第四章 単なる技術の問題だ 08 筋肉隆々と言わせてもらいたい
おい、ここは一体、何という悪の組織の総本部なんだ!?
つい先ほど天井を消し飛ばされて、青空教室へと新生したばかりの三年四組には、俺のよく知る六名の幹部たちが、気まぐれで霧消することなくまだ残ってくれていた。
不謹慎だけど、正直言ってテンション上がる。中二心が、くすぐられすぎる。座り方とか、なんかかっけえ! あくまで教室の中なのに、髪の毛が風に吹かれているぜ!
「おにい、じゅうすももってきた!?」
「あ。ああ、うん、持ってきたよ。はい」
「わぁ、ぐらちゅがーど! んふw」
「お前、いろいろと混ざってんなあ」
黒と紫のゴシックロリィタに、まさかのデニムショートパンツ。例の左手を封印した、超かっこいい『開眼手袋』。背中にはグルミドクロラビットのぬいぐるみリュック。茂缶バッジに、高電圧注意と、アーティカちゃんの稲妻と、瞑鑼のリサイクルマークのピンバッジつき。
マジでいろいろと混ざりすぎ。
(まあ、あのふたりと一緒に暮らして、俺の妹に育てられたらこうなりもするか)
「コニカもなんかわたす」
「じゃあこのお水、瞑ちゃんに渡してきて」
「めいちゃんはおみずがすきだけど、そとではあんまりのまないけど」
「うん」
現れたのは侵略レベル70を超えた無目敵。何型なのかはまだ判らないが、学校が避難所になって軍が出動し、テレビで放送されるレベルだ。相当な脅威であることは間違いがない。
一番安全と謳われる体育館へ避難しなかったのは、二度同じ場所が攻撃されることはないだろうと踏んだため。寧鑼がここへ来たのは、友だちが家族のもとへと行ったから。
荷物を一旦中央の机へ。減雄とにりるがのそのそやってきて、飼い慣らされた大型猫科。わさわさ。もそもそ。視線を感じて振り向くと、そこには隻眼のタイリクオオカミ。いやそんな、射殺すような視線を寄越さなくても。あんたほとんど外では飲食しないでしょうが。すぐに歯を磨かないと虫歯になるから食べないとか、おトイレに行きたくなるから飲まないとか、絶対言うじゃん。確かにこないだは一緒にパン食べたけどさー。え? 違う? 子どもの分だって? まあ待て。
「眄さんはどれ食べます?」
「ん? 別に余ったのでいいけど……」
「ふうん……。あ。私、これにしよっかな」そう言って、アーティカちゃんが、ブルーベリーワッフルを手に取る。「半分こする?」
「いや、そんなには」
「ああ、そう。じゃあ、はい。あーして?」
「あぁー?」
甲高い戦闘機が上空を蹂躙。黒板に映し出された隣町――太平洋沿岸の居住禁止区域にある極楽鳥色町で、大きな爆発が何度も起こる。
垂れ上瞼のタイレオポンと、気持ちつり目のベンガルトラが、それを見て何やら会話。耳元で何かを囁かれた、ゴス紫のムシャクロツバメシジミチョウが、あどけない顔で笑う。細い指先が俺の唇に触れる。ティッシュで拭くのかと思っていたら、口の中に入れられた。
「――で、姉ちゃんはこれ。なんかの肉弁当」
「はーい、ありがとー♪ なんかの肉♪ でも太りそー」
「大丈夫だよ。……あとちょっとぐらいは。ぷよ」
「お腹は、やめぇーっ」
「コニカもなんかのにくたべる!」
「はい、ビーフジャーキー」
「うむん、あむ。んまい……。んむ」
「ちょっと、あれ!」
割り箸を激しめに置いたにりるが、大慌てで流し込んで黒板を指さした。
ピカリと閃いた地上から、電気を散らして左腕が豆の木。
薙ぎ払って蜂の巣にされる。
「まさか、また開眼!?」
「いや、あれは半人化だ! 奴の眼窩には眼球がない!」
燃え盛る炎が風の前で砂絵に変わる。そこには鋭い牙までなかった。そして、極端に小さい十字状の腹甲には、赦された一生懸命のように、もうそろそろ筋肉隆々と言わせてもらいたい男性ボディビルダーの手足が、清々しいほどに似合っていた。寧鑼と顔を見合わせる。
(あれってまさか――!?)