2.穢れの浄化~墓場掃除~
死霊術師の仕事で多いものってぇと、墓場の見廻りってのもあるな。
墓場だから特にアンデッドが湧き易いってわけじゃねぇんだが、身内の亡骸がアンデッド化するなぁ嫌だって気持ちがあるんだろう。この手の依頼は結構多い。墓場にゃ一応墓守も置いてあるんだが、専門家に見てもらう方が安心だってのもあるんだろう。何年かに一度、死霊術師に点検の依頼が出されるわけよ。
……「賢者」のやつは〝ガス漏れ点検だ〟とか言ってやがったが……どうもあいつの言う事ぁ解りにくくっていけねぇ。
ま、大抵は〝異常無し〟で終わるんだが……そん時ゃ違ってたな。
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「ちっ!」
舌打ちして魔力弾を放った俺を、他の二人は驚いて見ていたようだが……こちとらはそれどこじゃなかった。外したら面倒な事になると思ってたが……どうにか中ってくれたみてぇだ。
「おい! 一体どうした?」
「魔法なんか放って、何かいたのか?」
口々に訊いてくるなぁ、同行してる墓守と見届け人だ。
前にも言ったけどな、俺たちの仕事の場合、見届け役が同行するのが普通だ。今回は遺族の代理人って事で墓守が、地元の住人代表でもう一人が、それぞれ同行してるってわけだ。
「ご覧の通り、鼠公のゾンビだ。……放って置くと、ちょいと面倒な事になりそうですぜ?」
「鼠のアンデッドだと!?」
おっと、たかが鼠だと馬鹿にしちゃいけねぇぜ? こういう動く屍体系のアンデッドで厄介なのは、取っ憑いてる悪霊が「宿主」を替える事があるって点だ。況してここは墓場だからな。火葬にせずそのまんま埋めたホトケさんも多い。悪霊どもにとっちゃ、文字どおり宿主は選び放題ってわけだ。
ついでに言っとくと、鼠のアンデッドってのも厄介な点だな。何しろ図体が小っこいからよ、うっかりすると見過ごしかねねぇんだわ。形が小っこくても、悪霊が憑いてるのに変わりは無ぇからな。
「こいつ一匹だってんなら、そこまで気に病む必要は無ぇんだが……」
「どこかに穢れが澱んでいたりすると厄介だな……」
瘴気や魔力の澱みができてると、魔物やアンデッドが発生し易くなるからな。ここが墓場だって事を考えると、アンデッドの発生は見過ごせる話じゃねぇ。それでなくてもゾンビってやつぁ疫病の原因になるとかで、可能な限り討伐しろって、お上から言われてるんだ。その発生源となると尚更だな。
結局、俺と地元代表の二人で、墓場の周りをざっと見廻る事にした。墓守の男は持ち場に戻った。アンデッドが近くを彷徨いてるって時に、墓場をほっぽっとくわけにもいかねぇしな。
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「あ~……多分、あれじゃねぇかな」
「おぃ、穢れの澱みを見つけたのか?」
見廻りを始めて少し経った頃合いで、瘴気の澱みらしいのが見つかった。幸いな事にそいつぁ……
「……思ってたより小せぇな。これなら俺だけでもどうにかなりそうだ」
「だ、大丈夫なのか? 教会とかを呼んでこなくて?」
「あれっくれぇなら多分、大丈夫だ。万一失敗したところで、現状が悪化するわけじゃねぇ。……それとも、大事を取って教会に頼み直しますかぃ?」
瘴気の浄化は神官の仕事って事になってるが、実は死霊術師にだって同じ事ができる。ただ、大きな澱みの場合、大人数を即座に動員できる教会の方が有利なだけだ。小さな澱みだってんなら、俺たち死霊術師でも問題無ぇ。
それに……教会のやつらはお高く止まってんのが多いからな。こういうちっぽけな汚れ仕事は、中々引き受けちゃくれねぇんだよ。……特にドープ真理教会、通称「金利教」だと尚更な。
ま、そんな鼻持ちならねぇ教会ばっかじゃねぇ。ちゃんと引き受けてくれる教会だってあるんだが……そういうとこは引く手数多って状態だからなぁ……いつになるか判らねぇ。
「どっちみち、このまま放って置くわけにゃいきませんぜ? お上からお叱りを受けまさぁ。当座の処置はするしきゃ無ぇんだし、俺がやっちまってもよござんすかね?」
安心できねぇってんなら、改めて教会に話を持って行けばいいわけだ。俺はそこまで関知しねぇよ。
「……解った。……やってくれ」
幸いちっぽけな澱みだったし、俺だけで問題無く片付いた。念のため他の場所も見て廻ったんだが、澱みもアンデッドも見つからなかったな。
俺は仕事を済ませると、今回の件を死霊術師ギルドに報告した。それからの事ぁ知らねぇが、アンデッドが湧いたとか教会が動いたって話は聞かねぇから、そのまま収まったんじゃねぇかな。