第四章 単なる技術の問題だ 06 六つの世界
ということでここから、『PROV‐i 4』について本格的に紹介する。おさらいになるけれど、こいつがその、誰でもお手軽に『四色型色覚者』になられる最新ゲームのハードだ。
お手軽に――つまりお手軽でない方法でなら、実のところ人類はこいつを待つまでもなく、『四色』の視界へ既に復帰できていた。電化兵器やAKCに大金をかけられる層になら。
そもそも哺乳類とはなんなのか?
陸海空に昼夜をかけた六つの世界が、この地球上には存在している。ありとあらゆる腕力に屈し、尻尾を巻いて逃げ出した、惰弱な爬虫類の成れの果てが俺たちの祖先だった。例のごとく禍福が巡るが、失った色は取り戻せなかった。マンドリルに青い体毛は生やせない。アオカケスは羽毛自体が青い。ミノバト様に至っては、おいおいそれじゃ乱獲されちゃうよと憐れみの情を抱けるまでに、重箱の隅をつつかなければ自尊心を守れない。
昼の世界で勝ち抜いた目玉も、深夜の秤にかけられたら『鳥目の鳥頭』と酷評されるように、夜の世界で生き延びた目玉を昼の基準で測定すれば、『鷹の視力って知ってる?』と、夜目が効くように頑張った進化を一切評価されないものだ。単純に退化しただけではないのでややこしいが、問題の核心は受容器、つまり眼球にあって、脳にはなかったということ。
この事実が、再び日の下へ返り咲いた俺たちにとっては、幸運なことに好都合だった。
『Super美女四』――というのは、天然というか無改造の、自然発生的な四色型色覚者四名から成る女性アイドルグループの名前だ。PV4のイメージキャラクターに偶然運良く抜擢されたために、発売当日、世界の主要都市をライブしてまわっていたのである。広報活動の一環として。
『SVティアラ』。
額のカメラで第三の目、開眼気分。SNS映えにものすごくこだわる寧馨児の寧ちゃんは、自前の両目も同時に開いて終始眺めていたけれど、余計な”三”まで混ざって見えるために、普通は室内で目を閉じて使います。
『SVARゴーグル』。
プレイ中の自分の見た目ではなく、最新のゲームを実際に体験することの方を重視するのが、当たり前のゲーマーだ。メインの『SV』なる映像をより快適に視聴するためには、人間目をオミットしなければならないのであれば、いっそそのアイマスクにレンズをつければいいんじゃね? 更に、脳に直截送っているのだから、ゲーム内の映像を重ねることも可能ですということで、拡張現実も四色型で窘めるVRゴーグルが誕生しました。というわけだ。何か質問はあるかな?
「接続方法を言わなきゃ」
「接続方法? それは普通に、IDチップを充電するときの要領で、血圧を測るときのリストバンドみたいなアレを、手首に巻けばいいだけだけど?」
「うん。だから、それじゃない?」
「いや、うん……。まあそうなんだけど」
冒頭にこの説明をくどくどと持ってくるわけには行かなかったじゃないか。
「でもこんなのって、生まれたときから人類全員に入ってるぜ?」
「はい♪ じゃあ今ここで、私が最初にした質問に『病院だよ』って答えてね♪」
三人は今どこで生活しているの?
「『病院だよ』と答えれば、ベッドの上で入院している姿をリスナーは最初に思い浮かべるでしょう。家が燃えたのに大団円って違和感しかないわよね? 雷を落とされたら燃えるわよ。ハッピーエンドを疑わないなら、ないとは一言も言っていない隣の診療所は無事だったという可能性が浮上する。『男の袴姿』。こいつが、輪郭の加筆に見せかけた本当のミスリードで、『こまねきさん』は作家じゃない。勿論、だからという理由で、ミステリ作家であるという解答へも繋がらない。『息子を医者にする方法』というスレタイの方が、これミスリードじゃね? と読み解かせるための、本編に本当に関係がある、逃げも隠れもしないけど? 系の伏線」
「今すぐにおみ足を揉ませてください!」
「それって七太郎さんが得するだけじゃない?」
「だけってことはねぇーさ!? どう考えても揉んだ方が疲れるべ?」
「あっ、じゃあ、女装して動画回しながらなら、全身マッサージしてくれてもいいよ?」
「厚手のゴム手袋も装着した方がいいかな?」
「それはちょっと失礼に片足突っ込んでる♪」