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第四章 単なる技術の問題だ 04 中辛

 違った? どこがどう?


「いえ、その……なんといいますか。正確にはもうひとり居たんです」


「もうひとりぃ?」


 後ろ髪はポニーテールに。手袋は使い捨ての半透明のやつに変わっている。女王様の潔癖は、自身の手汗もろもろでぬかるんだハウスの中で長時間過ごすことに対して、どういった意見を持っておられるのだろうか? おいおい、ちょっと待て。大御所若手芸人じゃないんだから、


「普段の生活で激辛ってゆったら中辛のことでしょうが?」


「中辛!? ふざけないで」


「おいっ」


 意外と豊かなお嬢だった。それじゃや~めた。と放棄されるのが恐ろしすぎて未来が辛い。奇遇なことに俺も今ちょうど着せてたよ。お団子姫カットは想像しづらいな。鶏皮大好きグループに属していることは、プロフィール欄に書き加えない方が、どうやらよさそうだ。


 しかし、もうひとり居たからなんだというんだ?

 ヴァナメイエビの背ワタと戦う。


「代理出産を依頼した本当の母親の、堪忍袋の緒が切れた? それで今、奪い合って――」


 そいつと生姜を豆腐に乗せて、醤油を垂らせば夏が来る。


「えっ、あの……? そうじゃなくて。加害者が、といいますか、」


 生肉を包丁で切断するたびに、穏やかになってゆく端正な横顔で確信する。

 作り物のサディストは大袈裟に、悦びゾーンへ入ってみせてくれるんだ。


「まさかこんなことになるとは思ってなくてなんて台詞、口にすると気持ちまで浮薄に侵されてしまいますけれど、まさにそうでして。あの時はあの事件のことで頭がいっぱいで――」


 ひき肉のフィルターで濾過される水道水が、一向に透明へ戻らない。


「陰謀のことを都市伝説って言うじゃないですか? それがもう陰謀だと、私は思うんです」


『?』


「嗅ぎつけられてしまったら。噂が広まってしまったら。あえて更に情報を流して、常識へ変えてしまえばいい。大衆は常識を攻撃できません。何故かというに、常識こそが大衆の核だから。よりスムーズに“はかりごと”を実行できる道を、頭の良い上位存在は一瞬の躊躇もなく選択します。隠れてこそこそ悪事を企まれたら、正義の心で槍を入れるのに、正面切って潔く搾取やります等宣言されたら、裏表がないという理由で“いいね!”してしまうのが人間です。人は“純粋な悪”にしか手を出せない。善も混じった悪を裁けば、自らの手で自らを、“純粋な善”では居られなくしてしまうから。そのことをとことん、恐れているから。不善を成すには善を成せ――」


 油でやっと、音から量まで階級の違いを見せつけられて、どうしてか俺は安心した。

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