第四章 単なる技術の問題だ 03 泥の舟
俺の脳はとんでもなく微量の電気しか生産できなかったんだと、普段あまり自覚しない自信を喪失する。入手済みの当たり前の事柄に、0円の値札を張り付けていた自分が情けなくなる。奪われて初めてありがたみが身に染みるものは、他にもあるに違いなかった。
(禍の部分でどうせ奪われるんだったら、必死に福を掴んだって無駄だよねー)
何度試みても、思うように四肢を曲げられない。助けを呼ぼうにも頬の強張りをほどけない。火を放たれて蘇ったインドの棺と、腹部までは肋骨の発達していない天然のレトルト食品と、返り討ちに遭って瞬膜から痙攣させる子どものワニが、死のイメージとして脳裡を駆ける。
大丈夫ですかと支えてくれたヤグルマソウの瞳孔は、もう光る十字架で隠されてはおらず、溺死は免れることができたけれど、そんな慶びは、神経の通った嘴を適宜裁断されずに済んだ、オスの白色レグホーンほどに未来に繋がらないものであり、ギヂギヂと縦長に細められていた。
(人型、無目敵……っ!)
知っていたからなんだというんだ? そんなものはなんの役にも立たなかった。何故ならこの露天風呂には、先刻こあくちゃんと一緒に浸かったばかりだったのだから。電気風呂になる時間もあるのだろうと、俺は自然に、手前勝手に、かりそめの真実で泥の舟をこしらえた。
(衣類を調達する必要がないだけでなく、獲物の防御力も限界まで下がっている)
手にした真実そのものに打ち負かされやしないかという恐怖をしっかりねじ伏せて、もっと真剣に考えておくべきだったのだ。この、オニガデルカ・ルクレティオちゃんが、どういった欲求を心に、目的を胸に秘めて、こんな所へやって来ていたのかということを!
「♪♪♪」
そんなものは男狩り以外になかった。