第三章 闇髪の注瀉血鬼 09 黜陟幽明
むかしむかし、あるところに、チュッチョクという超有名な国がありました。
「これわ、ほし」
「うん」
あるときチュッチョク王はだしぬけに全国民へ向かってクイズを出しました。『灯油から水を取り出すことはできるか、できないか?』。
諦めない。チャンスを掴む。即答することが一番大事。という考えでがんじがらめになっていた国民の大半は、即座に『できる』と頭の中で答えました。
「とおゆってなに?」
「さっき唐揚げをじゃーって揚げてたやつの、飲んだら死ぬやつ。『いやできねーだろーが!』。王さまの突然の適格な突っ込みに、その通りじゃよという微笑を思い浮かべながらフライングほくほく顔でスタンバっていた人々は、一周して逆に笑ってしまいました。王さまはまたいきなり『めでたし、めでたし』と話を締めくくって、国民を放置し、大忙しの仕事に戻りました」
「へんなおおさま」
またいつもの気まぐれか。放っとこうぜ。天才って一周回って馬鹿だからな。と言う人民に交じって、どうしてもモヤモヤが晴れない若者が数名いました。彼らは何もかもを放り出してお城へ向かい、勇気を出して、一体全体どういうことですかと訊ねました。チュッチョク王は言いました。
「『君たちに私の全財産をやろう』」
「ええ~っ!?」
と、若者たちは驚きました。王さまは構わずまくしたてました。不可能か可能かの議論を吹っ掛けられても、不可能か可能かで答えようとしてはいけない。諦めなければ絶対に成功できる――これも一理ある。しかし、すぐそばに飲める水が沢山あるのに、『想いの力さえあればこの世に達成不可能なことはない』という大好きな法則が否定されることを怖れて、灯油から水を取り出そうとやっきになることは悪だ。適切に問いかけよ。他人の話を聴きたがれ。即ち自分を売り込むより先に、相手に関心を示すこと。見極めよ、大切なのは黜陟幽明これである。ここへ来なかった人には、ここへ来なかった人それぞれの、幸せと人生があるのだ。
「『さっき、ぜんざいさんって、いったけど、ちょっとだけは、のこしてね』。だって。ふふ」
「うん。だからね、コニちゃん」
七七七瀬瞑鑼は絵本を閉じて、優しくコニカの頭を撫でた。
「あなたが開眼したことには意味がある。だから生きてもいいの。いいえ、生きなさい」
「……はい」
「でも人間は食べちゃだめよ?」
「うん……」
「じゃあもう寝ましょう。ちゅーして寝ましょう。んふw ちゅー、ちゅちゅちゅちゅ……!」
「イヒヒ……!」
それはまるで。
それはまるで――!
「…………?」
「お兄さん、涙、涙!」




