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第二話 こんな魔法


「用事が済んだら、絶対わたしの家に来いよ!」


 ロゼッタは、強く念を押して去っていった。


 クリフは、不用意な発言をしたことを気にしていた。

 彼女を怒らせてしまったのではないかと心配していたのだ。

 しかし、どうやら家には呼んでくれるらしい。

 読めない……彼女の心境が読めない。


 まあ、考えても仕方がない。

 クリフは、取り敢えず、村の老婆に荷物を届けることにした。


 老婆は、村の入口のすぐ近くに住んでいた。

 ロゼッタが事前に場所を教えてくれていた為、クリフは迷わず到着することができた。


 一人暮らしの老婆は、笑顔の明るい優しそうな人物だ。

 クリフが事情を伝えて荷物を手渡すと、大いに喜んでくれた。


 老婆は大変お喋りが好きな人で、クリフがよそ者であるのにも関わらず、村の近況を詳しく教えてくれた。

 村の悪ガキ三人組が町の魔法アカデミーに通い始めたこと、近所の爺さんが狩りで怪我をしたこと、今年の農作物の成長が芳しくないこと。

 老婆は、村の事ならば何でも知っていた。


 クリフは、先ほどのロゼッタの発言が気になっていた。

 この老婆ならば、ロゼッタのことも知っているのではないだろうか。

 そう思ったクリフは、思い切ってロゼッタのことを老婆に尋ねてみる事にした。

 すると……。


「あの娘に、会ったんだね……」

「はい。彼女は魔法が使えないと言っていましたが、それは一体どう言うことなんでしょうか?」

「ロゼッタはね、可哀想な子なんだ……魔法が使えないわけじゃないんだよ。ただ、みんなのように上手く扱えないだけなんだ」


 どうやら、ロゼッタは魔法が使えない訳ではないらしい。

 老婆曰く、ロゼッタは元々、皆と同じように魔法を操る素質を備えてはいるのだが、魔法の杖を使用した力の発動が出来ないのだそうだ。

 つまり、身体に魔法の力を宿してはいるのだが、その力を表に出す方法がほとんどないというのだ。

 老婆は、話を続けた。


「あの子はね、魔法を使おうとすると指先からこうね、ピューーーッと魔力が出てきてしまうんだよ」

「ん? なんです? ピューーーッ?」

「そうそうピューーーッ」


 なんなんだ、その変な擬音は。

 老婆は一生懸命にジェスチャーを交えて説明しようとしてくれているが、全く伝わらない。


「まあ兎に角ね、あの子は魔法が上手く使えなくて弱いんだ。最近は村を出て、冒険に行きたいなんて言っているようだけどね、あの子には無理だよ」

「……」

「お願いだから、あの子を外に連れ出そうなんて思わないでおくれよ」




 クリフは老婆に別れを告げ、村の奥にあるロゼッタの家へと向かった。

 ロゼッタの家は、林に囲まれた小さな石造りの家だった。

 庭先には、先ほど捕まえたイノシシが吊るされており、家の煙突からは、モクモクと煙が上がっている。

 外観は割と綺麗に手入れがされていて、住み心地は良さそうだ。


 クリフが家に近づくと、何やら子供の騒がしい声が聞こえてきた。


「ロゼッタ~! 出てこいよ! おれら、アカデミーでファイアーボール教わったぜ~」

「ロゼッタが使えない魔法、ついに使えるようになっちった〜」

「や~いや~い、見せてやるから出てこいよ~」


 どうやら、先ほど老婆から聞いた悪ガキ三人組らしい。

 ロゼッタが魔法を使えないことを知っていて、からかっている様子だ。

 弱い者いじめは良くない。

 クリフは悪ガキ三人組に近づき、やめさせようとした。


 その時!

 突然、地面に巨大な黒い影が差した!


 何者かが、空を覆ったのだ!

 クリフは、何事かと思って見上げてみる。

 すると、なんと空に巨大なバケモノが浮遊しており、こちらを睨みつけていたのだ!


「うわああああああああああああ!」


 悪ガキ達は驚いて、一目散に逃げ出してしまった。

 クリフは、戦闘態勢を取る!


 しかし!

 バケモノの様子がおかしい。

 先ほどから同じ位置にフワフワと浮いているだけで、何の動きもない。

 それによく見ると、このバケモノの体は藁で出来ているじゃないか。


 バケモノの身体の至る所からは、細い毛のような糸が飛び出していた。

 その糸の先を目で辿って行くと、全ての糸が一人の少女の手の中に集まっていた。

 少女は叫ぶ!


「どうだああああああああ! まいったかあああああああ!」


 どこから現れたのか、ロゼッタが浮遊するバケモノの下で右手を掲げて勝利宣言をしていた。

 クリフが近づくと、巨大な藁のバケモノはゆっくりと地面に着地する。


 バケモノの体から飛び出している糸をよく観察してみると、どうやらそれは魔力で出来た糸のようだった。

 それがロゼッタの指先から伸びて、バケモノの身体に繋がっていたのだ。


 なるほど、これがピューーーッか!

 クリフは納得して、ロゼッタに声を掛けた。


「なんだ、魔法使えるじゃないか!」


 するとロゼッタは、プイッとそっぽを向いた。


「こんな魔法が使えたところで意味ないだろ。何の役にも立たない」

「そんな事はないさ。こんなに大きなものを、宙に浮かせられるなんて凄い才能だ」


 クリフは言いながら、先ほどまでバケモノだと思っていた藁の塊を軽く叩いてみた。

 それを見て、ロゼッタが解説する。


「それは、中身スカスカのハリボテだぞ。カラスと、悪ガキを追い払う事くらいしかできない」

「立派な能力だよ。きっと何か良い活用方法があるさ」


 ロゼッタはクリフの言葉を聞きながら、藁のハリボテを足の裏で蹴り飛ばした。

 そして、ぼやく。


「わたしも、普通の魔法が使いたかった。こんな変な能力なんて嫌だ」

「普通の魔法か……」


 クリフは突然、顎に手を当てた。

 彼は、何かを考えている様子だ。

 そして、おもむろにロゼッタに語りかけた。


「ロゼッタ……実は俺もさ……」


 クリフが言いかけた瞬間。

 どこからともなく突然、しゃがれた声が聞こえてきた。


「お~~~い! 待たせたなぁ!」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 読んでいて、いや、十分素晴らしいよと、主人公の言うとおり活用方法考えればすごそうだよと。思わせる流れが素敵だと思います。本人が嫌がっている所作や発言もなんだか可愛いですね。好感の持てる話で…
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