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第四章 単なる技術の問題だ 08 ともかくこいつも自然の摂理だ


 野太い雄叫びに放電が重なる。東京にいるアナウンサーが、奴のサイズを伝言ゲーム。甲長は六十メートル、全長は百二十メートルにも達するようです。

 馬鹿か。何のB級怪獣映画だよ。いや待てよ。もともとレベル70だった無目敵が、更に半人化したのなら……?


「行くぞ、イーヴル! 出動だ!」


「うんっ、はい。でも、ちょっと、めいちゃんにちゅーしてから、」


おお(On the) いそぎ(double)!」


りょう(Roger) かい(that)!」


 脱ぎ棄てられたその瞬間だけ、ブレザーなのに学ランに見えた。例のある意味ハイセンスなタンクトップである。両腕がZアームへと変形し、Zジェットエンジン付きのZウイングが背中に顕現。稲妻はもとより火輪の花弁だ。

 リュックを預けて行ってきまちゅ。左手の開眼手袋もだった。はい。右手が漆黒の破壊針へ、髪をくくる藤色リボンが鋭利な避雷針へと変形。幸せのピンクの四葉のクローバーが、か細い、否、蝶細い腰で、魔法少女の花蕊かずいをにおわす。


 ふたりを止めることは誰にもできなかった。それは全身の筋肉へ電気を込める掛け声に圧倒されたからでも、超々蝶々高圧電流を帯びたその身体に触れられなかったからでも、ふたりに無目敵の討伐義務が課せられていたからでもなく――、


「《崇高なるマグニフィセント電光朝花・ヘリオトロープ》!」


「《極楽へのデスベッドメイク絶命包助・バンデッジ》!」


 新橋色町へ侵入した途端、足場を崩されたBクラスが、紫電の包帯で上半身を縛り上げられながら無様にくずおれる。地響きがこんなところにまで届く。


(三階だから余計に揺れるのか!?)


 塞翁の息子は落馬して脚を骨折し、戦場へ赴けなかったがために生き残って幸せになった。一夫多妻制度が国に認可される背景にも、戦争によって男性の数が激減したという、かの有名な事実が存在する。

 紅鮭もそうだ。肥満印の自称陽キャが『ウェーイw』と河川を陣取って、クラスの隅っ子を逆極楽の大海原へと蹴落とす。すると数年後には、あんなにもヒョロガリだった弱虫が、ヒトの♂でも惚れこむフェイスと、誰もが焦がれるレッドの座席を手に入れて凱旋。成人しても青っ白い、元ガキ大将こと陸封型のヒメマスボーイを、一匹残らずはねのけて超絶ガチリア充になる。

 全ての弱者が過酷な修行に耐えられるわけではない、つまり――地獄が万人に間違いのない成功を約束してくれるというわけではないし、義務教育というせせらぎの中で、睡眠不足を鼻にかけていた優等の文化系が、努力と根性で舞い戻ってきた元劣等の体育会系に、好きな先生ランキングで惨敗するといったような事例も引き合いに出さなければフェアではないけれど。


 ともかくこいつも自然の摂理だ。


 右胸にアーティカ、左胸に寧鑼、背中ににりるが密着してくれているのも自然の摂理だ!

 嗚呼それでも、尽き果てた乾電池を見るような視線さえ寄越してくれない麗しの妹よ!

 私は貴女のおみ足をお守りして誇り高く塵芥へ帰す、ひと夏だけの草履になりたい!


 超特大のカミツキガメマンがさっきよりも高い声で吼えた。包帯に対する抵抗をやめ、後肢と長い尾を巧みに使って上体を起こす。直後、引っ込められた頸部の空洞から黄金の――、


『《侵略的害雷光線(エイムレスビーム)》!?』


 また予測の通りに二度も校舎へは向かって来なかったその光線は、かろうじてかわすことができた野次馬連中の自家用浮遊機パンツをことごとく制御不能にし、地表に三角の雨を降らせた。

 奥から重低音で唸り散らかし、もう一発。今度は北北西の空が死んだ。巨大な頭部をずるりと出しても君には目がついていないでしょうが。近くにあった風車を掴んで大ジャンプ。着地と同時に田んぼがはじける。また何もかもが震えて、合計三十本もの指が、俺にメリメリめり込んだ。ホラー!


(普段は軟体動物並なのに、火事場の馬鹿力、パないよ君たち!)


 もう奴は目の前に来ていた。


(小気味の山が、低すぎるんだ……!)


 鋭い嘴がのそりと開く。口腔内が金色に光る。ゲームの中でしたってオチを、今こそ期待してしまう。みんな汗かいちゃって、自慢で卑下する女子高の冴えない男性教師じゃないけれど、緊張で筋肉もガチガチだし、目を瞑ればもう男同士で抱き合ってる以上に男くさい。


 大概の怪我はAKCこと、あくまで科学の力でどうにかなる。しかしながら流石にここで、侵略的害雷光線(エイムレスビーム)を射出されたら、俺たちは確実に跡形もなく消滅する。まあそりゃクローンを作った上で、記憶のバックアップデータをインサートすれば、一応は復元できたと言えなくもないが。うん。なんだ? それじゃ別人じゃん?


『!!』


 俺は密かにこういった、空中でブレーキをかける動作が好きだった。


「っ、なんだ今のビームは!?」


「《銭湯泣かせのアルアリータ・へそくり砲ベリービーム》だ!」


「なにぃ!? アルアリータ・ベリービームだとう!?」


 嗚呼、悲しいかな、口頭では読みだけしか伝わらない。


「是が非でもスカウトしなければならないッ! この、《有目的戦隊ゼロデストロイヤーズ》に!」


「《アンデス麻酔・デストロイヤー》ッ!」


 注射器のみで造り上げられた、特大のアームハンドなんて初めて見た。まさか殴り飛ばされるなんて思ってもいなかったであろう亀巨人が、緑の電気を吐き出しながら跳ね起きる。いったい何を諦めないつもりなのか? 握り直してまた走り出す。ゼロデスイーヴルから放たれた二頭の雷龍が、両の肩に絡みついて蝶結び。慣性で敷地内へ再侵入して一歩、二歩。そして――、


 巨大なかいなが宙を舞った。


 三歩目でバランスを崩して、盗むべき塁もないのにヘッドスライディング。ゼロデスジャスティスが奴の後方で着地――からの回転。校庭に左腕と、右腕付きの風力発電機が追加され、ポーズが決まった合図の瞳を装飾し終えた、レーザーZシザースから光が消える。

 俺は感極まったなまぐさいキッスの嵐に見舞われた。

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