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最弱魔術師のパペッティア  作者: がじゅまる
サブストーリー2
17/94

カトレアの囮捜査1


 ––これは、クリフがロゼッタの村を訪れている間に起こったお話。


 カトレアは、クリフと別れてすぐに町の広場を見て回っていた。

 この町は、たくさんの冒険者が訪れている。


 そしてそれと同じくらい、いやそれ以上にたくさんの商人も訪れていた。

 そのため、この町の市場は人やモノが頻繁に行き来し大変賑わっていた。


 カトレアは、市場の珍しい品々に目を奪われた。

 しかし、残念ながら見て回るだけだ。

 カトレア達は文無しで、その日暮らしをしていたのだ。


 市場には素敵なアクセサリーや、美味しそうな屋台飯があるというのに、お金がなくては何もできない。

 カトレアは欲望を刺激する品々を目の前に、指を咥えて見ていることしかできなかった。

 それが大変悔しかった。


 そんな時……。


「ひったくりよ!! 捕まえて!」


 どこからか、女性が叫ぶ声がした。

 すぐに、周辺の騎士団が動きだす。

 騎士団の隊員が魔法の杖を抜いて、逃げる犯人に杖先を向ける!


 しかし、魔法が撃てない!

 周囲に、あまりにも人が多すぎる。

 ここで魔法を使ったら、周りの人達を巻き添えにしてしまう危険がある。

 そうこうしているうちに、犯人は人混みに紛れて逃げていく。


 犯人は逃げ切ったと思い、口元に笑みを浮かべていた。

 その時!


「失礼~」


 誰かが、すれ違いざまに犯人の肩に軽く触れた。

 それは誰か。カトレアだ。

 犯人は突然、足がもつれてその場で盛大に転んでしまった。

 見たところ、痙攣して動けなくなっている様子だ。


 そこへ、すぐに騎士団が駆けつけて動けなくなった犯人を拘束した。


 カトレアは、現場を見届ける。

 そして、良い事をしたなと思いながら、静かに広場を立ち去ろうとした。

 すると突然、彼女の後方から若い男が声を掛けた。


「犯人を捕まえてくださったのは、貴方ですね!」


 カトレアの背後に、銀髪の青年が立っていた。


「え! あなたどこから……」

「見ていましたよ! 貴方、不思議な魔法を使いましたね!」

「えー、まあ偶然、捕まえちゃっただけよ。大したことはしていないわ」

「お願いがあります。どうか我々に、貴方の力を貸して頂けないでしょうか!」

「え?」




 その後カトレアは、銀髪の青年と共に魔法騎士団の支部に来た。

 銀髪の青年は、ラークと名乗った。

 そのラークが力を貸してくれと、あまりにもしつこかったのだ。

 なので話だけでも聞いてみようと思い、付いてきた。


 目の前のテーブルには、お茶とお菓子が用意されていた。

 向かい側には、黒髪で眼鏡を掛けた女性が座っている。

 彼女は、丁寧に挨拶をした。


「小隊長のハル・レオンハートと申します」

「カトレアよ。よろしく!」

 

 カトレアは、爽やかに返事をした。

 ハルは、カトレアにお茶を勧める。


「うちの隊員が強引にお連れしたようで、大変申し訳ございません」

「大丈夫、気にしてないわ。ところで私に何のご用なのかしら?」


 ハルは、真剣な表情でカトレアを見つめた。


「貴方が、杖を使わずに魔法を使うことが出来るというのは本当ですか?」

「ええ、まあね。生まれつきなの」

「私達は、貴方のような才能を探していました」

「え?」

「単刀直入に言いましょう。貴方に、おとり捜査を手伝って頂きたいのです」


 カトレアは、突然のハルの依頼に困惑した。


 ハルの話では、町で密かに人身売買を行なっていると疑われている人物がいるのだそうだ。

 その人物は大商人で、この町の名士でもある。


 近年、魔物の襲撃で家を失った人々が難民となっていた。

 その難民が職を求めてこの町に集まっているのだが、彼らから行方不明届が多数届いている。

 家族にも行き先を告げずに、失踪する事件が多発しているのだ。


 彼らの中には、生活に困って闇の仕事に手を出す者もいる。

 その闇の求人の一つが、大商人の邸宅での秘密の仕事なのだ。

 確かな話ではないが、失踪した者の多くが最後に大商人の邸宅周辺で目撃されている。


 騎士団はそれらしき求人の存在は掴んでいるのだが、これだけでは証拠にならない。

 確証を得るためには、実際に囮を使った捜査が必要と言うわけだ。


 そこでカトレアに囮になってもらい、真相を暴く手伝いをして欲しいとハルは説明した。


 カトレアが選ばれた理由の一つは、魔法の杖無しで魔法の使用が出来るため。

 もし、杖を奪われても身を守ることが出来るからだ。


 そしてもう一つは、ラークが見抜いたその強さ。

 危険な任務になるので、できれば強い人間に依頼したいと思っていた。

 しかし……。


「お断りします!」


 カトレアは即答した。


「そんな危険な任務、軽々しく引き受けられないわ。ツレとの約束もあるし……」


 ハルは、表情を変えずにラークを呼んだ。

 ラークは、何やら袋を持っている。

 ハルは、カトレアに対して静かに告げた。


「もちろん、タダでとは言いません。報酬はお支払い致します」


 ラークは、持っていた袋をテーブルに置いた。

 袋はテーブルに置かれると同時に、ジャリジャリと金属音を響かせた。

 カトレアが、袋の中を覗いてみる。

 すると中には、みっちりと銀貨が詰まっていた。

 これだけあれば市場で気になったものは何でも買える上に、いくらでも豪遊できそうだ。


「どうです? ご検討頂けないでしょうか?」

「……」

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