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第二十話 フルパワー

 ロゼッタの背後に、その女はいた!

 女はロゼッタの首を左腕で、がっしりと絞めた。

 右手に持った魔法の杖を、ロゼッタの頭に突き付ける!


「もらった!」


 女が叫ぶと、ロゼッタは握っていたナイフを女の右腿に突き刺した!


「イッタアアアアッ!!」


 女は、悲鳴をあげた。

 ロゼッタは、女が怯んだ隙に後頭部で女の顔に打撃を入れる!

 女の腕が緩んだ隙に脱出し、すかさず近くにあった酒瓶を投げつけた。


 しかし、女は再び魔法で姿を消してしまった。

 投げつけた酒瓶が、壁に当たって砕け散る。


 再び、女を見失ってしまった。

 今回の攻撃はなんとか切り抜けたが、恐らく次は無い。

 何処からか、女の声が響く。


「次は確実に殺す!」


 ロゼッタは一度、深呼吸をした。

 そして、心を整えてから言い放った。


「分かった! ならば、わたしも本気を出させてもらうぞ!」


 ロゼッタは両手のひらの指を目一杯広げ、地面に向けた。

 静かに目を閉じて、姿勢を低くする。


 何処からか再び、女の声が響いた。


「なんだ? ハッタリか?」


 女がそう言った、次の瞬間!


「ん?」


 部屋の小物が、ガタガタと揺れ始めた。


 そうかと思うと、今度は全ての小物がゆっくりと空中に浮き上がった。

 酒瓶、グラス、皿、本、観葉植物。

 あらゆる小物が浮き上がった。


 いや、小物だけではない。

 なんと、椅子やテーブルなどの家具まで、全てが空中に浮き上がったのだ!


「なんだ!?」


 女は動揺する。


 ロゼッタは、そのまま両手を天井に掲げて叫んだ!


「フルパワアアアアアアアアア!!」


 ロゼッタがそう叫ぶと、空中に浮遊した小物と家具が彼女を中心に回転し始めた。

 部屋中のあらゆる物が、まるで竜巻のようにグルグルと回転し始める。


 ガツッ! ガツッ! パリンッ! ガツッ!


 透明な女に、次々と物がぶつかる!

 物の回転速度は、どんどん上昇していく。

 部屋の中は、まるで嵐の真っ只中だった。


 透明な女は、身動きが取れない!

 それどころか、透明魔法を維持できない。

 超高速で、物がぶつかって来るのだ。

 魔法に集中できない。


 「イヤアアアアアアアアアアアア!」


 女の頭に連続で、酒瓶や皿が命中する!

 今度は、背中に椅子が命中する!

 女はしゃがみ込むが、逃れられない。


 ガツッ! パリンッ! パリンッ! ドンッ!


 女は物が当たる度、傷だらけになった。

 大きな家具が当たると、血反吐を吐いた。


 この嵐の中にいたら、死んでしまう!

 女は脱出を試みる!


 そうして彼女が、顔を上げた瞬間!

 超高速で飛んできたテーブルが、彼女に命中した!


 ドーーン!


 彼女は吹き飛ばされ、意識を失った。


 ロゼッタは掲げていた腕を、ゆっくりと下ろす。

 すると、空中に浮いていた物が全て床に落下した。


 彼女は膝をつき、息を整えた。

 フルパワーを出し切ったので、体力を消耗し切ってしまったのだ。

 彼女はゆっくりと立ち上がり、ふらつきながら二階の部屋へ戻っていった。




 部屋の中では、クリフとカトレアが眠っていた。

 先ほど女が差し入れたバスケットの中に、催眠魔法を発動する仕掛けがあったのかもしれない。

 ロゼッタはレイニーを握りしめ、クリフの顔に水鉄砲を掛けた。


「ンオッ!? ゴホッゴホッ!」


 クリフは、目を覚ましたようだ。


「お、俺は食べてないぞ!」

「何を寝ぼけた事を言っている!」


 ロゼッタはカトレアをそっと起こし、二人に状況を説明した。

 状況を把握した二人は、ロゼッタと共に一階のラウンジへと降りて行く。


 そしてロゼッタは、メチャメチャになった部屋を確認した。

 しかし、どうした事だろう。

 先ほどまで倒れていた女の姿がない。

 また、透明化したのだろうか。


 いや、そうでは無さそうだ。

 床に引きずられて付いた、血の跡がある。


 自力で逃げ出したのか、誰か協力者がいたのか。

 それは分からないが、どうやら女は裏口から出ていったようだ。


 外は雨が降っていて、様子が分からない。

 あまり深追いは、しない方がいいだろう。


 ロゼッタは気が抜けて、その場で倒れてしまった。

 クリフが抱きかかえ、三人は二階の部屋へと戻って行った。




 明くる日の朝、三人は騎士団に事件の報告をしてから街を出発した。


 ロゼッタは、昨日の女の事を思い出していた。

 あの女は病気だと言っていた。

 その治療の為に、魔王教団に入信したのだろうか。

 そうだとすれば、とても悲しいことだ。


 ロゼッタはこの街で、図らずも世の中の歪みを目撃してしまった。

 それもこれも全ては、世界樹の頂上にいる魔王のせいなのだ。

 彼女は、間近に迫ってきた世界樹を睨み付けた。


 これ以上の悲劇は生ませない!

 必ず、自分達が魔王を倒す!


 彼女は、そう心に誓った。

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