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第二十一話 プレゼント

 旅の三人は、王都へ向けて更に北上していた。


 間もなく、石造りの巨大な橋が現れるはずだ。

 その橋は、大きな川の上に架けられている。

 その橋を渡ってしまえば、王都はもう目の前だ。


 三人は、街道沿いの岩の上に座って昼食を取っていた。

 彼らが食べていたのは、パンだ。

 しかし、ただのパンではない。

 薄いパンとパンの間に、肉と野菜とソースが挟まったパンだ。


 宿場町で売っているのを、カトレアが偶然見つけた。

 これは美味しくて、とても食べ易い。

 ロゼッタは、パンを飲み込み言った。


「このパンを発明したやつは天才だな!」


 ロゼッタはパンを、バクバクとあっという間に食べ切ってしまった。

 彼女は満足そうな表情をしている。


 すると彼女は突然、何かを思い出したように呟いた。


「発明品といえば!」


 ロゼッタは急に、自分の荷物を漁り始める。

 そして彼女は、荷物の中から何やら小さな道具を取り出した。

 木製で、Y字の形状をしている。

 Yの先端の二箇所は、何やらベルトで繋がれているようだった。


 クリフが、ロゼッタに尋ねる。


「それは、いったい何だ?」

「ふっふっふっ! これは、わたしの新発明。その名も……」


 ロゼッタは立ち上がり、Y字の道具を天に掲げて叫んだ。


「スリングショットだ!!」


 今度はカトレアが、ロゼッタに尋ねた。


「それは、どうやって使う物なの?」


 ロゼッタは、急にキョロキョロと辺りを見回し始めた。

 何かを探している様子だ。


 すると、彼女は一本の木に目をつけた。

 木は、約30m離れた場所にある。


 彼女は、木の上の方を指差して言った。


「あそこに、大きな果物が成っている!」


 彼女はそう言うと突然、地面から小石を拾った。

 彼女は、その小石をスリングショットのベルトに乗せる。

 そして、スリングショットを持った左腕を果物の方へと真っ直ぐと伸ばした。

 彼女はベルトを目一杯、自分の顔の横に向けて引っ張っている。


 クリフはそれを見て、ロゼッタと初めて出会った日を思い出した。

 彼女がベルトを引く姿が、あの日教えてもらった弓を連想させたのだ。


 次の瞬間。

 ロゼッタは、ベルトを引いていた手をパッと離した。

 すると、ベルトが収縮する反動で小石が前方へ勢いよく飛び出す!

 小石は真っ直ぐと飛んでいく!


 そして、すぐに衝突音が聞こえた。


 パンッ!


 音と共に、果物が地面にボトっと落ちた。

 どうやら、小石が命中したらしい。


 イノシシの脳天を射抜くような、少女なのだ。

 流石の射撃精度だ。


 クリフとカトレアは立ち上がって、ロゼッタに拍手を送った。


「すごいじゃないか!」

「すごいわ、ロゼッタちゃん!」


 ロゼッタは何やら得意げだ。

 彼女は、カトレアに近づいて言った。


「これは、わたしから姉さんへのプレゼントだ!」

「え!? 私に!」


 ロゼッタは説明した。

 このスリングショットは、単体でもまあまあ使えるものだ。

 だが、これをカトレアの能力と組み合わせれば、きっと更に強力になるはずだ。


 カトレアは今まで、攻撃用の木の実など手で投げていた。

 しかし手では、どうしても攻撃範囲が限定されてしまう。


 そこで、スリングショットを使用する事で、より早く、より遠くまで投げられるようになるのだ。

 カトレアの魔法攻撃の範囲が、グッと広がると言うことだ。


 カトレアは、ロゼッタからのプレゼントをまじまじと見つめていた。


「これ……わざわざ、私のために?」

「気に入ってもらえたか……?」


 ロゼッタは、不安そうにカトレアを見た。


「すっごく嬉しいわ! ずっと大切に使うね!」


 カトレアは、スリングショットを大切そうに胸に当てた。

 ロゼッタは、少し照れくさそうだ。


 カトレアは早速、小石を拾ってロゼッタのように撃ってみた。

 木を狙って撃つが、思ったように当たらない。

 なかなかロゼッタのようには、いかないものだ。


 するとカトレアは、ロゼッタをしっかりと見て言った。


「練習するね!」


 ロゼッタは、頷いた。


 クリフは、カトレアの持つスリングショットを観察してみる。

 細かいところまで、丁寧に作り込まれているようだ。


「ロゼッタは、手先が器用なんだな!」

「ふん! まあな!」


 ロゼッタが得意げになる。

 クリフは、一つ気になったので尋ねた。


「よく、材料を調達できたな。特にこの伸縮するベルト」

「お? それか?」


 ロゼッタは、材料の秘密を明かした。


「それは、ブタの魔物の皮膚だぞ!」

「なるほど! あの時の、ブタの皮膚か!」

「えぇ……あの、ブヨブヨの…………」


 クリフとカトレアは、驚いた様子だった。

 クリフは興味津々で、ベルトを見ている。

 カトレアは何やら、少し青ざめているようだった。


 三人は少し休憩した後、再び歩みを進めた。




 どこからか、水の流れる音がする。

 きっと川が近づいて来たのだろう。


 段々と、目の前に橋が見えてきた。

 随分と大きな橋のようだ。


 何やら、橋の手前には人だかりが出来ている様子だ。

 三人は取り敢えず、人だかりに近づいてみた。


「道を開けよ! 道を開けよ!」


 何やら、男の声が響いている。


 クリフは、近くにいた行商人を捕まえて何事か尋ねてみた。

 すると行商人が答えた。


「あれは、ロックウォール候さね」

「ロックウォール侯?」


 ロックウォール侯は、ここより西の町を治める領主だそうだ。

 今回の大魔道士の大遠征に参加するため、いち早く馳せ参じたと言うことらしい。

 各地の領主も参加するとなれば、これは思っていたよりも大規模な遠征なのかもしれない。

 国王が本気で、魔王討伐に向けて動き出している事が伺える。


 クリフは、群衆の後ろから兵士の大行進を眺めてみた。

 すると隊列の中に、竜に跨った大男が見えた。


 白髪混じりの男だったが、その眼光は凄まじい輝きを放っていた。

 彼は非常に堂々としており、その姿は豪傑の雰囲気を身に纏っている。

 そのことから、一目で彼がロックウォール侯であることが分かった。


 カトレアが言った。


「竜に騎乗していたわね。あれも魔物かしら?」

「ああ、恐らくアースドラゴンだ。あんなものを飼い慣らしているのか……」

「見えない!」


 ロゼッタは背が低い為、兵士たちの行進が見えないようだ。


 ここに集まった群衆は、橋を渡ろうとしていた冒険者や商人のようだった。

 どうやら、ロックウォール侯の一行が渡り切るまでは一般の人々は橋を渡れないらしい。

 ロゼッタ達も、しばらくここに足止めされる事になった。


 少し離れた橋の中腹を、ロックウォール侯がゆっくりと進んでいるのが見える。

 その時。


「何者だ! 道を開けよ!」


 橋の中腹から、兵士の声が響いた。

 声のした方向に目をやると、橋の中腹に誰かが立ち塞がっているのが見えた。

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