第四章 単なる技術の問題だ 07 再登場の三夫婦にりる
「大事件、大事件!」
ほんの数分前に颯爽と俺たちを追い抜いた三夫婦にりるが、いつもの台詞とともに大慌てで再登場。まだ駐輪場にいた俺を発見するや否や、
「あっ! いた! 眄! あのね、今校庭にね? おっきな、」
だから、すぐに、答えを言っちゃ駄目だって!
「ふう! でもほんとに校庭におっふ!? ふんむむ! あぐー!」
「あいてっ」
「ん? なんか、女の子のにおいがする……」
「いやそれはお前別に昨日の夕方から判ってたろ?」
一緒に夕飯食ったんだから。
「あっ、減雄! 今日こうてイィヒヒ!? っは、やめろっ……この! におっきなふうむ、がぁーう!」
「?」
こういうときは初めに『アレ』を見つけたんだけどって感じに、代名詞を用いて素っ気なく、または笑顔で呟いて、俺たちに『何?』と思わせてから、必要以上のもったいはつけずに目的地へ誘導するんだぞ。とレクチャーしながら校庭へ向かうと、そこには直径四・四メートル、全高百メートルもの、巨大な『アレ』が屹立していた。
「なんでこんなところに、風力発電所の風車があるねん!?」
「にりる、お前……」
『な』『と』『電』『車』『あ』にアクセントを置くという、ザ・誤謬だった。
どれだけ赦してくれるネイティヴの方が居たところで、突っ込める余地が少しでも残っていたら、ボケの利点まで欲張っちゃった感が出るからよくないんだけどなあ……。『ウケたい』って想いが純粋であるからという理由で『ウケた』を獲得できればそりゃ最THE高だけど、現実はナチュラルに入れ替わりが激しくない絵本の中じゃないし、やっぱし初めに基礎練習をやらないとさ? いや、でも、うん。誰よりも伸び代は大きいかな? 良い様に考えるとね?
「てかマジでこれなんなの?」
「んー、東京の裏側についてたのが、一機外れた……とか?」
「ああー、落風車注意ってやつ? 注意の仕様がねーよ! みたいな? あは、」
「それ! 今の超よかったよ!」
「えっ、なになに!?」
突然、グラウンドへ二本目が突き刺さった。
その衝撃によって、俺だけがその場で格好悪くずっこける。四十メートルを越すブレード部分を回転させながら、風力発電機がゆっくりとこちらへ迫り来る。減雄がふわりと着陸して、にりるを俺の上にそっと置く。
善合八年、四月二十六日、木曜日。
県立新橋色中学校・高等学校は休校となった。




