騎兵隊隊長の悪い癖 前編
壁ドンメインの青春恋愛を書こうとしていたら、いつの間にか全く別物が出来上がっていた……。
荒々しい馬の嘶きと金属同士が激しくぶつかり合う音、そして時折聞こえる発砲音。ここは絶叫と断末魔と歓喜の歌が罵り合う草原の戦場である。
「アラン! メッシュ! 左から包囲するように進め!」
戦場を馬で縦横無尽に駆け回り、勇猛果敢に先陣を切る一際目立つ鎧の男。名はオンナスキー。
「完全には包囲するなよ!? 逃げ道を少しだけ残して、時間を掛けて弱らせろ!!」
彼の乗る馬にはこの戦で討ち取った将の首が括り付けられており、彼が進んだ跡には首から滴る血が点々としていた。
「ウィスパー! 本拠地を攻めるぞ! ついてこい!」
武勇に長け知略も備える彼は、幾多の戦場を生き延びた将の中の将であったが…………一つだけ欠点があった―――
「オンナスキーが攻めてきたぞ!!」
敵方が逃走を終え、残されたのは僅かな防衛隊と足手纏いになる女子どものみ。ミツバチの巣を襲うスズメバチが如く、オンナスキーは最後の抵抗を見せる殿隊をマスケット銃で容赦無く蜂の巣にしていく。
「さて……」
馬を降り、本拠地の中へ入り込むオンナスキー。
彼の目的は一つだった。
「……………………」
敵の本拠地の最奥に、強い意志と遠く離れた夫に想いを馳せる魅惑の女が一人、女中と共に隠れていた。
「総大将ザガードの奥方エレン様とお見受け致します。初めまして、私これより貴女の夫となりますオンナスキーと申します。以後お見知りおきを…………」
簡単な挨拶と共に一歩、また一歩とエレンに近づくオンナスキー。エレンは怯えた顔でオンナスキーの顔を見つめ、ポケットへ右手を入れた。
―――ドン!
オンナスキーの手がエレンの手首を掴み、そのまま壁へと叩きつけられる。その手には化粧用のコンパクトが握られていた。
「その強気な瞳、まだ希望を捨てていない顔は、こいつのせいか? 夫人よ……」
オンナスキーはエレンの手からコンパクトを取り上げると、女中にコンパクトを向け、コンパクトの蓋に着いている宝石を押し込んだ。
―――ドゥゥゥン!!
鈍い発砲音と共にコンパクトから放たれた銃弾は、女中の額を撃ち抜き、女中は言葉も発せずその場で絶命した。
「…………殺しなさい」
エレンはその瞳の輝きを失わせ、己の末路を定めた。
「強気な女性は大変好みです。お楽しみは帰ってからにしましょうか」
オンナスキーはエレンを抱えた。エレンは抵抗すること無く大人しく捕まり、捕虜となる事を受け入れた。
「ウィスパー! ウィスパーは居るか!?」
オンナスキーの呼び声に、同じく縛られた女を担いだウィスパーがひょっこりと現れた。
「旦那! 女を捕まえたぜ!! 可愛い女の子だ! お人形みたいにツルツルでやわやわでプニプニだぜ~!」
ウィスパーに捕まった女は怯えた表情で、泣きながら首を振っていた。
「ん~……それはお前にやる。私の趣味じゃあないな」
軽く品定めした後、オンナスキーは馬に乗り本拠地を後にした。向こうはオンナスキーの別邸。お楽しみ会の会場だ―――