第四章 単なる技術の問題だ 03 UT
隕石だったら確実に一撃で突き抜けていた。
また早合点だと気づけなかった。今なら逃げられるという希望をちらつかせてきただけだと思ったので。迫り来ていた唇というよりは口が、八重歯というよりは鋭利な犬歯が離れてゆく。おい寧鑼、お前じゃま。こあくちゃんの首から上は、どこでだって見られるんだからな。
酔いそうだ。頭の奥では真相を突き止めるために、時間が不可逆じゃなくなっていて、目前では咄嗟に手を伸ばしてくれたこあくちゃんを巻き添えにした、お世辞にも軽いとは言えない七七七瀬NEW鑼が、必然的に押し潰されることなく、結果的に押し倒されていた。
(落ちる……)
さっと影が通ったのだ。そのあとで、見上げた寧鑼がギャッと叫んだ。ズドンと大きな音がして、ガラスの小雨がシャリシャリ流れ、俺の目が飛び去ってゆく巨大な黒の鳥をとらえた。
(あいつは……!)
落下の衝撃で自らの甲と純白の大理石を地味に砕いて、姉弟が口をそろえる。
ついに来た、
『カミツキガメ!』
舞い戻ってこないはずがなく、お隣から電化兵士が翔けつけてこないわけもなかったけれど、俺たちが屋外にほうけ顔で留まっておくべき理由も当然なかった。ミズガメに緑のイメージがあるのは、大抵の場合、甲羅に苔が付着しているが所以だ。
脱衣所までが非常に、月月火水木金金。しかし執拗な挑発を繰り返さない限り、食べられない人参を、更に水の外で噛み千切ることはない。そう気持ちを落ち着けた時だった。
(余計な刺激を与えるんじゃない!)
甲から飛び出た意外と小顔に、デッキブラシが噛み砕かれる。
好きだから好きになって欲しいという嘘偽りない本音以上に、勝手極まりない誠実さがここにあった。
みんなに負担を分散しても、『みんなを守ってみんなに好かれる自分』になられると本気で考えているのだ。実は歌ってみたでした詐欺が蓮の上の仏に見えるモノマネを披露してきては、圧力に屈せよ顔で笑ってあげられている、思考が短絡的すぎる良い格好しいは。
(手綱も上手に握れない癖に)
気がつくと俺は競歩していた。
「あ! また来た、変態~」
「は? ちょぉマジいまUT気取られてもなしよりのなしってゆうか、愛護ってる時と場じゃないの、見てわかりません?」
なんだよUTって。いいからやめろ。
「いくらAKCでマンガみたいに治るようになったとは言ってもだな、腕とか脚を食い千切られたら、失血死を免れられても脳細胞を損傷するし、その場でショック死する可能性も、」
「頭だ、頭を狙え~っ!」
『weww』
オニガデルカ・ルクレティオの頭髪にバチバチと、猫耳寝癖が迫り上がる方が速かった。




