1.アンデッド退治~害獣退治~
俺たち死霊術師の仕事っつったら、何が思い浮かぶ?
……いやな、これまで会った連中に訊いてみたら、揃いも揃って〝数多くのアンデッドを従えて無双〟――なんて馬鹿げた事を言ってやがったからな。
……んだよ、お前もその口かよ……
あのなぁ……んな真似が出来る死霊術師なんざ……いや、いねぇとまでは言わねぇが、ほんの一握り……っつうか、一摘まみだってぇの。大抵の死霊術師は、もっと地道な仕事をやってるもんだ。
割と多いのがゾンビやスケルトンの退治だとか、悪霊の浄霊ってやつだな。……あ? 退治も浄霊も同じだろうって? 馬鹿言っちゃいけねぇやな。耳の穴掻っ穿って能く聞けよ。
まずな、「アンデッド」ってなぁ一言で云うと〝死してなお還らざるモノ〟の総称だ。世間じゃ一括りにされてるが、大雑把に言って三つに大別できる。
第一はいわゆる動く屍体ってやつだ。肉が腐って動いてんのがゾンビで、骨だけになってるのがスケルトンだな。……「賢者」のやつが言うには、保存処置を施された屍体が動くミイラ男とかってのもあるらしいが……能く知らねぇから飛ばすぜ?
で、こいつらだがな……生前の妄念に駆られて動いてるやつもいるにゃあいるんだが……実はそういうのは少数派でな。大抵は屍体や骨に悪霊っぽいのが取り憑いて動かしてるだけなんだよ。記憶とか自我とかもあやふやなやつらが多いな。……ま、こいつらについちゃ、後でまた話すわ。
第二は、さっきちょいと触れた悪霊とか怨霊とか……いわゆる霊体ってやつだな。……あぁ、ゴーストとかファントムとかレイスとかって呼ばれてるやつだ。
こいつらはさっきのリビングデッドと違って、生前の記憶を――断片的にでも――持ってるやつらが割と多い。……生前の人格そのままたぁ限らねぇけどな。
はっきりした線引きは無ぇんだが、〝レイス〟ってのが高級な悪霊で、〝ゴースト〟ってのが低級霊って感じかな。ま、どっちにしたって厄介なのに代わりは無ぇんだが。
第三はちょいとばかり特殊で、第一と第二以外のものを引っ括めたカテゴリーになる。吸血鬼とかリッチとか……デュラハンとかな。
それぞれに性質ってやつが違うんで、対処の方法もそれぞれ違うわけよ。特にリッチとか吸血鬼とかになると、下手を打っちゃあこっちがお陀仏だからな。こういうなぁベテランの死霊術師か神官の仕事だ。俺たちみてぇな下っ端の出る幕じゃねぇよ。況してソロの駆け出しなんかにゃ、まず下りてねぇ依頼だな。
んじゃ、ぺーぺー向けの「アンデッド退治」ってなぁどういうもんかってぇと……
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「畑の作物が荒らされるねぇ……アンデッドの仕業だってなぁ、確かなんですかぃ?」
意外に思うかもしんねぇけどな、俺たち死霊術師に持ち込まれる退治依頼ってなぁ、こういうもんが大半なのよ。鼠とか狸とかの屍体に何かが取り憑いて、悪さするから祓ってくれ――ってのがな。
元は畜生たぁ言っても、そこは何しろアンデッドだからな。普通の弓矢とかじゃ効かねぇんだわ。それにな――
「村の者が見たそうじゃ。朽ちかけた獣の骸が畑のもんを荒らしとる現場をな。それも食い荒らすとかじゃのぉて、ただ食い千切っとるだけときとるから、泣くに泣けんわぃ。おまけに、畑はしっかり穢されちまった……」
そう。アンデッドの厄介なところは、その瘴気に触れたもんが穢されるって点だ。こうなっちまうと売り物にゃなんねぇし、農家にとっちゃ踏んだり蹴ったりってところだな。
で、そういう作物を浄化したり、或いは引き取ってから浄化して流通に乗せるのも、俺たち死霊術師の仕事ってわけだ。
いや、浄化は教会とかでもやってくれるんだが、クッソ高ぇお布施を要求するところも多いし、そうでないところは予約が一杯で、いつになるか判らねぇからな。長々待ってられねぇってところは、俺たちみてぇな死霊術師に話を持ち込むわけよ。
「まずはそのアンデッドってやつを片付けねぇと、話になりやせんね。……心当たりはありやすかぃ?」
「……少し前に村を襲って来た盗賊どもを追い払ったんじゃが……」
「そん時の賊の成れの果てってわけですかぃ?」
さっきもちょいと触れといたが、動く屍体ってやつの大半は、屍体に悪霊っぽいのが取り憑いて動かしてるだけなんだよ。自我なんて高級なもなぁ残っちゃいねぇが、死ぬ間際の怨みとか妄念とかに駆られて動いてるわけだ。
……しっかし……盗賊にそこまで怨まれるって……一体どんな殺し方をしたんだよ? ……ま、余計な事に首を突っ込まねぇのが、この商売の仁義だ。
「特に怨まれてるお人とかはいるんですかぃ? ……ってぇか、被害がどっかに偏ってるとか?」
「いや、此処かと思えばまた彼方、神出鬼没ってやつじゃのぅ」
……マジかよ……こりゃ、村の周りを見廻らにゃ駄目か……
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「……あいつですかぃ?」
「……そうらしいの。……元が何なのか判らんほど朽ちとるが……何じゃろうかの?」
村の爺さんと一緒に村の近くを見て廻ってたら、それっぽいモノに出会した。あ、何で爺さんが一緒なのかってぇと、討伐の確認のためだな。何せアンデッドってやつは、討伐後に屍体が消えたりする事もあるからな。証人がいねぇと信用されねぇんだよ。こっちだって、後々面倒を背負い込むなぁ願い下げだしな。
「……鼻っ先が欠け落ちてて判りにくいが……猪の仲間みてぇですな。……スラストボアにしちゃ小せぇし、ワイルドボアの若ぇやつかな?」
「……やれるかね?」
「問題ありやせんや。図体がそこそこデカくたって、あぁも腐ってんじゃあね。見た感じ、ヤバそうな気配もしやせんし」
一概にゃ言えねぇが、動く屍体系のアンデッドは俊敏さを失っちまってるからな。身体も脆くなっちまってるし、重さと馬鹿力に気をつけてりゃ、そう苦労する相手じゃねぇ。ハミルカス……デュラハンの旦那に貰ったスキルだってあるしな。
寧ろ問題は瘴気と穢れなんだが、これは俺たち死霊術師の得意分野だからな。大した手間もかからなかった。
この後は汚染された農地と作物の浄化と、場合によっちゃ買い取りだな。買い取りの場合は死霊術師ギルドが代金を立て替えてくれるから、証文だけ書きゃいいんだが……きちんと利益を出さねぇと、最終的にゃこちとらの借金って事になっちまうからなぁ……
正直言って、取引の方がよっぽど気が抜けんわ。