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第一章 三目人形 04 髑髏とコンビニ

 髑髏マークが思いっきり描かれた黒い箱を、金緑の鰐眼がまじまじと見聞。


「100ミリくらいあるのかと思ったら、デスなんて銘柄で、ピースより11ミリも軽いのね?」


「100ミリなんてアホな煙草、どこの馬鹿が吸うんだよ。香りもへったくれもないだろうが。ほれ、もう返せ」


「ねえこれ、部屋に飾ったらかっこいいと思わない?」


「お前がロマンスグレーのマスタッシュおじさまだったらな」


「えっ、ただでくれるの? 優しい、ありがとぉ~♪」


 口から生まれて来たようなこいつと口で戦っても埒が明かないので、おれは黙ってレジから出、壁際に追いつめて、また腕を掴まえた。


「ごめん、ごめん、返す、返します! 若葉にします! えへ?」


「だめっ!」


 売った方が警察署に連行されて、最低でも三十時間以上知らぬ存ぜぬを貫き通せなかったら、三十万円以下の罰金だぞ。論外にも程がある。付き合ってられるか。


「いたーい。跡ついたー。慰謝料寄越せぇー、このっ、このっ」


「……お菓子五百円分選んでこい」


「ええっ、五百円分も!? 有限ちゃん大ぁい好き♪ 超かっこいい、愛してる♪」


 えっ、マジか……。おれも大好きだ! 愛してる! 初めて会ったときからお前は背が低い割にしっかりと骨盤が大きくて、何人もぽこぽこ産んでくれそうな娘だと思ってた!

 娘……うむ。あのしゃがんでお菓子を選ぶ姿はそうだな実に娘っぽい。幼児退行する娘系妻にやれやれする話はよく聞くが、そんなことを言っているのは、バブ美にオギャりたいメンズだけだろ? そりゃ相性合わないはずだわ。育ててくれた彼女を捨てて、年下の女に乗り換えておきながら、父性は与えたくない母性を寄越せと宣うこと自体が間違っている。


「いらっしゃいま……あ」


「あら、貴方ここで働いてたの」ぱっちり開いた猫眼が目を合わせてくる。「普段こういう時間に来ないものだから、知らなくって」


 駅前のコンビニでバイトをしていると、大抵の知り合いに会うものだとはいえ――さっさと商品をかごに入れて、レジへやってくる。中身を見て一瞬嘘だろと思ったけれど、よく考えると失恋で体調を崩すというのは、そこまでおかしいことでもなかった。


「体温計なんて買ってどうすんだ。熱が出てるかどうかくらい見りゃ判んだろ。というか熱が出てないって判ったら元気になんのか? 手前のカッコイイ兄貴はよ? え?」


 世界一不躾な娘が横から割り込んできて、目茶苦茶余計なことを口走る。

 細流は一瞬嘘だろと顔で語り、しかしどうやら理性というか根性で感情を戒めた。


「買ってきてって頼まれたのよ、母親に。熱さましのシートと一緒にね」


「カーッ、好い子ちゃんですこと。頼まれたのよ、お母様に。オホホ?」


「、貴女が飛び抜けて不品行なだけでしょ」


「うるせえ、イタリアヘア」


「い、イタリアヘア!?」


「あれ? 違ったか? 私ァてっきり、大小さまざまなイタリア半島を、趣味で頭からいっぱいぶらさげてんのかと思ってた」


「大小さまざまなイタリア半島を趣味で頭からいっぱいぶらさげる人間なんかこの世にいるわけがない! ちょっとは考えてから物を言いなさいよ、この、七三分け!」


「いや、お前も七三だろ」


「……前髪までぱっつんにしたら、個性がその、なんというか、」


「ふーん! らいあちゃんもいろいろと大変なんだね? 白目」


「あ な た ね え……!」


「二千八百五十四円になります!」


 ポイントカードを持っているかちゃんと確認してから、三千四円をお預かり致します。お釣りをしっかりとレシートに乗せて返す。


「ありがとう。また来てねー」


「んー」


「――で、お前。もうふたつで六百円超えたんだけど」


「みんなで食べる! ――から。だめ?」


 みんなっつってもふたりだろ……。


「おっまたせ~! ん~、あったかいっ。おっ、みんな勢揃い? はろー♪」


「はろー、来たよー♪」


「てぃら美ちゃんすっごいもこもこだねー、かわいー。かわョ。いちごチョコケーキ! らいあちゃんは、ホイップたっぷりなのに甘さ控えめな、ブルーベリーショートケーキって感じ……あっ、おはようございま~す!」


 おれも慌てておはようございます。深夜のメンバーがそろったところで時刻を確認。九時半まであと五分。天真爛漫川にレジを代わってもらうと、焼き鱈子の野郎、焼きプリンまで追加しやがった。やっぱり甘党なのか。


「あとあんまんも食べたい……、なー、ちらっ?」


「……」


 午後九時四十分ごろ、おれたちはそろってイレブントゥアイを出た。

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