第四章 単なる技術の問題だ 06 蝶でかリボンの七人娘
華も味気もないからと、ゲストを欲張った俺が馬鹿だった。
その質問から答えるとなると、理想の進行に非常に都合がよろしくない。
「あー、俺は。俺には。わざとらしくすっとぼけるはぐらかし方が――嫌いでなくとも似合わない。鈍感系主人公というものは絶対に、生み出した作者までO型でなければならない。そうだろう? えー、つまりその質問には。諸事情により最後の方でしか答えられませんでした、そのでかリボン! 赤いのが蝶かわやね? 似合ってる」
「あら、ありがとう♪ うれしいわ。七太郎さんもその眼鏡似合ってるよ? ♪♪ うさ耳の方にしようかとも迷ったんだけど、やっぱり三人一緒がよかったから――」
「俺ちょうど昨日、七人娘さんが赤い蝶でかリボンを装着してくれないかなーって考えてて」
「なんのアニメ見てたの」
「いや、漫画」
みんな大好きカオス理論で、予想以上に膨らんでしまったので、この辺で一旦整理しよう。
本日は四月二十五日、水曜日。鳥コロに入ってたのが午後六時ごろで、現在は七時半過ぎ。
この三日の間、なんと、驚くことに――、
鬼が暴れまわるような火の粉には、降りかかられなかった。
会いに行く瞑鑼様に付き添って、専用の送迎浮遊機に乗せてもらってばかりいたら、にりるのやつにまた、部活に来いと叱られたくらいだ。
「そういや浮遊機って、どういう原理で浮いてるんだっけ?」
「素粒子を放出して――よ。簡単に説明すると、原子炉とコックピットの間に、素粒子さえも通しにくい素材が挟まれているわけ。原理は幼稚園児でも描ける初期型のUFOと一緒。あれにも裏側についてたでしょ? 電球みたいな原子炉がいくつか。ではそこで核燃料を核分裂へ導くとどうなるか? 光を放つのは当たり前だとして――、地表方向へ放射された素粒子は、真上から直截私たちを押さえつけている素粒子の滝――旧時代の地球語で言うところの『星の引力』――つまり、名称はそのままに中身だけが入れ替わった『重力』を遡るための推進力に変わる。更に、透過できなかった上向きの素粒子も、そのフィルターを押し上げる働きをして、機体の上昇を補助する。このふたつを、地球を貫くことで必然的に減速した真下からの素粒子の波に上手に加えて、素粒子の波が均衡する点を随意に選択することで――浮揚しているの。リスクばかり目につくぜ、飛行機やヘリコプターと比べて何が優れてるんだ――って問われたら、効率かしらね? 化石燃料ってすっごいかさばるじゃない? 搭載すればするほどその重みで消費量も増加してしまうのが、是非とも抜け出したかった悪循環だし。飛行しながらの補給中に襲撃されたら打つ手がなかったし。巨大でかつ容量の小さい集積回路が、今後どんどん求められていく未来の方が、より発展していると言えるかしら?」
「電化兵士は?」
「A・K・C♪」
動物園へは予言の通りに、また今度行くことになった。とはいえ新緑色市内では、大型肉食獣を除いた大半の動物が飼育されているので、目当ての狼分しか残念ではなかったけれど。
「それじゃトーラちゃんの安否でも尋ねようか? それとも、湯沐はさぞ楽しかったでしょうねえって私がデレる?」
「んあー、んー。でも七人娘さんってあんまり、というかほとんど“怒り”ないじゃん。感情の中に。嫉妬もあんまないでしょ? 普通の人と比べたら」
「ん~、あんまねぇなあ~。特大ブーメランになって返ってくるからかね? 自分は縛りたいけど縛られるのは嫌――って人もいるけど、それって我儘が過ぎない?」
「じゃあまあ、テーマは混浴。どうもこうもないけど、とりま行ってみたいと思った?」
「え~微妙。いやみんなでわーって遊んでて、なんかこんなんあった入ろうぜってなったら、『絶対嫌~!』とは言わないけど」
「七人娘さん、調和大切にするもんね。あんまストレス溜めないようにね」
「んー。私、レズ寄りのバイだから。それに弟いるし」
「正直な話、七人娘さんってお風呂嫌いだよね?」
「だって私、人より汗かかないもん」
馬に乗ったり、一輪車に乗ったり、また突然無気力になったり、うんうん唸って寝込んだり、いきなり元気になってふたりを連れて来たり……。現在も鋭意継続中な、七七七瀬瞑鑼の目的捜し夢探しは、おおむねそんな感じであった。
「トーラちゃんは逃げたよ。その後の行方は杳として知れない。海や崖で死にかけて、劇的に救助されたら、肉食獣の愛玩動物には『愛情だけをたっぷり注いどきゃいいや』が通用しないことを学びたがらない飼い主が、またうっかり目を離した隙に脱走されるんじゃないかな?」
「ティナっていうのは?」
「ホクベイカミツキガメの学名が、『Chelydra serpentina serpentina』っていうらしい」
「へぇー?」
こんな世の中を生き抜くための過保護。躊躇する一刹那と妨害される脆弱性を殺しに殺した、電化兵器内蔵型の電化済人間。それが、オニガデルカ・ルクレティオの正体だった。
バッグの中に入っていた、予備の電化兵器の名称こそが《甘魅了》。
中学の頃によく妄想した、できるはずもない“二段階電化”ではなく、外敵の、無目敵の、人型無目敵の脳と神経を強制的にジャックするという攻撃に使用されて――電化人型無目敵、AI轆轤首河童童女の、アルアリータ=サーペンティナへと新生する。
裕福な家庭の小学生が巨大だったのも、電化に耐えられるようにと親が盛ったからだろう。
「最後の方とか特にわけわかんなかったけど、要するに発端はこれでしょ?」
「えっなにそれ」
「グルミムカシトカゲちゃんに入れてみた♪ かわいー♪」
なんか逆に踏みそうで怖いし、酔いそうになる字面だな。
「ゲームはほとんどやんないっていう、リスナーさんもいるんじゃない?」




