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第九話 お姉さんのヒ・ミ・ツ

 三人は、食事を続けていた。

 隣には、先ほどの柄の悪い男二人が床に倒れている。

 カトレアは、倒れている二人の男に目をやりながら説明をした。


「コイツらは、奴隷商人の用心棒よ」

「奴隷商人!?」


 ロゼッタが、驚いて声を出した。

 カトレアが続ける。


「そう、世の中にはロゼッタちゃんみたいに、村を魔物に焼かれて家を失った人達がたくさんいるの。そういう人達を甘い言葉で騙して、闇のマーケットで売買している奴らがいる」


 クリフが真剣な眼差しで、倒れている二人を見た。


「それが奴隷商人。そしてコイツらは、雇われて奴隷商人の護衛をしていたわけだ」


 現在、王国が抱えている問題は魔物の襲撃だけではなかった。

 それに付随して発生した難民問題。更にそこから広がる治安の悪化。

 等々、問題は雪だるま式に増えていた。

 魔物だけではなく、人間による襲撃だってあり得る世の中なのだ。

 人々の心は確実に荒廃していた。


 突然クリフは、不思議そうな顔をしてカトレアに視線をやった。


「ところで、なんで姉さんはコイツらに狙われてたんだ? 盗んだ金って?」


 ロゼッタも気になっていたようで、興味津々にカトレアを見ていた。

 すると、カトレアは酒を煽りながら、さも大したことなさそうに言った。


「昨日の夜、サクッとコイツらの雇い主を捕まえちゃったんだけどさ〜、その時、お金が落ちてたから拾ってきたの」

「ヘぇ〜…………って本当に盗んだのか! それコイツらの金だよね!」

「いいのいいの、どうせ悪いことして稼いだお金でしょ!」

「えぇ……」


 クリフは、腑に落ちないような表情だった。

 カトレアは店員を呼び止め、追加注文をする。


 しばらくすると、店の入口から数人の騎士団の隊員が入ってきた。

 他の客の通報で駆けつけたのだ。

 騎士団の中には、一段と若い銀髪の青年がいた。

 どうやら部隊を率いているのは、彼のようだ。


 カトレアは酒を片手に、銀髪の青年に手を振った。


「やっほ〜! 捕まえといたよ〜」


 銀髪の青年が近づいてくる。かなり真剣な表情をしている。

 ロゼッタとクリフは心配になり、カトレアを諌めたが、彼女はお構いなしに手を振っていた。


 銀髪の青年は、スッとカトレアの前に立つ。

 すると突然、とても丁寧なお辞儀をした。


「カトレア様、ご協力頂きましてありがとうございました。ハル・レオンハート隊長に代わりまして感謝を述べさせて頂きます」


 なんと銀髪の青年は、カトレアと顔見知りらしい。

 ロゼッタは、銀髪の青年を見た。


「お前、ハルの部下か」

「はい、私はラークと申します。ハル隊長から、この町の警備を任せられております。ロゼッタ様のことも隊長から聞き及んでおりますよ」

「あいつめ、どうせ碌なことを言っておるまい」

「いえいえ、そんなことはありませんよ」


 ラークは、カトレアとの関係について丁寧に説明をしてくれた。

 彼の話によるとカトレアは、騎士団に頼まれて町の悪徳商人を逮捕することに協力したのだそうだ。

 しかも話によると、彼女は、ほぼ一人で悪党を全員倒してしまったらしい。

 先ほども男二人に軽く触れただけで、あっさりと倒してしまった。

 いったい、どんな方法を使っているのだろうか?


 ラークは部下に命じて、床に倒れた男二人を連行した。

 そして彼は、再び全員に対して丁寧なお辞儀をして別れの挨拶をする。


「それでは、今後も何かありましたら是非、騎士団へのお力添えをお願い致します」


 彼はそう言うと、テキパキと店を出て行ってしまった。

 中々、仕事のできそうな人物だ。

 町の騎士団は、優秀な人材に恵まれているらしい。


 ロゼッタはラークを見送ると、ちらりとカトレアを見た。

 ロゼッタは先ほどから、カトレアの能力が気になっていたのだ。

 どうやら、カトレアの方もそれを察したらしい。

 彼女は、ロゼッタの方を見た。


「ロゼッタちゃん……お姉さんのヒ・ミ・ツ気になるんでしょ」


 ロゼッタは瞳をキラキラさせながら、うんうんと頷いた。

 するとカトレアは、近くにあった水の入ったガラスコップを掴んで、テーブルの上でロゼッタにそれを見せた。

 それは、なんの変哲もないガラスコップで、中身も普通の水だった。


 ロゼッタは、コップの水を凝視してみる。

 しかし、しばらく見つめるが何も起こらない。


 ロゼッタは首を傾げた。

 カトレアはコップを握り、笑顔でこちらを見ている。

 彼女はいったい、何を伝えようとしているのか……。


 ロゼッタが、そう思った矢先!

 コップの中の水が、突然グルグルと渦を描き始めた!

 ロゼッタは、思わず前のめりになる。


「お!?」


 そして!

 ロゼッタが、ちょっと瞬きをした一瞬のうちにコップの水は氷になってしまった!

 水は、美しい渦を描いた状態で凍ったのだ。


「おぉ!!」


 ロゼッタは、驚きのあまり目を見張った。

 すると、カトレアが解説を始める。


「私の能力はね、触れたものに魔法を流し込む能力なの!」

「魔法を流し込む?」

「例えばこのコップの水は今、風魔法を流し込んで渦を作ったの。それに追加で、氷魔法を流し込んで固めたのよ」

「なるほど!!」


 ロゼッタは、目を輝かせた。

 カトレアは続ける。


「さっきの男達には、雷魔法を流し込んで気絶してもらったわ」

「すごい!」

「ふふ、ありがとう。でもこの能力は直接相手に触れなくちゃいけないから、使い所が難しいのよね〜」


 カトレアもまた、魔法の杖を使った魔力の発動ができない特殊体質だった。

 しかし、たとえ魔法の杖を使わなくても悪党をバッタバッタとなぎ倒すことはできるのだ。

 ロゼッタはそれを聞いて、とても喜んだ。


 ロゼッタとカトレアは、とても気が合ったらしく、その後大変会話が盛り上がった。


 しかし、彼女達の会話が盛り上がっている中、クリフは一人静かだった。

 会話に混ざれなかったのだろうか……。


 いや、そうではない。

 彼は、周囲を警戒していたのだ。


 何やら先ほどから、邪悪な気配を感じる気がする……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ロゼッタとカトレアの意気投合する流れが良かったです。ロゼッタ側からしたらシンパシーを感じるのだという理論付が個人的には、心情描写の流れとして、好きな流れでした。そういうのは小説には大事だと…
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