第三章 闇髪の注瀉血鬼 07 サロンガ国立公園的な
ああ、その後どうなったかを俺にできる範囲で解説しておこう。
完全知的生命体は、なんというかこうぎゅっと集まって、ぽんっと宇宙へ行きました。
だからもう大丈夫。
いや大丈夫というかなんというか……、人間だって昔の方がより悪逆だっただろ? んでいきなり保護活動とかに熱を上げた。地球の歴史から見ればいきなりさ。ちょw おまw 成長はやくね? みたいな。
完全知的生命体もこの数年で超進化してだな――要するに、宇宙における地球人の居住地、地球及び火星が、地球におけるボノボの生息地、サロンガ国立公園的な感じになったんだ。減りすぎた人間の飼育・繁殖用の、特別保護惑星といったところだな。
『ほら、地球よ。夏休みの観察日記、これにしたら?』
『うわぁ~、青くて綺麗だなあ~!』
『やっぱり火星にする?』
『ううん、ぼく、地球がいい!』
『そう』
『三十一億年で、どう変化するかなあ?』
『消し炭になったりしてね?』
『もう、やめてよママったらぁ!』
『オホホ♪』
(う、う~ん……、地球を青くしてくれて、マヂありがとう、神さま!)
馬車が街から消えた後にも競馬場には馬がいたように、街から消えた車たちも、カーレース場にはちゃんといた。眼下に広がる都会の全てが心躍るテーマパークになる。
「減雄ナビ、現在の高度は!?」
「ピピッ、現在、高度一万二千!」
「超さむ~い! あはははは!」
星空と夜景に挟まれて、宇宙旅行をしているみたい。
ああ、そうか。背中が好きか。
背中と背中に挟まれて!?
「っつーか東京って、どんくらいでけぇーんだーっ!?」
「百九十一キロ三百十二メートルの二乗割る二で、一万八千三百平方キロメートルだ!」
「――ってことはつまり、四国とほぼ同じ大きさね?」
「二、三分じゃとても、回りきれねえーっ!」
「じゃあもう帰るか!?」
『ご飯――ッ!』
「ごはーんッ!」
救世のヘリオスィゲルが加速して、耳と指先が冷凍みかん。あっ、あと鼻も。空中へ投げ出されたけれど、そこは大気の胎の中。初めて体感する、なかったことになった思い出の無重力。今じゃこのZ安全ベルトが、俺たちのへその緒ってわけ、か……。
東京スペースエレベーターを遠目に、十キロほどのフリーフォール。ぐんぐんと遠ざかる、変態大国日本を象徴するに相応しい、おろしたてのおランジェのように真っ白な、直角二等辺三角形の、超々々々巨大天空都市、東京。
さらば東京。またいつか、俺たちの街を、ほんのひと時だけでも宇宙からの好奇の目から、こっそりくすねた優しい姉の、いやさ妹のショーツように、温かく守ってくれんことを願って……。
「君たちー、大丈夫かー?」
「げっ、ユウロピア空軍だ! 減雄、逃げろ!」
「大丈夫でーす! 私たち、今はスカイにいますけれど、ライフセーヴ、うぅおっ!?」
左右のZウイングが、Zジェットエンジンに変形。
もうどこにもザリガニの要素がない。
俺たちは碧い流星になった。




