第8話 「見守る者(後編)」(仮題)
前回のあらすじ
幽体離脱した主人公の前に現れた小さい頃のおばあちゃんのそっくりさん。
彼女は一体何者?
「座敷わらし……。」
「厳密に言うと違うけれどね。私は気まぐれにこの家に居着いた訳ではないし、この家が無くならない限り、出て行く事も無いわ。決してね。」
廻さんが何かを堪えるような笑顔で前を見つめた。私もつられてそちらを向くと、驚くべき光景が目に飛び込んできた。
遠くから白装束を着た人達がぞろぞろと歩いて何処かへと向かって行く。そしてその歩いた道から、咲いていた色とりどりの花達が全て鮮やかな赤色の花に変わっていった。
「彼岸花……。」
周囲に霧が立ち込め、どこからか川のせせらぎが聞こえてくる。ここはもしかして……。
「死者を見送り、弔う為の花。その花道は輪廻の輪へと続いていて、紅く行き先を照らす導きの花でもあるの。」
廻さんは足元の一輪を手折り、私に差し出した。私は受け取る。
「これを、花ちゃんに。貴女は迷わないようにねって、言って置いてくれないかしら?」
「……うん、わかった。」
私が戸惑いながらも頷いたのを見て、廻さんは満足そうに頷き返した。
「私はね、元々は人間だったの。そして生を全うし、輪廻の輪へと還るはずだった。」
白装束の死者達の目指す先に手を向けて、廻さんは私にもそちらを向くように促す。
「ひろなちゃんにはまだぼんやりとしか見えないと思うんだけど、彼処には大きな水車があってね。三途の河から小舟ごと掬い上げられた者達は、一度閻魔様の元へ行って審判を受けるの。天界にて沙汰を待ち、次の生が決まった者から現世に繋がる河に在る水車に降ろされるのよ。」
廻さんの説明を聞きながら、私はぼんやりと黄金に輝く輪っかのようなものを見つめていた。きっとあれが、廻さんが言っていた水車なのかもしれない。
「私はね。三途の河から一度も掬い上げられる事もなく、輪廻の輪から外れてしまったの。その代わり、私の子孫をずっと見守る事が出来てる。それは不幸な事であり、幸福な事。
輪廻の輪から外れてしまった魂は二度とその輪に入る事は出来ないから。」
目を伏せて廻さんは小さく呟いた。
「あの人と同じ時を歩む事も、もう出来ない。」
廻さんの悲しそうな表情に、私は胸がぎゅっと締め付けられた。
「ひろなちゃん、気を付けて。貴女にも私と同じようになる可能性があるの。
最近、不思議な夢を見る事はない?」
急に私の手を取って祈るように握り締めた廻さんに私は驚いた。
「う…うん、あるよ。」
「その夢は自分の望んでいる事を具現化する力があって、使い方を誤ると私のように理から外れてしまう事があるの。貴女は力に目覚めたばかりでまだ制御出来ずに『ひろな』と『ローナ』が乖離した状態。これは長く続くと危険なのよ。」
私には物語の主人公のような特別な能力があるという事だろうか。それでも今はワクワクできる状況では無いと廻さんの切羽詰まった表情を見て焦りさえ感じた。
「貴女がはなちゃんの家にいる間は私もひろなちゃんの夢に干渉できる。だからしばらくの間私に時間を頂戴。私の二の舞にならないようにこの力の使い方を教えるから。」
私は一も二もなく頷いてお願いしますと返した。
私のこれからが決まった瞬間だった。
序章か、第1章としてここで区切りになります。次章が書き溜まったら連載を始める予定ですのでよろしくお願いします。