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第二十四話 仲間

 ロゼッタは少し聞き辛そうに、尋ねた。


「カミーリャは幽霊なのか?」

「!」


 カミーリャは、突然の質問に驚いた様子だ。

 しかし、彼女は笑いながら答えた。


「よく、そうやって噂されますが、違いますよ!」

「そうなのか? それじゃあ……」


 カミーリャは、爽やかに答えた。


「ボクは、ドールなんです!」

「ドール?」


 彼女は続ける。


「はい。パペッティアである、主人が作ってくださいました!」

「パペッティア!!」


 カミーリャの話によると。

 彼女はドールと呼ばれる、パペッティアの魔具らしい。

 彼女は大昔、この家の主人であったパペッティアの男に作られたのだそうだ。

 主人は約500年前に消息を立った。

 彼は家を出る直前に、ある言葉を言い残していったそうだ。


「いつか、世界樹の頂上を目指すパペッティアが訪れたら、助けてあげなさい」


 彼は、そう言い残して二度と戻らなかったそうだ。


 カミーリャとワンは、嬉しそうだった。

 主人の言いつけを守って、500年も待ったのだ。

 来るか来ないかも分からない客人を、ただひたすら待ち続けていたのだ。

 彼女達は、やっと報われたような気がしていた。


 突然、ワンが切り出した。


「それで、出発はいつにするよ?」

「ん?」


 二人も、冒険に付いて来るつもりなのだろうか?

 まあ、人数が多くて不都合なことはない。

 それに、二人はパペッティアの魔具なのだ。

 きっと、冒険の力になってくれるに違いない。


 クリフは、顎に手を当てて考えた。


「実は俺たち、大魔道士の大遠征に参加するつもりなんだ」

「何!? 大遠征?」


 ワンが、テーブルの上に飛び乗った。


「ダメだ、ダメだ! 王家はパペッティアの敵なんだぜ! そんなのに付いていけねぇよ!」


 カミーリャがワンを持ち上げ、抱き抱えた。


「パペッティアが大遠征に参加するのは危険です。少数精鋭で行きましょう」


 カミーリャは提案し、ワンを床に下ろした。


 クリフとカトレアは、ロゼッタを見た。

 大遠征に参加すれば、道中の危険は減るだろう。

 しかし、ロゼッタが王家に捕らえられる危険がある。


 ロゼッタは、心が沈んでいた。

 自分は、クリフとカトレアの足を引っ張っているのだ。

 自分がいなければ二人は心置きなく大遠征に参加し、安全に旅ができた。


 自分がいなければ……。

 ロゼッタが、そう思った瞬間。

 クリフが言った。


「よし、大遠征の参加は取りやめだ!」

「え?」


 ロゼッタは、クリフを見て言う。


「わたしが足を引っ張っているのなら、二人だけで行ってもいいんだぞ!」

「何をバカなことを言っているんだ」


 クリフは、呆れたような口調で返した。

 そしてカトレアが、ロゼッタの頭に優しく手を乗せた。


「前にも言ったでしょ。私たちは仲間なのよ」

「……」

「仲間を置いて行くことなんて出来ないわ」


 ロゼッタは目を潤ませていた。

 そんなロゼッタに、クリフが声を掛ける。


「少数精鋭だ!」


 クリフがニコリと笑い、親指を立てた。

 カミーリャとワンも、親指を立てる。


 ロゼッタは、みんなの顔を見渡した。

 みんな仲間なのだ。


 かつて、一人で泣いて過ごした日々が嘘のようだった。

 誰も彼女のことを理解してくれなかった日々。

 最弱だと否定され続けた日々。

 あんな日々は、もう過去のことなのだ。

 もう自分は一人ではないのだ!


 彼女は涙を拭いながら、満面の笑顔で答えた。


「みんな、ありがとう!」


 その後、みんなでお茶を飲んで談笑をした。

 そこは、とても温かい空間だった。

 ロゼッタは長らく、おばあちゃんと二人暮らしを続けていたのだ。

 なので、こんなに大人数でテーブルを囲ったことがなかった。

 彼女は思った。

 まるで本当の家族と過ごしているみたいだなと。


 その日の夜は、カミーリャ達の家に泊めさせてもらった。

 古い家だが、どこも傷んでおらず部屋も清潔だった。

 優秀なメイドが、常に家をメンテナンスしていたからだろう。

 お陰で三人は、ぐっすりと眠ることができた。




 明る朝、ロゼッタとクリフとカトレアの三人は酒場へ行く事にした。

 カミーリャ達の家には、食糧がなかったのだ。

 カミーリャは、申し訳なさそうに謝った。


「申し訳ありません。ボクとワンは食事をしなくても大丈夫だったもので……」


 二人は魔具なので、食事をしなくても生きられるのだ。

 三人は気にするなと言って、朝食を食べに街へ出た。


 どこの街でも、酒場は混んでいる。

 王都ともなれば、尚更だった。

 三人は酒場の空いているテーブルを見つけ、料理を注文した。


 最初に、飲み物が運ばれてくる。

 三人は、各々ジョッキを手に持った。

 クリフが音頭を取る。


「ひとまずは無事に王都まで辿り着くことが出来た。これまで、幾多の事件を乗り越えて、俺たちはここまできたんだ。これから先は更に危険な旅となるだろう。新たに二人の仲間も加わり、これからは益々……」


 カトレアが遮って、乾杯を叫んだ!


「かんぱ〜い!」


 ロゼッタとカトレアが、ジョッキを打ち合わせる。

 クリフは、話の腰を折られて呆然とした様子だ。

 ロゼッタ達は、そんなクリフともジョッキを打ち合わせた。


 そして料理が、たくさん運ばれてきた。

 カトレアが、奮発してくれたのだ。

 世界樹に入ってしまうと、あとは街らしい街がない。

 王国の前線基地があるのみだ。

 だから、しばらく豪華な食事は食べられなくなってしまう。

 三人は最後の豪遊だと思い、豪華な食事をがっついて食べた。


 そんな時、一人の老人が声を掛けてきた。


「こちらの席に、ご一緒させて頂いても構わないかな?」


 立っていたのは、白髪の老人だった。

 しかし、見た目は何だか若く見える。


 どうやら店が満席で、他に座る場所がないらしい。

 クリフは、困っている人を見ると断れない性格だ。

 彼は、自分の隣の席を勧めた。


「どうぞ、座ってください」

「ありがとう」


 老人は、礼を述べて座った。


「朝からずいぶん豪華な食事だね。私も何か頼もうか」


 老人は店員を呼び、料理を注文した。

 そして、クリフ達に尋ねた。


「君たちは冒険者なのかね?」


 三人が頷く。


「はい。俺たちはこれから世界樹の頂上を目指すんです!」


 すると、老人が。


「やめておきなさい!」

「え?」


 三人は、食事の手が止まった。

 老人は続ける。


「世界樹の頂上を目指すべきではない」

「……」


 三人は、目を見合わせた。

 突然の老人の発言に、三人は驚きが隠せなかった。

 冒険者が世界樹の頂上を目指すことを応援する者は多いが、引き止める者は珍しい。

 クリフが老人に質問した。。


「なぜお爺さんは、世界樹の頂上を目指すべきではないと思うんですか?」

「逆に君たちは何故、世界樹の頂上を目指すんだい?」


 老人は、質問に質問で返してきた。

 なんと偏屈なジジイだ。

 ロゼッタは、老人に答えた。


「わたし達は、世界樹の頂上にいる悪い魔王を倒しに行くのだ!」

「それが、間違っているのだ!」


 老人は少し、語気を強めた。

 三人は困惑していた。

 老人は、魔王を倒しに行くことが間違いだと言った。

 危険な場所に赴こうとする若者を、心配してくれているのだろうか。

 いや、もしくはこの老人…………魔王教団!


 三人の間に緊張が走っていた。

 すると、次の瞬間!

 老人は、驚きの発言をした。


「魔王など存在しない!」


 三人は、その発言に言葉を失った。

 この老人はいったい、何を言っているのだ。

 魔王がいない?

 老人のこの発言に、三人は更に困惑した。


 ロゼッタは、老人に言った。


「爺さん、ボケているのか?」

「いや、私の頭はハッキリとしている」

「……」


 老人は言った。


「国王は、魔王が存在しないことを知っていて嘘を付いているのだ」

「それってどう言う……」


 クリフが言いかけた時、店の外から悲鳴が聞こえた。


 キャアアアアアアアアアア!


 何事かと思い、一同立ち上がる。

 大通りをパニックになった人々が駆け回っているのが見えた。


「魔物だあああ!」


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