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第十四話 町の英雄

 ロゼッタ達が宿から出ると、見た事のある黒髪の女性が立っていた。

 騎士団の小隊長ハルだ。


「皆様。朝早くに押しかけてしまった御無礼をお許し下さい。出発される前に是非、ご挨拶をしたいと思いまして……」

「ケッ、お前かよ!」


 ロゼッタが悪態をついた。

 クリフが、ロゼッタを諌めながら尋ねた。


「村は大丈夫なのか?」

「ええ、現在既に物資の搬入が始まっております」


 村が襲われてまだ二日目だと言うのに、そんなに早く動いているのか。

 クリフは、ハルの優秀な仕事ぶりに驚いた。

 するとハルは、改めて三人を見た。


「皆様。数々の事件の解決にご尽力頂きまして、本当にありがとうございました」

「いや、全部まぐれで解決したのさ」


 クリフは、あたかも大した事なさそうに言った。

 ハルは続ける。


「騎士団からは何もできないのですが、我がレオンハート家からの心ばかりのお礼です。どうか受け取って下さい」


 そう言って、ハルは銀貨の入った袋を差し出してきた。


「あら、別に気にしなくてもいいのに!」


 言いながら、カトレアは袋を預かった。

 そして、ハルは更に続ける。


「皆様は、これから世界樹の頂上を目指すのですね?」

「そうだが」

「それであれば是非、大魔道士様の大遠征にご参加ください」

「大魔道士?」


 三人は、ハルが言っていることが理解できなかった。

 ハルは補足説明をする。


「まもなく、我々の王国は建国500年を迎えます。国王陛下はそれに合わせまして、国一番の大魔道士様を中心とした大遠征団を世界樹に派遣する予定です」


 皆は静かに聞いている。


「国王陛下は、昨今の国内の情勢を受けて、魔王討伐に本腰を入れるおつもりです。きっと、あなた方のような強い冒険者の力を求めていることでしょう」

「なるほど、その遠征に参加すれば道中が楽になるということだな!」


 ロゼッタが、納得したと言わんばかりに頷いていた。

 ハルが言いたかったことは、以上のようだった。

 彼女は一通り話を終えると、三人に対して丁寧なお辞儀をして別れを述べた。


「それでは、皆様の旅の安全をお祈り致しております!」


 それを聞いて、クリフとカトレアは宿の中へと戻って行った。

 ロゼッタも二人の後を追う。

 その時。


「ロゼッタ!」

「?」


 ロゼッタが振り返ると、ハルがこちらを見ていた。


「ロゼッタ。王の猟犬は今、王都を留守にしています」

「え!?」

「道中、気をつけて……」


 ハルは言い残すと、去っていった。




 三人は旅の準備を済ませると、町の北門へと向かった。

 北門の先は、王都に通じる街道だ。


 ロゼッタは、先ほどハルが言っていたことが気になっていた。

 ハルは、ロゼッタの秘密を知っている様子だった。

 ロゼッタが考えながら歩いていると、カトレアが声をかけてきた。


「ん? 緊張してる?」

「え、いや、そうじゃなくて……」


 するとクリフは、ニヤニヤしながらロゼッタを見た。


「やっぱり、朝食が足りなかったんだな!」

「違うわ! バカ!」


 北門が近づいてきた。

 流石に王都へ通じる門だけあって、大きい。


 間もなく、この町を出るのだ。

 ロゼッタにとっては、良くも悪くも色々な思い出がある町だった。

 それを思うと、なんだか感慨深い。


 正直、今でもロゼッタは町中からコソコソと笑われているような気がしていた。

 この町は、ロゼッタの幼少期のトラウマと結びついた場所だったのだ。

 町そのものが、ロゼッタが冒険に出ることを嘲笑っているような気がした。

 その感覚を拭うことは、大変難しいのだ。


 すると突然、どこからか銀髪の青年が現れた。

 騎士団のラークだ。


「皆様、お見送りに参りました!」


 ラークの部下が、門前に整列している。


「大袈裟だなぁ」


 クリフが苦笑いをすると、ラークが声高に叫んだ!


「町の英雄! クリフ様。カトレア様。そして、ロゼッタ様に敬礼!」


 通行人が、何事だろうと思って見ている。

 なんだかとても恥ずかしいので、三人はさっさと通り過ぎてしまった。


 でも、町の英雄か……。

 悪くない。

 ロゼッタは少しだけ、気分が晴れやかになった。

 

 目の前には、巨大な世界樹が見える。

 ここから、ロゼッタの冒険の旅が始まるのだ!

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