第十六話 宿場町
旅の三人は、街道沿いの宿場町を訪れていた。
東西南北に伸びた道が、街の中心で交わっている。
この街は交通の要所らしい。
王都に近いこともあって、人が多く賑やかな街だ。
この街は、王都に向かう冒険者や商人が通るため宿泊施設が充実していた。
中には、騎士階級や大商人が泊まる豪華な宿もあった。
そして宿場町だけあって、何やら怪しい雰囲気の店も存在している様子だった。
時折道端で、かなり露出度の高い女性を目にするのだ。
ロゼッタは、そういう女性と目が合う度に赤面した。
彼女は、落ち着かない様子だ。
「な、なんだ……この街は」
カトレアは、真面目な顔つきで答えた。
「住む場所を失った子達が、身売りに出されてるのよ」
魔物の襲撃により、家も財産も失った人は多い。
そう言う人達が新たに職を探すとなれば、それは大変なことだ。
生きるためには、何だってやらなければならないのだ。
泣く泣く、家族を身売りに出す人だっているかもしれない。
これは、悲しいことだ。
三人は取り敢えず、冒険者が集う酒場で食事をすることにした。
ここは、各地から冒険者が集まっている。
なので、色々と有益な情報が聞けるかもしれない。
酒場は、昼間だと言うのに大変賑わっていた。
三人はテーブルに付き、料理と飲み物を注文する。
隣の席には、随分と声の大きい二人組の客がいる。
酔っ払いだろうか。
「今度こそ、王様は本気で魔王を倒すつもりでしょ!」
細身の男が言った。
すると、一緒に座っていた太った男が返した。
「いや! 無理だね!」
太った男は続ける。
「前に、最強の魔術師とか言われてた奴が世界樹に挑んで死んだろ!」
「いや、今回は、国一番の大魔道士様だよ!」
「いや、無理だね!」
何やら二人は、押し問答をしている様子だ。
細身の男が言う。
「じゃあ、兄貴は大遠征に参加しないのかよ?」
「いや、それとこれとは別の話よ!」
どうやら、隣の二人も冒険者らしい。
太った男が言った。
「魔道士様が、魔王を倒せるのか、後ろにくっ付いて行って様子を見るのよ!」
「えぇ〜」
「魔王をヤレそうだったら、一緒にヤル!」
「ずりぃ〜」
「無理そうだったら、魔道士様を拉致って身代金を要求する!」
「ひっでぇ〜」
「ガッハハハハハハハハハッ!」
隣の男達は冗談なのか、本気なのかが分からない話をしている。
まあ、冒険者全員が高尚な理念を持って冒険をしているとは限らないと言うことだ。
隣の話を聞いているうちに、飲み物が届いた。
「お飲み物、お待ちどうさまで〜す!」
店員さんが、三人の前にジョッキを並べる。
ロゼッタは、店員さんの方を振り向いた。
すると突然、ロゼッタは顔を赤らめた!
店員さんの露出度が高い!
服の胸元が大きく開いており、スカートも短い!
ロゼッタは、急に緊張して焦った。
「あの! あの! ありがとうございます!」
彼女は、あたふたしながら感謝を述べた。
すると……。
「もしかして…………ロゼッタ?」
「え!」
店員さんは、ロゼッタのことを知っているようだ。
しかし、ロゼッタの方は見覚えがない。
「えーと、誰だっけ……」
「ひどーい。同級生だよ、忘れたの!」
また同級生かよ。どこにでも現れやがる。
ロゼッタは、そう思った。
「なんでロゼッタが、この街に?」
「わたしは、これから世界樹の頂上に行くのだ!」
「えっ! ロゼッタが?」
同級生の女は、驚いている様子だ。
「何か、おかしいか?」
「いやー、あの最弱と言われたロゼッタがね〜」
何だ、感じの悪い奴だな。同級生なんて、こんな奴ばっかりだ。
ロゼッタは、そう思った。
すると、近くの席の客から声が掛かった。
「ねえちゃん! 注文お願い!」
「は〜い!」
同級生の女は、ロゼッタに軽く手を振ってから別の客の注文を取りに行ってしまった。
ロゼッタは、歯を食いしばって女を威嚇する。
クリフが、笑顔でロゼッタを見ていた。
ロゼッタは睨み返す。
「なんだ?」
「いや、ロゼッタは有名人なんだな」
「うるさい!」
全く、クリフというやつは配慮に欠けている。
鈍感とでも言うべきか。
あんな奴らの間で、有名人であっても嬉しいわけがなかろう。
ロゼッタはそう思い、クリフに対してイラついた。
そんな会話をしていると、急に外の方が騒がしくなってきた。
何やら騎士団らしき人達が、ぞろぞろと街の外へと向かって走っていく。
何かあったのだろうか?
ロゼッタ達が様子を伺っていると突然……。
ドン!
酒場の入り口から、冒険者らしき人物が扉を勢いよく開けて飛び込んできた。
「おい! 街のはずれで魔物が現れたってよ!」
それを聞いて、酒場の中にいた冒険者達が次々と席を立った。
そして、続々と店の外へと出ていく。
カトレアが、その様子を見て言った。
「私達も、行きましょう!」
「え! でも、俺が注文したチキンがまだだ!」
クリフは、駄々をこねた。
あれだけ沢山の騎士団と冒険者が向かったのだ。
だから、自分たちの出る幕は無いはずだ。
クリフは、そう言いたげだった。
しかし彼は、カトレアに襟元を掴まれて泣く泣く引きずられて行ってしまった。
ロゼッタは、その後ろを付いて行った。




