第四章 単なる技術の問題だ 06 悪なんじゃないのか?
いっちーがどっきーと買い物に出かける。縛りたいけど縛られるのは嫌――って人の危険性を、配偶者はよく解っていた。身体を張って、なかったことにしてみるも、監視員の怒りを鎮めることはできず、娘が家を追い出される。
見覚えがないというのも嘘。家の中に居たことは本当に知らなかった。自棄になっていた一月拱は、娘が遠く離れるまで待たせてから、妻にあのクイズを解かせた。必死に母を捜す娘の向かった先には、必ず愛する娘が居る。間違えた妻が南へ駆ける。
一月拱にはもう、何もかもがどうでもよかった。どう転んでもうまくいかないんだ。そんな思いがあんな設問を生んだことは間違いがない。どう転んでもうまくいかない。
南の方角――でなくともよかったのだ。『Ⅹ』はAI様に盾突くことが主目的の、捨鉢な気分ででっち上げられた、解読不可能な意地悪問題なのだから、普通は飛ばして考えるしかない。
人間は町に、街に、身を寄せ合って生活している生き物だ。どの方角へでもいい。まっすぐに飛び出してみよう。するといずれは無目敵たちの生活圏へ、テリトリーへ、侵入してしまうことが、図示しなくとも見えるだろう。
どう転んでもうまくいかない。
密かに給餌し続けていたママは、辿り着いたトーラのギルドで捕食されずに歓迎された。
人類のために駆除活動に精を出していたパパが、仕留め損ねた個体に復讐を決意させる。
「漠然とだけど危惧はされてたんだよ、発売前から」
「?」
こいつを使用すれば、どんなに俊足のウサギでも一瞬で、自分より九千九百万も多くの色が見られる鈍足のカメと肩を並べることができるのだ。誰が今更、高額な手術代を支払ってまで、またいつ壊れるやもしれぬ自前の目玉を、単なる元通りの状態へ修復したいと願うよ?
ⅰPS細胞。
再生医療の分野。
絶対の繁栄が約束されていたはずだった。
「それでドイル先生の真似事をしてみたけれど、そこも超科学に侵されていたってわけね?」
「顔を似せて脱獄しましたって今言われても、えっ指紋は? DNA鑑定しろよw ってなるもんなあ」
「それってルブラン先生じゃない?」
俺たちの子どもがティーンになった未来では、無目敵なんか綺麗に掃除され終わっていて、いま俺たちが培わなければならない戦闘の経験も、まるで無価値になっているかもしれない。
今まで積み重ねてきた努力を意味のないものにしないための足掻きって意味があるのか?
自分がしてきた努力を意味のないものにしないための努力って、善なのか? 悪なのか? 悪なんじゃないのか?
「何が善で何が正義なのか? そんなものは決まっている」
いやそれが一番早いけど……どうやって交換したのかというと、脱いでく姿をチラ見する俺が撮影されながら――だ。考えてやがる。変な気を起こしたら秒でUPされて人生終了だろう、たとえ同い年であったとしても。しかしその、不自然に引っ込める気もないおなか。鍛えているから見せたいタイプでもないっていうのはどういうことなの。羞恥もなければ矜持もなかった。
「世代が変わって環境が変わって、運悪く強化してもらえなかった旧時代のエースは、さっさとレギュラーから外して、100%の運に恵まれた上で100%の才能がある者に100%の努力をさせてスタメンに起用する――こいつを時代の節目々々に繰り返せばいいのよ、わら」
多分こいつ、マッサージにも全然興味ない。
だってどっこもこってないもの。
「一番『ありき』なのは『最新の環境』。手腕がいくら充分でも、新しい時代にまで旧時代の衣装で自虐無しに出張って来られたら、気に入らないという意味で面白くないと評される。『お前ばっかり活躍すんな(共感を寄越してくれないエリートには貢ぎたくない)』。全ての瞬間で全員を一位にさせ続けることなんて到底不可能だから、人生で一度は花を咲かせてあげることで、皆に幸せを公平に配ろう。現在満開な人を把握して、次はまだ日の目を見たことのない者にスポットを当ててやろう。何よりも自分の倦怠と、代わり映えしない日常を破壊するために。他人を平等に扱いたいと欲するのは、あいつだけ贔屓しやがってと非難されたくないがためよ。風向きが良くなるまで静かに耐え忍ぶのも、れっきとした“努力”じゃなくって?」
徹底して携帯って言わないのは逆におじさん臭いから、たまにはスマホって言ってみない。
いや、遠慮と敬語もお前には必要ないんだろうがな。
「うわ『だれ』だって。はや」
「悪友って返しとけ」
「『女の子に、なっちゃった~☆』」
自分から誘ってみたものの、キス以上の百合ップリングはあんまり上手に想像できなくて、どうしてか上半身裸の、二〇加屋減雄が鮮明に浮かんだ。まぢ細マ。細卍。
「え~、それでは、そろそろお別れの時間がやってまいりました。寧鑼姉ちゃんのセカンド姉ちゃんねるラジオ、本日のゲストは七人娘さんでした~ありがとうございました~8888」
「ん七人娘さんでしたぁ~888、ありがと~、みんなまたね~♪」
「今日は風呂に入ってから寝ろよ」
「もう入りましたぁ~88」
昨日にかも怪しい8。




