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社畜日記  作者: 社会 歯車
1/1

進化の石 は アマプラ ですか?

私には友人がいる。

完全なる『非ヲタの友人』だ。


彼女と私は20年程の付き合いになるが、食事以外で趣味が合致する事はほぼない。

それもそうだ。

20年以上の歳月をオタクとして過ごした私と違い、

彼女は漫画もゲームもアニメとも無縁な人生を送っているのだから。


彼女が自分の意志で読んだ漫画は「スラムダンク」と「ワンピース」を少々。

アニメは勿論、TV自体も殆ど見ない。

かといって、SNSに興じる事もない。


務める会社は一流企業で、中小企業でちょっぴりダークな職場で奮闘する私にとって、

まさしく異世界の住人に近い……。


そんな女友達だ。


平時の彼女と私の繋がりは『彼女が行きたいリッチなお店での食事会』がメインだった。

回らないお寿司が食べたいとか、

お店の最高額の懐石料理フルコースを食べたいとか、

そういうやつだ。


だから、食事会以外で顔を合わせる事は殆どしなかった。


しかし、日本で「緊急事態宣言」が出されて付き合いが変わる。


彼女は緊急事態宣言が出されるよりずっと前から、会社の方針により在宅勤務となっていた。


一流企業ハンパない…と驚愕していた私の職場も、宣言後にようやく在宅勤務が導入された。


そうしてお互いに特に会う事もやり取りする事もなく過ごしていたが、

とある土曜日に彼女からちょっとばかり長文のLINEが届いた。

返信を打つのが面倒だった私は、初めて彼女にLINEで通話をする事にした。


外出が趣味なのでは?と思う程活動的な彼女の声は、私が想像していたよりもずっと明るく軽快だった。

色んな話をしている中で、私は「そういえば」と、彼女に話題を振った。


「Aさんは、家で何をして過ごしているの?」

「色々やってるけど…アマゾンプライム会員で無料の動画見てるかな」

「あら、珍しい。どんなの見てるの?」

「結構なんでも見てるよ。あ。あやなオススメは何かある?

グロくなくて怖くなくて悲しくなければアニメでも良いし。」


何かない?って聞かれても、最近は社畜気味でオタク衰退気味の私には直ぐに出せる手持ちカードが殆どなかった。


「えー…ラブライブとか…?」

「ん……あ~有料だわ。」


ふむ。と思い、そういえば彼女がスラムダンク---現実味がある熱血スポーツ系---が好きだと言っていたのを思い出した。

ちょっと毛色は違うが…どうだろうか?と思いながら、私はその作品を口にした。


「ハイキューってアニメは?」

「あ。」


スマホ越しの彼女の声が変わる。おや?無料だったのかな?と私が思うより早く、彼女が言葉を続けた。


「ハイキューは今のところ全部見てる」

「え?」


私は驚いて自分のスマホを凝視するが勿論彼女には伝わらない。

私の事など気にせず、彼女は矢継ぎ早に喋り続ける。


「やばいんだよ。ハイキューめちゃくちゃ面白くて。」

「うん?」

「もう何回見返したかわからないし、今年の1月かな?に放送した分は全部CMを消してDVDに落としてある」

「お、おう」

「ちゃんと録画設定できてるか確認してから出社してたよね。

深夜すぎて最初は録画できてるかドキドキで、仕事中も気になっちゃって気になっちゃって。」


初恋かよ。私の率直な感想だった。そんな私の感想もスマホ越しに伝わる事はない。


「もう見すぎちゃって、多分…キャラ同士の掛け合いとか全部覚えてると思う。」


あなたの頭の良さはそんなところでも発揮されてるのね…。私はスマホから天井へと視線を移した。



付き合って20年は経つ…非ヲタの友人…

感染症が日本に流入して早数か月…。

私の知らないところで、彼女は立派なオタクに…。



「シーズン○の○話は何回見ても涙が止まらなくて…

声優さんは詳しくないけど、シーズン○の○話目で先生の声が…」


なんとも言葉にし難い感慨深さやら喪失感やらに浸っている私には構わず、

彼女の作品語りは止まらない。

この構図、よくオタクの集まりで見たことある…。

THE OTAKU (或いはJUST OTAKU )そのものの彼女が、スマホの向こうに確かにいた。


「何度見返しても掛け合いで笑っちゃうし、それに…」


延々と続く一流企業に勤める才女の、情熱たっぷり(しかも語彙力豊富)という

過去のどの『布教』に負けるとも劣らない

作品語りならぬ『営業』を耳にしながら、私は決意した。


次回会うまでに、ハイキュー!!絶対に履修しとこう。そうしよう。


*****************************************


友人A:生まれてこの方サブカルコンテンツとの交流が浅かったはずだが、

    不要不急の外出を控えた結果、ハイキュー!!に初恋をした友人


私:20年程どっぷりとオタクな世界に身を浸していたが、

  突如仕事が趣味になってしまった社畜。

  外出自粛で友人Aが精神にまいってないか心配だったが、

  当該作品のおかげで楽しそうに過ごしているので、拝まずにはいられない。

  ありがたい。

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