第四章 単なる技術の問題だ 04 ないわよ、雑穀ご飯しか
割って入ったのはいっちーママだし、暴れ倒したのも彼女なのだけれど、その騒動に。あの揉め事に。家庭外家族会議に。首を突っ込んでわめき散らした男が居たらしい。折悪しく収束する直前だったので、発言内容が乱暴すぎたこととも相まって、手錠をかけられるまでには至らなかったけれども、セオリー通りに彼が初めに取り押さえられてしまったのだとか。
熱心なゲーマーだったのなら、気持ちはわからなくもなかった。猫に置き換えよう。お小遣いを貯めて子猫を買った女子中学生が、許しをくれた母親に奪われ、目の前でミンチにされた。そこに集まっていたのは熱心な猫好きだ。自分も今日、子猫を家族に迎え入れた。理性を失う。もはや他人事ではなくなっていた。説教のひとつで怒りがおさまるはずがない。
一応考察してみたけれど……それでは“謀”へ繋がる前に話が終わってしまうな。
つまりはそうではないということ。
「人間らしくなかったんです。キレかたが。人間らしい狂人なんて、いるはずがないんですけれど。ブッ飛んでいたというか。ブチギレていたというか……。生きてたら時々あるじゃないですか? 自分と同じような容れ物に入っていても、中身というか魂が“別物なんだなあ”って、嫌でも判ってしまう瞬間が」
寧鑼チームの黄色い声。
「『わかりません』『覚えていません』『思い出せません』『思い出そうとすると胸が苦しくなります』――、というのも勿論あるんですけれど。どのワードがトリガーになったのか。それを私は特定できない。私が物心つく前に、既に常識にされてしまっていたら――? 私は違和を感じられない。慣れ親しんだ自宅の香りは記憶の網にひっかからない」
んん? どういうことだ?
つまりこの“狂人男”が乱入してきた原因は、そのお母さんの失言ハラスメントであったとして――?
「ええと……、具体的に何を言ったのかを知りたかったのは私でした。すみません。そこは、不明瞭なままでも問題なかったです。具体的に何と言ったのかはわかりませんけれど、もしそれが“言っちゃいけないこと”だったとして。狂人化したあの男の人に対してというよりは、大衆の耳に入るあの場所では、彼女でなくとも言っちゃいけないことだったとしたら――?」
陰謀。
都市伝説。
頭の良い上位存在。
「ありがとうと言いなさい。リアクションに困ると思って、ちゃんと激辛にしてあげたわよ」
「ありがとうございますカンデナイデス様! いただきます! んむっ、これは――、中辛なねぇーか!」
「噛んでるんじゃないわよばか、アホなのね。食べ物を口に入れたまま喋らないで、汚いから」
『白ご飯ください!』
「ないわよ、雑穀ご飯しか」
健啖と蟒蛇食いは似て非なり。
断食前の七七七瀬瞑鑼は、リットル単位で水を呑むため、よく噛まなくても詰まらせない。




