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第十五話 精霊さん

 よく晴れた日だ。

 草原の緑が、太陽の光で鮮やかに映る。


 旅の三人は、草原に生えた一本の木の下で休憩をしていた。


 クリフが周辺から、枯れ草と木の枝を集めてくる。

 それを一箇所にまとめる。

 カトレアが一本の枯れ草を摘むと、草に火がつく。

 火は次第に燃え広がり、枝に燃え移る。

 これで、焚き火の完成だ。


 ロゼッタが、焚き火でフライパンを温めていた。


「あっ! そういえば、肉はどうやって調達するんだ?」


 ロゼッタは、今まで弓で狩りをしていた。

 彼女は弓で動物を狩る以外に、肉の調達方法を知らなかった。

 すると彼女の質問に、クリフが真顔で答えた。


「襲ってきた動物を、返り討ちにする!」

「この脳筋め!」


 クリフもカトレアも、接近戦に特化した魔術師だった。

 唯一、ロゼッタだけがパペッティアの力で遠距離攻撃ができた。

 しかし、白昼堂々とこの力を使うわけにはいかない。


「うーむ、肉なしか……」


 ロゼッタは落ち込んだ。

 すると、クリフがおもむろに自分の荷物を漁り出した。


「そういえば、ジージから貰ったイノシシ肉があるぞ!」

「ゲッ! それ、もう三日以上経っているが、大丈夫か?」


 ロゼッタは、虫の湧いた肉が出て来るのではないかと身構えた。

 しかし、クリフが取り出したのは想像とは全く別の代物だった。

 なんと、肉が凍ってカチコチになっていたのだ。

 クリフは、カトレアを見ながら言った。


「カトレア姉さん様様だ!」

「おぉ! いや、でも待てよ……どうやって保管していたんだ……」


 クリフは多くを語らなかった。

 こいつも大概、謎の多い男だ。


 三人はイノシシ肉を焼きながら、色々な話をした。

 ジージが言っていたパペッティアのことも、二人には打ち明けた。

 これから王都に近づくほど、この力は使いずらくなるだろう。

 ロゼッタは、二人の足手まといになることを心配していた。

 しかし、当の二人は特に何も問題を感じていない様子だった。


「それにしても、遠距離魔法を使えないと言うのは不便だな……」


 ロゼッタは、肉をかじりながら、しみじみと思った。

 クリフは別として、狩りをするときなどは遠距離から攻撃できた方が便利だ。

 何か良い方法はないだろうか……。


 ロゼッタは、考えながら遠くの景色を見た。

 この先も、しばらく草原が続いているようだ。

 彼女は、何か動物でも歩いていないかと探してみた。

 すると……。


「ん?」


 誰か、向こうから歩いて来るようだ。

 旅の者だろうか。

 ロゼッタは、じっと目を凝らして見た。


 すると突然、ロゼッタが大声を出した!


「魔物だあああああああ!!」

「なに!!」


 クリフとカトレアが立ち上がり、ロゼッタの指差す方向を見た。

 なにやら、人間の姿をした生き物が近づいて来る。

 輪郭は人間そっくりだが、良く見ると体から大量の草が生えている。

 肉体は、土で出来ているようだった。

 その生き物を見て、クリフが突然呟いた。


「なんだ……」


 クリフはそう言い、カトレアも警戒を解いた。

 ロゼッタは、二人が警戒を解いたことに対して驚いた。

 今まさに、不気味な生き物が接近して来ているのだ。


 すると今度は、クリフがその謎の生き物に向かって歩き出した。


「えっ……クリフ……」


 ロゼッタは、心配して見ていた。

 クリフと謎の生き物は、徐々に距離を詰めていく。

 接触まで、あと数メートルの距離まで来た時……。

 クリフが声をかけた。


「やあ、こんにちは!」


 クリフはそう言うと、謎の生き物にハグをした。

 謎の生き物もクリフを抱きしめ、背中をポンポンと叩いている。

 ロゼッタは、その生暖かい不気味な光景を見て怖がっていた。


「姉さん……あれなに?」

「あれはね、精霊さんよ」

「精霊さん?」


 精霊さんは自然界に住んでおり、本来人の目には見えない存在だ。

 しかし時々、土などを依代として人の形をとって現れることがある。

 そうやって、人間に挨拶をしに来るのだ。

 基本的に、人間に対して敵意はない。


 クリフと精霊さんは、お別れの挨拶をしてお互いに手を振っていた。

 ロゼッタは今まで、精霊さんを見たことがなかった。

 どうやら、精霊さんは人通りの多い街道沿いなどに現れやすいようだ。


 それにしても不気味すぎる。

 夜道で出会ったら、失神してしまいそうだ。


 三人は荷物をまとめて、再び歩き出した。

 するとクリフが、ロゼッタをからかった。


「精霊さんが怖かったのか?」

「別に怖くないぞ……」

「ロゼッタは幽霊とか苦手そうだな」

「別に苦手じゃないぞ……」


 ロゼッタの様子から察するに、恐らく苦手なのだろう。

 クリフは、面白がって続けた。


「王都の、若い女幽霊の話を知っているか?」

「……」

「王都には、何百年も見かけの変わらない若い女が住んでいるって噂だ……」

「……」

「その女は、夜な夜な子供の血を吸って若さを保ってるって話だ!!」

「もういい! クリフのバカ!」


 ロゼッタは、怒って先に行ってしまった。

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