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第四章 単なる技術の問題だ 05 桜斑の独眼竜

 光景のことだと思っていた。

 結びつけた映像の方が、いつの間にか浸食を終えていて、本物に成り代わっていた。


「《鬼ヶ島流しのオニガデルカ……」


 離れなくなった“お父さん”を疑う前に。脳味噌を乗っ取られた、架空の不運な一般市民に怯える前に。あるいはあんな無理難題に、救いの光を求めて、集中力を分配したりしないで。もっと以前から、俺たちが当たり前に警戒し続けておかなければならない“敵”が居た。


臙脂虎渡しサーブルレパード》!」


 臭い。

 くさい。

 血腥い。


 てんで見当違いだった。あのとき俺は元凶を、田畑へ加えられた鶏の堆肥だと決めつけた。まさか陸地に打ち上げられているはずがない――。一番それっぽい結論で勝利を焦った。田舎臭い・・・・。確信したくなって疑いたくならなかった。魚類の下等な血液だから鼻持ちならない汚臭を放つようになるのだと、思い上がっていた脊椎動物はそれ以上思考しなかった。


 心のどこかでこいつらだけは特別扱いしてもらえると思っていた。しかし個に罪がないのはどの生き物も同じで――野に放たれた時点で、帰化してしまえば例外なく、侵略的外雷生物に定義されるのだ。

 ああ確かに俺は今、驚倒きょうとうしている。最もありふれていて、最も危険だと言ってしまっても過言ではないこの無目敵に、まだ食い殺されていなかった事の方に。


 突如として襲来した巨大猫と、正義側にはとても見えない烏羽色の剣歯彪が、むき出された互いの牙に頸動脈を狙わせまいと、組んずほぐれつ、抱き合うように絡み合って殴り合う。


 その辺のフレンズにホイホイと直立二足歩行をされたら、知能指数の高さを拠り所にしている、サピエンス様の立つ瀬がない。手で物を上手に掴むことができるという論拠で――デグーなんか知らない――人類だけが唯一の知的生命体であることを証明したかった。

 さっきみたいにさっさと縛り上げればいいのに。


「ィヤァ――――――ッ!」


 いっちーが白目をむいてブッ倒れた。


(馬鹿か俺は、ちゃんと人の話を聴け!)


 なんでもは無しのリングの上なら勝敗は違っていただろう。

 オニガデルカ・ルクレティオの勝利条件は、俺たち全員を守り抜くことだった。そこから派生した“撃退”という選択が一見最善であっただけ。人生はやり直せるが時間は巻き戻せない。こんな場面になってやっと、相手の勝利条件を把握することで、こちらの勝率を上げられるのではないかと閃く。


 そのためには奴が何故この場所へ現れたのかを考えなければならなかった。推理しなければならなかった。想像しなければならなかった。その上で、正答もしなければならなかった。


 血みどろの左顔面に翡翠石の蛇の猫の眼が光る。

 游蛇ユウダのように動かせない猫の尻尾もありえない。

 白猫だったことくらいしか俺には判らなかった。


 巻きつかれてなお奴は走った。きつく締められて転倒し、フウッと毛を逆立てて一撃、表札が木っ端微塵になった。立てば四階にまで届くのだ。本来のデルカに二階建てアパートほどの体積があってやっと、奴と互角の相撲を取り続けられる計算になる。

 ぜんぜん似ていないのに思い出した、リアルな猫の鳴き真似が得意な小学校の同級生は、美人なことに自覚がなかった。地味系男子の仲良しグループに流れ着いて巧笑こうしょうする。解放された若松が火だるまになる。


 雷を落とされた一軒家から、ひとりの男が飛び出した。

 桜斑さくらまだらの独眼竜が、枷を振りほどけないまま跳びかかる。

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