間が口々に叫んでいたのだ。
「魔王様万歳!」
彼らはそう叫ぶと杖を天に掲げ、召喚魔法を発動した。
彼らの周りに、次々と魔物が現れる。
突然、三人の後ろから何者かの荒い鼻息が聞こえてきた。
振り返ると、そこには大きなヤギのような魔物が蹄を鳴らして立っていた。
ブンッブンッ!
ヤギは地面を蹴って、三人に突進してくる。
クリフが唱えた!
「我が体は火炎を宿す!」
ドンッ!
クリフは、ヤギのツノを掴んで動きを止めた。
そのまま腕力で、ヤギの体を持ち上げる。
ヤギの体が、完全に宙に浮いた!
そしてクリフは、力の限りにヤギを石畳へ打ち付けた!
ヤギは怯む。
すぐさま、カトレアがヤギに触れてトドメを刺した!
そうこうしている内に、今度は数匹のオオカミがやって来た。
三人は固まって警戒する。
住民や騎士団が応戦して、至る所で魔法の爆発音がする。
空は飛び交う魔物と、魔法の弾幕で覆い尽くされている。
しかし、いくら魔物を撃退しても次から次へと湧いてくるのだ。
このまま戦っていてもキリがない。
召喚魔法を唱えている奴らを倒さなければ!
「キャアアアアアアアアアア!」
ロゼッタは、叫び声を聞いた。
小さな子供が、オオカミに襲われている!
子供は路地裏に逃げ込み、オオカミもそれを追っていった。
助けなければ!
ロゼッタは駆け出した。
「ロゼッタ!」
クリフが叫んで追いかけようとするが、他の魔物に遮られた。
クリフとカトレアは、魔物に囲まれてしまった。
ロゼッタは、細い路地を駆け抜ける。
すると、少し開けた場所に出た。
ここは住宅街らしい。
「キャアアアアアアアア!」
女の子が、木に登って叫んでいる。
その下には、木に登ろうとするオオカミの姿が。
女の子は足の裏でオオカミを蹴って、必死に抵抗している。
オオカミが女の子の脚に噛みつこうとした、その瞬間!
輝く光が、オオカミの脇腹に衝突した!
オオカミは吹き飛ばされ、民家の壁に激突。
空中には、輝くクマのぬいぐるみが浮かんでいた。
テディだ。
ロゼッタは、女の子に駆け寄った。
女の子は、安心して木から降りてくる。
「無事か?」
「お姉ちゃん、ありがとう!」
女の子がそう言った瞬間。
彼女の表情が再び、恐怖に染まった。
ロゼッタが、気配を感じて振り返る。
すると細い路地から、こちらを伺うように数匹のオオカミが出てきた。
その後ろからは、ヒョウのようなネコ科の魔物が現れる。
ロゼッタは、テディとレイニーを構えた。
「テディ! レイニー! やれぇ!」
ロゼッタが叫ぶと、二体のぬいぐるみは魔物へ向けて突進した!
二匹のオオカミが、ぬいぐるみを避けてロゼッタへ向かって突き進む!
回避された、テディは上昇。
レイニーは旋回して魔物へ向かった。
二匹のオオカミが、ロゼッタに襲い掛かる!
しかしそのうちの一体は、空から急降下してきたテディに押し潰される!
もう一体は、脇腹にレイニーが衝突し弾き飛ばされた!
今度はヒョウが、ロゼッタへと向かって走ってくる!
レイニーが高圧放水を行って迎撃するが、避けられた!
テディが突進するが、また避けられた!
なんだこの魔物。速いぞ!
ロゼッタの防御網が、突破された!
「しまった!」
ロゼッタは絶体絶命。
その時!
ドーン!
何かが、ヒョウの体に突っ込んだ!
ヒョウは壁に打ちつけられる。
「あっぶねぇ!」
ロゼッタの足元には、ネコ型のぬいぐるみが立っていた。
「お前は! ワン!」
「ヨォ、ヨォ! 待たせたな! ヒーローの登場だぜ!」
先ほど壁に打ちつけられたヒョウが立ち上がり、天に向かって吠えた。
仲間を呼んだらしい。
空から、一羽の大きな鳥が現れた。
鳥は、ロゼッタ達を威嚇する。
ピイイイイイイイイイイ!
辺りには、鋭い鳴き声が響いた。
ロゼッタの後ろに隠れていた女の子が、耳を塞いでしゃがみ込む。
すると突然、どこからか女の声がした。
「ロゼッタさん! 使ってください!」
声の主は、カミーリャだ!
彼女は、ロゼッタに向かって何かを投げた。
ロゼッタは、それをキャッチ。
受け取ったものを確認してみる。
なんと、ぬいぐるみだ!
「これは……キツネ?」
白いキツネのぬいぐるみに、赤いエキゾチックな模様が入っている。
彼女は、キツネのぬいぐるみに魔力の糸を接続してみた。
「これは!!」
ヒョウが唸り声を上げる。
ガオオオオオオオオオオ!
ロゼッタは、キツネのぬいぐるみを正面に構えた。
「やるぞ! サニー!!」
彼女がそう言うと、ぬいぐるみはヒョウに向かって直進した!
速い!
ヒョウはサニーを一度回避するが、サニーが急旋回して追いかける!
次の瞬間、サニーは体に炎をまとった!
燃えるサニーがヒョウを襲う。
ドーーーーーン!
ヒョウは回避できず、炎に包まれた。
しかし、ヒョウは炎から飛び出す!
痛手を負っている様子だが、随分としぶとい。
そんなヒョウの前に、ワンが立ちはだかった。
「ロゼッタ! お前はトリを狙いな! コイツは俺向きの相手だぜ!」
「大丈夫なのか?」
「楽勝よ!」
ロゼッタはワンの言葉を信じ、トリにターゲットを変えた。
ヒョウは、ワンに向かって威嚇をしている。
「ヘイ! ヘイ! ビビってる!」
ワンも、ヒョウを挑発した。
ヒョウが、ワンに飛びかかる!
すると、突然ワンの姿が消えた!
ヒョウは目標を見失って驚く。
「こっちだよっ!」
ヒョウが横を向く。
すると突然、ヒョウの顔にワンの飛び蹴りが入った。
そうかと思うと今度は腹に、いや、背中に次々と攻撃が入る。
ワンは消えたのではない。
目にも止まらぬ速さで、動いていたのだ!
「ヒィーーーハァーーー!」
ワンは、右へ左へと飛び跳ねる!
ヒョウは、ボコボコにされた。
そしてヒョウは突然、首の後ろに大きな衝撃を感じた。
ワンの強力な一撃が、弱点に決まったのだ!
ヒョウはふらつき、意識を失って倒れた。
一方ロゼッタは、テディ、レイニー、サニーの三体でトリを追尾していた。
しかし、こちらも速い相手だ。
なかなか攻撃が当たらない。
しかも、相手は空中にいる。
縦横無尽に動き回る相手に、攻撃を当てるのは困難だ。
突然、トリがロゼッタに向けて風魔法を放った!
鋭い風がロゼッタを襲う!
石畳の隙間に生えていた雑草が、スパッと切断された。
しかし、ロゼッタの目の前には水のシールドが張られていた。
レイニーの防御魔法を使い、トリの攻撃を防いだのだ。
トリは、ロゼッタを威嚇している。
ロゼッタは先ほどの攻撃で、トリの隙を見抜いた。
トリは風魔法を撃つ際に、一瞬だけ空中に静止したのだ。
あの瞬間が、攻撃のチャンスだ!
あの隙を狙うには、テディとレイニーでは遅すぎる。
ここは、サニーを使うしかないだろう。
ロゼッタは、トリを三体で追尾して攻撃の隙を窺う。
トリは、テディの攻撃を軽々と避け、レイニーの放水を避け、サニーの突撃も避けた!
次の瞬間!
トリは先ほどと同じように、風魔法を放つ準備に入った!
その瞬間、正面にサニーが割り込む!
しかし、突撃では間に合わない!
ロゼッタは突然、アカデミー時代を思い出した。
アカデミーの教官や、同級生達に馬鹿にされた思い出が蘇る。
彼女に対する罵声の言葉が、次々と聞こえてきた。
(何をしている! 火花すら見えんぞ!)
(なぜ、この程度のことができんのだ!)
(お前、なんで真面目にやらねぇの?)
(気持ち悪い!)
(お前は最弱だ! 最弱の魔術師だ!)
ロゼッタは、その全ての罵声を吹き飛ばすように叫んだ!
「うおおおおおおおおおおおおお!」
トリが風魔法を放とうとした、その瞬間!
ロゼッタは唱えた!
「ファイアーボーーーーーーーール!」
突然サニーの正面に大きな炎の玉が出現し、トリへ向かって突き進んだ!
トリも風魔法を発射!
炎と風、二つの魔法が衝突する!
次の瞬間!
風魔法が打ち破られた!
炎の球は高速で突き進み、トリに衝突!
ドーーーーーン!
空中で爆発が起こり、黒焦げになったトリが落下した。




