ラスボス戦で負けたところ・・・?
どうも、勇者パーティの魔法使いです。ラスボス戦でボロ負けしました。
けれど、何だか様子がおかしいのですが・・・?
人外サンド、運命のなんちゃら、が見たくて自己発電。
間違いや不足、感想などございましたら、何卒ご指摘またはお聞かせ願えると、幸いです。
「お、お願いだ!い、命だけは助けてくれぇ!」
黄色の髪を振り乱し、整った顔を涙と汗でぐちゃぐちゃにしながら、城の床に這いつくばる勇者。
「なんで、なんでよ・・・なんでシナリオ通りにいかないのよ・・・!」
栗色の髪をぐしゃぐしゃと掻き乱し、ヒステリックに叫ぶ聖女。
「・・・。」
血だまりの中に倒れ伏し、ピクリとも動かない騎士。
「げほっ・・・ごほっ・・・。」
床にうずくまり、ヒュウヒュウと苦しそうに呼吸を繰り返す第二王子。
「・・・。」
最初に勇者に盾にされて、壁に吹っ飛んだまま動かない、奴隷である獣人の青年。青灰色の髪のてっぺんから生える三角形の耳からイヌ科であることがありありと分かる。
「<回復>・・・<回復>・・・。」
そして、私は魔法使い。
こっそりと移動し、最後に紹介した獣人の青年の傍で回復魔法をかけ続けている。
私と獣人の青年は壁際にいるので見られてはいないが、それ以外の者たちを冷たい目で見下ろすのは。
「・・・ふん、つまらんな。」
黒々とした髪を揺らし、熟したリンゴよりも鮮やかかつ透明感のある赤い瞳を彩るのは蔑みの色。それは、醜態を晒し続ける勇者と聖女に向けられているのだろうが、当の本人たちは気付いていないのか気にしていないのか、訳の分からないことをベラベラと話し続けている。
勇者、聖女、と来たら勘のいい方はもうお気付きだろうが。
「頼む、魔王!俺以外の奴らは全員やるから!」
「ま、魔王さまぁ!あたしぃ、無理矢理連れてこられてぇ!」
そう、魔王である。
そして、私たちは勇者パーティ。いわゆるラスボス戦で大惨敗をし、命乞いの真っ最中だ。
ん?ああ、私は転生者だ。最近の方はこう言うだけで大体のことを把握するのだから凄い。ついでに言うのならば、享年は花のJKを謳歌していたはずの18歳である。
「・・・黙れ、下郎ども。」
氷よりも冷たい瞳で、ふざけたことをぬかす二人を射抜く魔王。同意したい気持ちをぐっと堪えつつ、回復の手は止めない。青年の脈は安定してきたが、強い衝撃を受けただろうし、意識も戻っていないからだ。それに、パーティの他の面子には近付けないし、近付きたくもない。あんな奴ら、治してやる価値も義理もない。むしろ、今すぐにでも殺してやりたいくらいだ。
「・・・<浄化>。」
獣人の青年(名前はロキという)に浄化魔法をかけてやりながら、私自身の首にかかっているソレを弄ぶ。ロキにも全く同じ物がかかっている。
無骨で重くてとても硬いソレは、ぐるりと首の周りを一周して、うなじの辺りで決して外れないように何重にも仕掛けが施されている。広義では首輪、詳しく説明するのならば隷属の首輪と呼ばれる物。それをかけた者はいくつかの条件を守ることを義務付けられる、いわゆる奴隷用の首輪だ。それぞれの首輪に合う解放鍵でなければ外すことが出来ず、条件を破れば雷属性の魔法による高圧電流が流れるようになっている。
ふと、魔王が私たち二人に目をやった。夕陽より濃い赤が私たちを捉える。私は黒のローブを羽織り、フードと認識阻害魔法で顔を隠しているため、表情は分からないだろう。まあ、元々の理由は彼女と彼が私のことを認識しないようにと条件のうちに入れられたからだが。
隷属の首輪は隙間から見えるため、奴隷と勘違いしてくる者は多い。恐らく、パーティの者たちもロキ以外は私のことをずっと奴隷だと思っていただろう。ロキも私と話をするまでは奴隷だと思っていたようだし。
魔王の視線の先を追ったあの二人は嬉々とした顔で魔王に猫撫で声で擦り寄った。
「魔王さまぁ!あのモノたちでしたら、いくらでもお使いください!」
「なんなら所有権も譲渡する!その代わり、俺たちを!」
ああ、本当に耳障りだ。けれど、好都合。
「・・・少し、待っていてね。」
ロキの耳に口を寄せてそう言い残し、魔法を使う手を止める。
聖女がいそいそと胸元から取り出したのは私たちの解放鍵。それを魔王に差し出すために手のひらに乗せ、差し出したのを見た瞬間。
「<転移>!」
高らかに呪文を唱え、聖女の前に転移をした。彼女の手のひらから解放鍵を奪い取り、再度転移でロキの元へ戻る。
聖女と勇者が状況を把握して私たちを見たときには、私はロキの隷属の首輪を外してしまっていた。
「き、貴様ぁ!」
勇者が声を荒げ、私を睨みつける。魔王は片眉を少し動かしただけで、静観する姿勢のようだ。
外れた首輪を床に投げ捨てる。次は私だ。フードの中に手を突っ込んで、顔を見せないように苦心しながら、うなじに固定された鍵穴に鍵を入れて回す。
ふっと首の周りに開放感が広がる。それは、この旅に出る前までは普通に感じていたはずなのに、久方ぶりに感じるからか、とても幸せなことのように感じた。
「あ、アンタなにやってんのよ!奴隷の分際でっ!」
可憐と呼ばれていた顔を憤怒で歪ませて聖女が叫ぶ。だが、そんなことを気にしていられるほど余裕がある訳ではなかった。
「ロキ!起きて!お願いだから!」
「・・・ロキ?」
懇願を交えつつ、ロキの体を大きく揺さぶる。魔王が何かを言ったような気がしたが、そんなことはどうでもいい。今は一刻も早くロキを逃がさなければ。そう思っていると、ロキの長いまつげがゆるりと震え、まぶたの下から綺麗な翡翠が覗いた。
「・・・あれ?ユリア?・・・って、俺、声が・・・!」
初めて聞く彼の声は、久しぶりに出したからだろう、かすれていて聞こえにくかったが、確かに音として成立していた。翡翠の瞳が驚愕の色を滲ませる。
今まで土に文字を書きながらの会話だったために、胸の奥から感動が押し寄せてくるが、それをギリギリのところで留め、説明しようと口を開いたときだった。
「・・・このっ!使えない奴隷ね!さっさとくたばればっ!?」
「・・・誰の許しを得てこんなことっ!許されると思って!?」
「黙れ。」
先程からBGMとして流れていた勇者と聖女のエンドレス罵倒が止む。不思議に思ってそちらを向くと、魔王が玉座から下りてこちらに歩いてきていた。奴らは床に倒れている。
魔王が何かをしたのは間違いないだろうが、何故私たちを残すような真似を?そう思っていると、ロキが息を呑んだ。
「もしかして、ダレンか!?」
「やっぱり!ロキだったんだな!生きてたのか!」
駆け寄ってくる魔王と立ち上がるロキ。どちらも喜色満面だ。抱き合う二人を見上げる私の顔は、恐らくどこまでも間抜けだろう。二人が知り合いだったとは・・・。呆ける私をよそに、二人の話はどんどん進む。
「中々帰ってこないと思ってたら、奴隷になってたのか・・・。辛かっただろうな。」
「いや、そうでもないぞ。捕まってすぐに王宮に連れて行かれてあいつらの奴隷にされたからな。酷使されることはあっても、普通の奴よりはマシな扱いを受けてたさ。・・・そんなことより、お前もう王になってやがったのか!先に行かれちまったな!」
「あ、ああ。俺は10年前に『運命』を見つけたからな。彼女を迎えるには王になるのが手っ取り早いと思ったんだ。だから5年くらい前にな。」
「お、そうなのか!俺も『半身』を見つけたんだぜ!といっても、最近だがな。」
「お前も見つけたか!俺は向こうに残したままなんだ。喪失感に襲われてはいないから、死んではいないと思う。だが、人間なんだ・・・受け入れてくれると思うか?」
「あー・・・奇遇だな。俺の『半身』も人間なんだよ。死ぬと思ってたから、何も言ってないんだよなぁ。」
「さっさと言った方がいいぞ。俺も言えなくて死ぬほど後悔したからな。いつの間にか消えちまってたし。探し回っても見つからなくて、諦め切れずに人間の国に交渉持ちかけようと思ってたら、お前たちが来たんだよ。」
「・・・そうなのか。いい交渉材料になるんじゃねえかな?そこに転がってるの第二王子とか行ってたし。」
・・・情報量が多すぎて頭が混乱してきた・・・。つまりは、二人は親友もしくは友人でFA?
「それで・・・そこにいるのは何だ?」
「え・・・あ、すまん、ユリア!」
「あ、はい。大丈夫です・・・。」
差し出されたロキの手に甘え、ゆっくりと立ち上がる。赤い目からは先程までの柔らかさは消え失せていた。まあ、当たり前だろう。ロキと違って見ず知らずの人間だ。攻撃されないだけまだマシと言えるだろう。
「ユリア、こいつは俺の親友のダレンだ。この国の王をしている。」
「・・・初めまして、ユリアローズ・・・と申します。セルディア王国から参りました。この度は、多大なるご迷惑をおかけして、申し訳ございません。・・・許して貰えるとは思っておりませんし、この謝罪を受け取らなくても構いません。ですが、人間が皆このような者ではないことを頭の片隅にでも置いていただければ幸いです。」
言葉を切って頭を下げる。呪文を唱えるためにロキよりは喋っていたとはいえ、こんなに長い言葉を発したのは本当に久しぶりだ。・・・噛まずに済んでよかった。
「・・・面を上げろ。」
「ありがたき幸せでございます。」
「不本意だったとはいえ、俺の攻撃を受けたロキを治療してくれたのはお前だ。お前のお陰でロキを失わずに済んだ。・・・礼を言う。」
え?この人はいきなりやってきて不法侵入して来た上に襲ってきた人間にお礼を言うのか・・・?唖然としてしまって、思わず王の顔を見上げる。すると、流麗な眉の間にしわがよった。
「・・・認識阻害魔法、か?」
「あ、すみません!今すぐ解きます!」
視線を落として自分にかけていた魔法を全て解く。
「俺もユリアの顔は一度しか見たことねえんだよ。あの時は暗かったけど、衝撃的だったから、しっかり覚えてんだよな。あ、もう首輪はないからフードを取ってもいいんだよな?」
「はい。失礼でしたね。今すぐ取ります。」
フードを取ると、するりと首の後ろを風が撫でた。旅の間はフードを一切取っていないため、本当に数ヶ月ぶりだ。浄化魔法をかけたり、風属性の魔法で風を通したりはしていたものの、やはり本物は違う。ふるふると頭を揺らすと、母が褒めてくれた白銀の髪が柔らかく揺れる。私はそのまま頭を下げた。
「先程までのご無礼をお許しください。」
「・・・。」
?返事が返ってこない。どうかしたのだろうか。
「・・・もう一度名前を聞いてもいいか。」
「?はい。ユリアローズと申します。」
「・・・10年前から8年前まで、リノレという町で冒険者をしていなかったか?」
恐る恐る、といった声で聞いてきた内容に愕然とする。何故、何故知っているのだろう。父と数人の関係者で隠蔽したはず。思わず体が震えてしまった。
「ダレン・・・?どうしたんだ?」
戸惑いの色を滲ませるロキ。私は声が震えないように息を吸い、ゆっくりを口を開いた。
「・・・何故、それを?」
「・・・顔を上げてくれ。」
私の問いに答えず、どこか懇願するような声色で声をかけられる。その不自然さに戸惑いつつ、ゆっくりと顔を上げた。瞬間、真っ赤な瞳が丸くなって、そして。
「リア!」
抱きしめられる。
「!?おい!ダレン!例えお前でもやっていいことと悪いことがっ!」
混乱した頭は状況を上手く理解出来ず、さらに思考までもを放棄しようとするのを必死で止める。え、なぁにこの状況?ユリアわかんなーい。
・・・分かんない・・・。
「やっと・・・会えた・・・。リア・・・俺の『運命』・・・!」
「なっ!ユリアは俺の『半身』だ!そんなことある訳っ・・・!」
もう訳が分からないよ・・・。
最終的に二人に挟まれるような体制に落ち着いた。驚いたのは、奥の扉から執事さんらしき方がやって来て、勇者パーティの奴らを綺麗に片付けてしまったことだ。まだ息があったようだが、牢にでも入れるのだろうか?・・・まあ、どうでもいいか。
「リア、覚えてない?俺のこと。」
「・・・と、言われましても。10年前といいますと、私は5歳頃です。ですが、記憶を探っても・・・。」
「クロって呼んでくれたじゃないか。」
「クロ・・・?」
肩に顎を乗せられ、喋られるたびにくすぐったさがこみ上げてくる。そんな中、クロ、クロ、と記憶を漁ると、パッとひらめくものがあった。思わず、目を見開く。
「ま、まさか、あの黒猫さんですか・・・?」
「そう!覚えててくれたんだね!」
「え、でも・・・あ、色が一緒・・・だけど・・・獣化・・・?」
「変化の魔法だよ。これでも、悪魔と吸血鬼のハーフだからね。そういう魔法はお手の物なんだよ。」
「あっちでも猫の姿で過ごしてたのか?物好きだなぁ。」
「五月蝿いなぁ。リアには大好評だったんだぞ。可愛い可愛いって撫でてくれたんだからな。」
「うっわ、ずりぃ!」
情報が飽和状態過ぎて目が回ってきた・・・。え、えっと・・・小さい頃可愛がっていた唯一のお友達の黒猫さんが、魔王ダレン様で、私は王の『ウンメイ』で、ロキの『ハンシン』で・・・。・・・そもそも単語が分からないから、何も分からない・・・。
「取り敢えず、色々と説明していただかないと、私には何が何やらさっぱり分からないのですが・・・。」
「ああ、そうだね。」
二人がゆっくりと離れる。王と向かい合いつつ、ロキに背を向けているという状況なのだが・・・。何故か二人から熱烈な視線を浴びているのですが・・・?何ゆえ・・・?王なんてさっきまでの冷たい視線は何処へやら、真っ赤な瞳を三日月形にして、とてもとても優しい目をしているのですが・・・?振り返ると、ロキも翡翠の瞳を細めて柔らかく微笑んでて・・・?そんな顔見たことないんですが・・・?
二人に手を引かれて、歩を進める。
私が二人の説明を聞き、頭を抱え、さらに囲われることになるのは、また別のお話。