第四章 単なる技術の問題だ 03 オニガデルカ・ルクレティオですっ!
セントーレア・ブルーカーペットのように透き通る、黄昏時に後ろ髪を引かれた夜空――柄のショートヘアくらいしか、詳しく描写できる箇所がない。ショートヘア……。俺だって、手札にジョーカーは入っていませんよ顔で、ご想像になんちゃらかんちゃらと判断を委ねてくる語り口調は嫌いさ。しかしだな、
「オニガデルカ・ルクレティオですっ!」
いま俺が私欲のために剥ぎ取れば、いよいよ何をしているのかわからなくなるじゃないか。
「ななめ……セブンアイズって、書きますか!?」
いや書かないけど……。
(本当に呼びつけておけばよかったかもしれない)
輝きを増してゆく瞳十字星に耐えかねた七のウジャトが、明後日の記憶を求めてさまよう。
はいと答えるしかないだろう。ひとりで来たんですかと訊ねられて。
きみが俺なら馬鹿正直にわざわざ、よりにもよってあの七七七瀬寧鑼と強熊こあくを紹介するか?
女漁りに来ただけだと嘯く、心根は優しい一匹狼……。どんな遅咲き卑屈メンが、秘密のノートにしたためた、異世界の理想のオレのプロフィールだよと破り捨てたくなる衝動に駆られるが、肝心要の容喙シーンが虚構ではなかったがために、気恥ずかしさの方を噛み殺すより他になかった。
「――で、そうまでしてここへ来たかったってことは、なんか目当てのお湯があったの?」
「ですです~。躍らされるのは癪ですけど、リスクに怯えてばかりもいられませんからね」
夏以外の季節に、夏の海辺が恋しくならない俺はいない。しかし全力で泳げるようなビーチでは、寂しさと虚しさに対する不満が募るのだろう。暖かい海にはウモレオウギガニがいて、維持するために他人に貸したら、備え付けのプールではしゃぎまわることはできなくなった。
「強酸性の電気風呂!?」
そんなのに入りたいのか。
というか、そんなものがあるのか。
俺はアルカリ性の、とろっとなるお湯の方が好きだった。
「ではそちらの方へ先に入りましょう!」
そしてここで。
疲れていない時には甘すぎてまるで薬にならない、現実逃避用の日常ネードは終わりです。