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第四章 単なる技術の問題だ 02 ハードバラバラ殺人事件

 こんな妙な水を差されるくらいなら、あのときお笑いライブへ行く道を選択していればよかった?

 いやたとえ『Superスーパー美女四びじょよん』を選んでいたとしても、無事辿り着いたライブ会場で、あのくそいまいましい叢雲の野郎と出くわす羽目になったんだ。気持ち悪い。


 まったくわけがわからない。

 だって、ゲームが血を流しているんだからな。

 というかバラバラだった。


 本日やっと解禁された家庭用ゲーム機が。2と3を飛ばしていきなり、しかし必然的に4になったプロヴアイが。『PROV‐i 4』が。俺と寧鑼が、いや全世界が心待ちにしていた『SVARゴーグル』が。遊び心が形になった今世代限りの最新ゲーム周辺機器『SVティアラ』が。


 こともあろうか近所のGE王の真ん前で、見事なまでに陰惨に、肝脳地にマミっていた。


「……無目敵を、撃退するのに使ったのかなあ?」


「あ、ああ。その可能性が、あったな……?」


 ということはこれは無目敵の……まあ、ゲームの血である可能性に比べれば可能性は高いよな。何言ってんだ、俺? 執拗なまでに必要以上に殺傷する人間の心理って、どういうものだっけ? 殺し過ぎの原因は、心を守るためだっけ? バラバラにする動機は――?


 人間? 嫌な仮定しか連想できない。しなゆすなあと寧鑼が言った。まったくその通りだった。そんな可能性などあるわけがなかった。咄嗟に盾にしたのなら、大破しこそすれ、ここまで粉々に砕け散りはしなかっただろう。投げつけていたとしても同じ。


 オーケー、『PROV‐i 4』は当然最新の機器だ。人には見えない中身の“何か”が侵略的外雷生物を刺戟して。こいつに特別反応するタイプの無目敵が、たまたまここに飛来して。リスが木の実の、タコが蟹甲殻類の外殻にするように、頑健な門歯で、嘴で――破砕した。どうだ?


 そのあとで献血車から一袋くすねてきたバカッターが油淋血ユーリンチー作ってみたってツイートして炎上したんだ、これが正解だ!

 喀血鬼かっけつきが出たのさ、流血鬼が出てこられるわけがないから。


 危険だとわかってるなら外に出るな。家でじっとしてろ。スーパーに行くな、友だちの家に行くな、ゲームなんかマアソンで何週間でも待てばいいだろ馬鹿。命よりゲームが大事なのか。そもそも買わないんじゃなかったのかよ。勉強しろ。


(それならあの晩あのふたりが、コニカに貪られていた未来の方が正しいということになる)


 今更自主性を尊重されても困る。


(あのふたり――)


 よほどの理由がない限り、ゆるがせにはできないのが自分の直感だ。少なくとも知り合いではある気がした。なんとなく雰囲気が似ていたから。そうであればいよいよ事態は最悪になってくる。考えまいと込めた力が脳内で鳴り響く。

 つまりここでやられた・・・・のは――!


 この世にはおでこ狭すぎる勢と、おでこ広すぎる勢がある。

 赤紫に下紅葉したもみじした銀色のセミロング。どちらでもない彼女のセンター分けは、男の目にも美麗だと映った。控えめにメイクされたアイラインから、背伸びしたい子供心が見てとれる。アウターはメンズライクなボアパーカーであったけれども、スカートは日曜日だというのに学生服のものだった。


「……お兄さん?」


「んん?」


 俺の眉間に皺が寄る。顔に赤みがさっと戻る? それ単体は喜ばしいことに相違なかったのだけれど――即座には理解できない。俺と目が合っただけで? では何故これが友だちの血痕ではなかったのなら、今の今まで無目敵みたいな蒼白の無表情で自失していたんだ?


「おまえっ」


 どちらからともなく駆け寄っていた。


土木枠どきわくテカ本人か!?」


「ええっ!? そうだけど!? 憶えててくれたんですか!? え? なんで名前だけ?」


「? 待て。ちょっと待て。ええと、それは多分お前が――、軽傷だったからだ。一昨日」


「ああー……?」


 昼間見ると案外と色白じゃないんだなという、ジャジ子的なあだ名並みに誉め言葉から遠い、端的に過ぎることにこそ意味があると考える男子向けの発言内容は、閃くだけに留めておいた。

 結局ゲーマーな姉を含め、敏腕のヴァンパイアハンターから剛腕のヴァンパイアまで、身内に月光と仲良しこよしなヴァンパイ肌が多すぎる。


「それよりもだ」


 俺はここで何があったのかと、あらたまって向き直って彼女に訊ねた。

 奥の瞳には恐怖の色が未だ微かに映っていた。

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