第四章 単なる技術の問題だ 13 ひと段落
二球連続でストライクを取ったら、三球目を放った直後に、三夫婦にりるが電化した。
「《痛恨の一角撃》ぉ!」
心地良い金属音を残して白球が虚空へ消える。
「やったぁ~っ! ホ~ム、ラン!」
「コニカ、飛べ!」
「ああっ! 反則!」
どっちが……。
雷の速さで追い抜いてキャッチ、広げた針の孔へぎゅうぎゅうつめこむ。
「あっはっは、いい球投げるなあ~コニカ! うん、時速千二百二十四万七千七百キロ!」
機会を見つけては脱ぎたがる兄貴が、笑顔のまま地面にめり込んだ。
同クラの女子連中が、俺とは真逆の感情を抱いて、結果的にキャロットを襲撃。
「えっなになに!?」
いろいろ撫でられまさぐられ、額の角が大人気。ふむ。どうやら、親父譲りの黒竜江的な長身と、藪睨みになりがちな気持ち猫目が、更に壁を厚くしていたらしい。
「ななめーっ! みんなも打ってみたいってー!」
「おーしまかせろ! ひっさつ! 《アルティメット・ななめ・ストレート》!」
俺の放った曲がらない大魔球は、バットの芯でとらえられ、また綺麗な音を立てて飛んだ。そしてカニクイがドヤ顔でキャッチ。素直に腹の立つキメ顔で送球してくる。
「えーっ!? なんてーっ!?」
「そ と で あ そ ぶ 部ーっ!」
「外で遊ぶとか、危なくなーい!?」
「大丈夫ーっ! いざとなったら、私と減雄が闘うからーっ!」
がんばれ、にりる。俺は会話がいち段落するまで見届けて、次の打者が打席に立ってから、自慢の魔球をゆっくり投げた。
本日のテーマは、まさかの闇鍋。
月に叢雲、花に風――、好きな子同士で隠れて遊んだり、ふたりっきりでこそこそデートしたりするときに限って、邪魔が入ったり、不愉快な結末を迎えたりしがちなのは、スタート地点が一番幸せだからだ。――と、あいつは分析した。
それならば一番初めに”最悪”を持ってくれば、それ以上に鬱な展開は起こり辛い計算になる。むしろ悪と悪の組み合わせから、善の結果が生まれるかもしれない。
両想いのふたりは、大勢でわいわいしている間に、密着したい気持ちを高められる。ごめんなさいと断られた子も、みんなで遊んだ記憶があるから、不幸一色には染まりにくい。そこには当然、同類も恋愛嫌いも要るだろうから尚更に。
『お前……、よくこんな、快楽の極みみたいなこと思いつくな。全員を思い遣りすぎだろ』
『? それが遊ぶってことなんじゃないの?』
というわけで本日、四月二十八日、土曜日。人間以前に遊ぶことが嫌いな七七七瀬瞑鑼が、『人間社会』という名のスポーツでスタメン入りを目指してみた結果、テキトーに集めたメンバーで、いつかやるつもりだったものを全部やってみる。という『混沌日計画』が、実行に移されることと相成ったのである。
マウンドでスタイリッシュにボールを受け取り、小学生相手に大人気なく全力投球。
そう、俺の姉、七七七瀬寧鑼は意外と運動神経が良いのである。そして俺は意外と、後輩に対して面倒見がいい素振りで非寛容だ。無理っスよぉじゃねえ見んな、撮影も禁止だ!
「ふーん……。ごはんはなかでうってる?」
「うどんよ。動物園ではあったかいうどんを食べるの。ちゅるん。ちゅちゅ、んー、おいしい」
「コニカはねぎのはいってないやつにしよ。げってなるから」
「うん」
さらさらともふもふ、それぞれに違った魅力があるツインテールを眺めていたら、
「えっそれ彼氏?」
アホか。一億歩譲っても従弟だ。手錠か首輪をはめてもよければもう少し離れて座ってる。
「うわ、綺麗ー。って、あれ? なんで持ってんの?」
「共有するのは絶対許さんとか言って、くれた。親父さんが。だからあいつのは新品」
またいっちーが悲鳴を上げる。
「……ピッチャーとしても活躍できる気がする」
「身をもって知りたくはなかったけどね」
出来すぎな気もしたけれど、スポーツが絡んでいるのでそこまで不自然でもない。
意外でもなんでもなく見境ないキマシ大陸ちゃんに耳元で嗅ぎつけられたゼヲが赤面。
「あっそうだふたりとも、ちょっとこいつの練習相手になってやってくれないか」
「自分のタイプは超がつくほどの巨乳ちゃんっス!」
下ネタと他人の欠点イジリと正直な告白以上のトークの。




