表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/94

第十九話 透明人間

 カトレアは、窓の外を眺めていた。


「雨ね……」


 昨夜から降り続く雨で、三人は宿場町の宿に足止めを食らっていたのだ。

 王都までは遠くないが、雨の日の旅は危険だ。


 三人は暇だったので、同じ部屋に集まっていた。

 しかし、集まっただけで各々自分の時間を過ごしていた。


 クリフは、珍しく本を読んでいた。

 全く柄にもないことをしている。


 カトレアは、窓の外を眺めながら考え事をしているようだった。

 やはり、あの不気味な魔物の事が気になっているのかもしれない。


 そして、ロゼッタは何やら小さな机の上で作業をしていた。

 ナイフで、木を削っている様子だ。

 何かを作っているのだろうか。


 ロゼッタは一度手を休めて、椅子に座ったまま大きく伸びをした。

 そして、クリフの方に目をやる。


「何を読んでいるのだ?」


 クリフは本から目を上げて、ロゼッタの方を見た。


「下のラウンジにあった本さ。冒険者の物語だな」

「お前は、本を読むイメージが無かったのだが意外だな」


 クリフは、それは心外だとでも言いたげな様子だった。


「俺だって本ぐらい読むさ。幼い頃は、叔父さんに沢山読ませられた」

「そうなのか?」


 クリフは、自身の昔話をしてくれた。

 実はクリフも、幼い頃に両親を亡くしていた。

 クリフの両親は生物学者で、主に魔物の生態を調査していた。

 彼らは不運にも、生態調査の最中に魔物に襲われて命を落としたのだ。


 その為、クリフはずっと親戚の叔父さんの家で育てられた。

 叔父さんは叔父さんで天才的な魔法学者であり、優秀な魔術師だった。


 今のクリフを見ていると俄には信じ難いが、彼の一族は大変博識な人達だったのだ。


 一族は皆優秀だったが、クリフは生まれつき魔力が弱かったのだそうだ。

 その為ロゼッタと同じく、魔法の杖を使用した魔法の発動ができなかった。


 クリフが現在使っている肉体強化魔法は、クリフの叔父さんが独自に編み出してくれたものらしい。

 それで叔父さんには大変な恩があるらしく、足を向けて寝ることが出来ないと言うのだ。


「ふ〜む。お前も苦労をして来たのだな」

「まあな」


 コンコンコンッ


 誰かが、ドアをノックしている。

 クリフは、自分が出るよと皆を制した。


「はい」


 クリフがドアを開けると、ローブを羽織った女性が立っていた。

 何やら見覚えがある。

 そうだ! 昨日、酒場で出会ったロゼッタの同級生だ。

 彼女は、笑顔で挨拶をした。


「こんにちは! ロゼッタいますか?」


 ロゼッタが、奥からチラッと顔を覗かせる。


「ゲッ 何しに来た!」

「ひどーい! 同級生と、お話しをしに来たに決まってるじゃない!」


 ロゼッタはプイッと、そっぽを向いた。

 同級生の女は、お土産に持ってきたお菓子のバスケットをクリフに手渡す。


「皆さんに食べてもらいたいなーと思って、お菓子を焼いてみました!」

「これはこれは、ご丁寧に」


 ロゼッタはムスッとした顔で、それを見ていた。


「わたしは、特に話す事などないぞ!」


 クリフが、ロゼッタをなだめる。


「まあまあ、折角なんだし四方山話でもすればいいじゃないか」

「ロゼッタとお話ししたいな〜」


 言われてロゼッタは椅子から降りた。

 そして、冷たい表情で同級生に歩み寄った。


「三分で終わらせるぞ」

「わ〜い」


 二人は宿の下の階にある、小さなラウンジへと降りて行った。

 ラウンジには、幾つかのテーブルと椅子が設置してある。

 更に小さなバーカウンターが付いており、お酒や軽食も楽しめるようだ。

 しかし、今は誰もいない様子だった。

 同級生の女は、はしゃぐ。


「やった! 静かに話せるね!」


 女は、椅子に座った。

 ロゼッタも冷たい表情のまま、椅子に座る。

 二人は、小さな丸テーブルを挟んで向かい合った。

 すると……。


「ん?」


 ロゼッタは、同級生の袖口から気になるものが見えた。

 赤い石?


「おい、お前、手を怪我しているのか?

「うん。これね……病気なの」

「え……」


 ロゼッタは、少し申し訳ないことを聞いたと思った。


「大丈夫なのか?」

「うん! 全然平気だよ! 治療法も見つけたんだ!」

「そうなのか……」


 ロゼッタは安堵した。

 すると、同級生は続けた。


「私ね! 全然、見当が付かなかったの!」

「?」

「あんまり身近な人だと、足が付くでしょ」

「ん? 何を言っているのだ?」


 先ほどまで笑顔だった同級生の表情に、陰りが差した。


「私ね、せめて貴女にはお別れを言いたかったの」

「……」

「だって同級生だからね!」

「なあ、お前さっきから何を……」


 ロゼッタが、言いかけた瞬間!

 同級生の女は突然、魔法の杖を抜いてロゼッタの顔に向けた!

 彼女は、ゆっくりと椅子から立ち上がる。


「ごめんね……ごめんね……」

「!!」


 女は杖先に禍々しいエネルギーを溜め、ロゼッタに向けて放った!

 その時!


 女の顔に、何かが衝突した!

 ワインボトルだ!

 ロゼッタが、魔力の糸でバーカウンターから投げ飛ばしたのだ。


「ブホッ!」


 ワインボトルは女の顔面に命中し、割れた。

 辺りには、ワインが飛び散る。


 女が発射した闇魔法は、狙いがズレてロゼッタをギリギリ外れた!

 ロゼッタは、丸テーブルの下に潜り込む。

 そしてテーブルの脚を掴んで持ち上げ、怯んでいる女の腹に思いっきりぶつけてやった!


 女は、勢いよく後方に転ぶ!

 それを確認して、ロゼッタが叫ぶ!


「クリフ! 姉さん!」


 すると、転んだ女が立ち上がりながら言った。


「アイツらは今頃、部屋でネンネしてるよ」

「なに!」


 ロゼッタは、先ほど女が手渡したお菓子のバスケットを思い出した。

 この女、バスケットに何か細工をしていたに違いない。


 ロゼッタは、テディとレイニーを部屋に置いてきた。

 完全に、丸腰の状態だ。

 ここは、魔力の糸を使って切り抜けるより他にない!


 ロゼッタはひとまず、近くにあった酒瓶を二本宙に浮かせた。

 女はロゼッタを睨む。


「お前、魔法が使えないんじゃなかったのかよ!」

「なぜ、こんな事をするんだ!」


 ロゼッタが問うと、女は羽織っていたマントを脱いだ。

 酒場で着ていた露出度高めの衣装があらわになる。

 すると女は、杖の先で自分の胸元を指し示した。

 そこには、なんと見覚えのある刻印が刻まれていた。


「魔王教団よ!」


 ロゼッタは、女が魔王教団だと分かると問答無用で酒瓶を投げつけた。


 女は飛んでくる酒瓶を、闇魔法で即座に撃ち落とす!

 そして、今度は逆に反撃をした。


 女が放った闇魔法が、ロゼッタをかすめる!


 ロゼッタは、バーカウンターまで走って身を隠す。

 身を隠したまま、取り敢えず目についたものを投げまくった。

 しかし、ぬいぐるみと違って標的の捕捉ができない。

 投げた物のほとんどが、女に当たらなかった。


 女は鼻で笑い、バーカウンターに杖先を向けた。

 すると、女の背後からテーブルが飛んできた。

 背後を油断していた女は、驚いて転ぶ!


 その隙を突いて、ロゼッタが飛び出す!

 手にはバーカウンターで見つけた、小型のナイフを持っている。

 彼女が転んでいる女に向かってナイフを振りかぶった、次の瞬間!


「インビジブル……」


 女はそう唱えると突然、姿を消した。

 ロゼッタは驚いた。


 ロゼッタは警戒する。

 恐らく、これは闇魔法の類だ。

 魔法で姿を消しているに違いない。

 つまり女は今、透明人間になっているのだ。


 バーカウンターの棚から酒瓶が落ちる音がして、一瞬驚く。

 ロゼッタは周囲を見渡してみるが、女の気配が感じられない。

 しかしきっと、女は何処かにいるはずだ。

 いったい何処に?


「ここだよ!!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ