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第四章 単なる技術の問題だ 11 スタメン

 青系統のミリタリー柄な浮遊機パンツから、のそのそと降りてきて目をそらす。


「人間社会の中で人間として生きてもいい権利を、最大限に利用するんだよ」


「でも、人間を好きじゃないまま、人間を笑顔にするとか……そんなこと、してもいいの?」


「いや、お前、こないだ暴走のコニカを捕まえてくれたろ? あれがもう既にそうだよ」


「あー、あれ?」


「お前が戦ってくれたから、俺たちは食べられずに済んで、嬉しかった。こういうことだ」


「ふーん……。そういうのでいいのなら、私、結構得意かも?」


「だろ!? お前はそういうの結構得意なんだよ! 普通は『人を好き』って気持ちよりも、『人の喜ばせ方』の方がわからないんだぜ?」


「へえー。そうなんだ。へんなのー」


 白のセーラー服も新橋色のスカーフも、未来が見える確信犯のもとでは特に目に眩しい。


「じゃあ、やっぱり私、生きてもいいのね?」


 俺は女子力まで上がってるオレンジの乱髪みだれがみを更に与謝よさらせながら、縮んだ身体で頷いた。


「人間だけは無理って本音を矯正しなくても、人並みに何かを好きになろうと努力しなくても、先生じゃなくて職人って呼んでくれなきゃ激おこになっちゃう魂も込めずに作品を拵えても、頑張れって励まされても頑張るなって刺戟されても手が止まるタイプの七面倒臭い天邪鬼でも、結果的に人を喜ばせることに成功しさえすれば、別に生きていたっていいのね!?」


「そうだ! 関西では面白ければいいのと一緒だ! 人間社会では人間の役に立ちさえすればそれでいい! どれだけ人間が大好きでも、結果的に『オレのことを好きになってよ』というメッセージしか送れないやつよりは、本音がどうであれ、人を笑顔にしようと努力して、結果的にそれに成功したやつの方が俺は好きだ! それに、見返りがひとつも要らないお前には、うってつけだと思わないか? この仕事」


「んー、思う」


 左目を覆う眼帯に「思う」という文字が表示されて、「つまり」へと変わった。


「人の役に立とうと思考し、人の笑顔を引き出す方法を考え、実行して成果を出すことのできた存在が、植物であれ、動物であれ、人間であれ、化物であれ、『人間社会』という名のスポーツにおいて、『利用価値がある』と、スタメンに選ばれる。――こういうことね?」


「うむ。まさしくそうだ。即ち『選ばれる』ということは、自分の意思で『選ぶ』ということと同義だったんだよ。――それに、他人を幸せにする方法を考えるのって、自分が笑うことと同じくらい、美容と健康にも良いんだぜ?」


「あと、鬱治療にも良いらしいわ」


「なんだ、お前、そこまで知ってたのかよー」


「あと、よく考えたら、人間嫌いは別に、大罪でもなんでもなかったわ」


「おっ、すごいところに気付いたなぁー。人類史上稀に見る天才?」


「えへ……! スタメン! www」


 確かにこの世は圧倒的にMの方が生き易い。しかし、防御力が0で、攻撃力が∞といった、正真正銘の《無M》なお前にも、このスポーツで勝利できないってことは、ないんだよ。


「それじゃあ僕は始末書を書くお仕事をしに東京へ戻るけど」


「ねえオッサン、今夜は帰って来られんの?」


「引くのはあくまで本人の同意が得られなかったからだからな」


「ねーえー? お父さーん」


「んー? 絶対☆無理」


 にりるパパが娘の制止をちゅーとかハグとか嘘の約束でどうにか振り切って、浮遊機へ乗り込むまで見届けてから、俺は瞑鑼を抱えて三年四組の教室へ下りた。とにかく腹減った。そして寧鑼お前は食いすぎだ。ちょっと寄越せ。いや、弁当があったか……。


「はい、お茶」


「おおっ、サンキュー! んっ、んっ、はあっ! うまいっ!」


「はい、ななめさんの好きな、アップルタルト」


「あむ。うん! うまい! お前……、あむ。うん! うまいよ!」


「そう? よかった。ふふ」


 運動後に甘い物って、う~ん、感動!


「――ああそうだ、コニカは大丈夫なのか」


「え? うん、大丈夫よ。ちょっとびっくりしただけでしょ」


 探してみると、浮遊機を見上げる減雄の脚に、彼女はしっかりしがみついていた。音もなく舞い上がってゆく親父に、にりるがぶんぶん手を振り続ける。無表情でうろうろしていた瞑鑼が、はたと立ち止まって空を見上げ、「あっ」と言う。アーティカちゃんが俺の髪を触る。寧鑼ねいらが机に突っ伏して、すーすか昼寝を開始する。アーティカちゃんが俺の角を握る。ああ、そういや電化兵器ブッ刺しっぱなしだっけ。そして最後に、金色こんじき侵略的害雷光線エイムレスビームが空を薙いだ。


『!?』


「お父さーん!」


 黒焦げのアフロヘアが、ハンドルを握りしめたまま、瑠璃金剛の電撃を撒き散らして激昂。娘がほっと撫で下ろす。直後、黒板からまたニュース。俺は飲みかけのお茶を噴き出して立ち上がり、前のめりに突っ込んだ。


「断固抗議!」


「いや、それ私の!」


「またまたカミツキかよ!」


「カミツキまぢしつけぇ~っ」


「卍それな卍」


 でもあるあるだよね~♪ とか言ってる場合じゃない。今度は二体も居る。筋肉芸人がドマイナーな非公式ご当地キャラの着ぐるみでモノボケして大スベリしちゃったようにしか見えないとか、そもそもお前ら海の生き物じゃねぇーだろとか思ったところで時間切れ。首を引っ込めた片方に、残った一体が飛び乗る。そして発進。ふざけんな。俺は溜息を手短に済ませて、お茶をぐっと飲みほした。


 ボード役が爆散。三度変形したアンデスコニカの右腕、《蝶々科学砲イーヴルガン》から、秒速六万キロ、マッハ十八万もの速度で、注射針が射出されたのだ。刀を手に、あるいは手を刀にした俺たち三人が、上へ逃げるしかなかったデューク・カメナモク目掛けて一斉に突撃する。


「《竜に沙綾エルドラード・形綸子の翼エクスカヴェイター》!」


「《辛辣なるヘリオスソーズ・四獅子刀ヘリオブレーズ》!」


「《IH・ななめ・クッキング》!」


 きん鍍金メッキを纏った手裏剣が心臓を掘削し、デフォルトで四刀流の侍ブルーZが四肢を切断。串刺しにされた胴体が更に、高熱を伝導させられて、大規模な水蒸気爆発を起こす。

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