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第十話 パペッティア

 食事を終えた三人は、酒場を後にした。

 クリフは店の外を見渡すが、特に変わった様子はない。

 先ほど感じた気配は、思い過ごしだったのだろうか……。


 すると突然、ロゼッタが右手を上げて発言した。


「わたし、療養所にいるジージに挨拶しに行きたい!」


 クリフは顎に手を当てて、何かを考えている。


「そういえば俺も依頼人への報告が、まだだったな」


 カトレアは、うんうんと頷いて提案した。


「よし! じゃあ、各々出発前にやることをやっておこう! 私はお買い物っ!」


 三人は一度別れて、各々の用事を済ませてから再び集合することにした。


 ロゼッタは先ほど通った道を戻り、療養所の方へと向かった。

 療養所は相変わらず、人の出入りが激しい様子だ。


 ロゼッタが建物に入ると部屋の両脇に、ずらりと簡素なベッドが並べられているのが目に入った。

 ほとんどのベッドは、昨夜の戦闘で負傷した村人達が使用している様子だ。

 患者の中には酷い火傷を負った者もいて、仕切りにうめき声を上げている。

 彼らの側には治療師や、彼らの家族の姿があった。


 部屋を見渡すと、一番奥のベッドにジージが横になっているのを見つけた。

 ロゼッタは、通路に立つ人の間をすり抜けてジージの元へと向かう。

 ジージは、何やら窓の外を眺めているようだ。


「ジージ!」


 ロゼッタが声を掛けると、ジージはこちらを振り向いた。


「ロゼッタ! よかった! 無事じゃったんじゃな!」

「ジージも、大丈夫なのか?」

「大したことないわい……」


 ジージは、何となく無理をしている様子だ。

 こんな状態のジージに対して冒険に出ることを打ち明けたら、ジージは気落ちしてしまうだろうか。それとも怒るだろうか。

 ロゼッタは、少し躊躇した。

 しかし、彼女はもう決心したのだ。

 ここを訪れたのは、ジージにお別れの挨拶をするためなのだ。

 ロゼッタは少し、言いずらそうにジージに打ち明けた。


「ジージ……わたしな……」

「いつかは、行ってしまうじゃろうと思っておったよ……」

「!?」


 ジージは突然、窓の外を指差した。


「ロゼッタちゃん、今日は天気がいい! ちょっと庭で話さんか?」


 ロゼッタとジージは、共に療養所の庭に出た。

 療養所の庭は、患者が安らぐことができるように沢山の花が植えてあった。

 花壇の中には、蝶が舞っている。

 見ていて本当に、心が安らぐような風景だ。


 今はロゼッタ達以外に人がいないようで、とても静かだった。

 ジージは、庭のベンチに腰を下ろす。

 そして、空をぼんやりと眺めた。

 するとジージは、おもむろに話を始めた。


「ワシャ昨夜、天から急降下する一筋の光を見た。あれはロゼッタちゃんの魔法だね?」

「ん……」

「大丈夫。ワシャお前さんの婆さんから全て聞いておるよ」

「そうなのか!?」


 ジージは、どこか遠いところを見ている。


「お前さんの婆さんは、お前さんに、あの力を使って欲しくなかったんじゃ。だから多くを語らなかった」

「いったい、この力はなんなのだ?」

「パペッティア……」

「??」

「かつて、パペッティアと呼ばれた部族がいたのだ」


 ジージは、パペッティアという部族について語り始めた。

 その部族は、とても強力な魔法を操る集団だった。

 彼らは強大な軍事力を所有し、その力で大地を焼き払い、他の部族を力で支配しようとした。


 約500年前、世界各地の魔術師は、そんなパペッティアに対抗すべく力を結集して戦いを挑んだ。

 世界を二分する激しい争いの末に、パペッティアは打ち倒され、彼らの残党は世界各地へとチリジリになってしまったのだ。


 今はもう長い時の流れの中で忘れ去られてしまった彼らだが、今でも王国の機関が残党狩りを行なっていると噂されている。


「ロゼッタちゃんは、その部族の生き残りなんじゃ」

「……」

「今でも、生き残りを探している連中がおる。だから、無闇に人前でその力を見せてはならんのじゃ」


 ジージは真剣な表情で話していたが、突然、その表情が一層険しくなった。

 ジージは、ロゼッタの顔をしっかりと見た。


「お前さんの両親も、残党狩りで殺されたのじゃ」

「え!?」

「婆さんは事故だと言っていたろう。事実は違う。殺されたのじゃ」

「……」


 ロゼッタは、話が飲み込めていない様子だった。

 急に次々と突きつけられた事実に対して、どう対処して良いものかが分からなかった。

 しかし、ジージは続ける。


「お前さんの母さんは、パペッティアの血筋、父さんは、普通の魔術師じゃった。二人は真面目な人間じゃったよ」


 ロゼッタの両親は、ここよりも東にある大きな町に住んでいたそうだ。

 二人とも大変真面目で働き者だった為、家はとても裕福だった。

 彼らは明るい性格で、町の人々にも愛されていた。


 しかし、ある日突然「王家の猟犬」を名乗る組織が家に乗り込んできて両親は連行された。

 当時赤子だったロゼッタは、家政婦が密かに連れ出し、ロゼッタのおばあちゃんのいる村まで必死の思いで届けたのだそうだ。


 ジージは右手で顔を覆い、シワを伸ばした。


「かわいそうに……彼らが何をしたというんじゃ……」


 ロゼッタは、混乱していた。

 無理もない。こんな話、どう受け止めて良いものか分かるはずもない。

 ロゼッタは一度落ち着いて、自分の中から言葉が現れるのを待った。

 そして、彼女は呟く。


「ジージは…………パペッティアのことをどう思う……」


 ロゼッタの問いに、ジージは優しく微笑んで答えた。


「さあ、分からん」

「……」

「ただ、たとえロゼッタちゃんが何者であろうと、ワシの知るロゼッタちゃんは心の優しい女の子じゃ」

「ジージ……」

「たまに、口が悪いのが気になるがのぉ!」


 ジージは、そう言って笑った。


 そして笑い終えると、一度深呼吸をした。

 何やら、気持ちの整理をしている様子だ。


 すると、ジージは突然ベンチから立ち上がって、ロゼッタの方に向き直った。

 どうやら、気持ちが定まったらしい。


「いつかは、あの村では匿いきれなくなる日が来るとは思っていた。一つの場所に留まるのは危険じゃ!」


 ジージは、真剣な眼差しでロゼッタを見た。


「冒険に出るのじゃろ?」


 ロゼッタは、真剣な表情で頷く。

 ジージは続けた。


「心は決まったようじゃな! ならば気をつけて行ってこい!」

「分かったよ、ジージ!」

「ただし、パペッティアの力を使うのは本当にピンチの時だけじゃぞい」

「了解だ!」


 ジージは、最後に何か伝えたいことがある様子だった。

 彼は、思い出すようにして言葉を発する。


「ワシの知り合いが、この町の神殿で祭司をしておる。そやつが、パペッティアの魔具を持っているはずじゃ。一度訪ねてみなさい」

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