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体験版 009 愛別離 苦



 トークテーマ:『未来』。


 不審に聞き耳を立てまくった挙句、盗聴データのアップロードまがいな行動に出ているわけではなく、一応3人の傍に“お呼ばれ”しているのだということは、昨今の倫理感を考慮して、また個人的な名誉のためにも釈明させていただきたい。


 店長にも許可を取ったさ。

 確かに僕は今、労働中であるのだけれども、良い意味で他に客が居ないという現状も鑑みて、ウチナースマイルで見逃してくれれば この辺は助かる。

 というかイッヒロマン(こんなところ)の言論まで同じ様に統制されたら、今度はどうしたって、余計なフィクション感を漂わせてしまわざるを得なくなるじゃないか。


 リアルなら当然、知り合いの素顔やら本名やらを、呼吸をする様に拡散してはいけない。

 リアルだと言い張る割には、登場人物全員に、許可を取っているようには見えないけど?

 ということはつまり??

 …………。

 ……。




「はいっ! 愛し合ってもそこまで真剣には子どもを作らないことにする!」


「全人類が足並みそろえて実行できそうか? それこそ理想論だろ」


「武力で押さえつけても、海の向こうのお隣みたいに、黒孩子(ヘイハイズ)問題が浮上するでしょうしね」


「へーはいず?」


「――まあ、脳味噌ピンクで鼠算式に増えたら食料等が枯渇する――って問題を、解決できたとしても」


「えっ脳味噌ってピンクじゃないの?」


「灰色よ♥」


「人口が逆さピラミッドになるアレで、全然なだらかじゃなく、或る日突然、雪崩が起きる」


「というかさっきから何が言いたいの? 戦争と死の錬金術の話? でも今は大体みんな薄々、未来は不幸だらけってこと、感づいてるでしょ? 人口を調整する陰謀論なんて、今更微塵も真新しくはない。想像力がなくたって、ネット上には預言者が、際限なく現れるんだから」


 バニールヨ女子はなかなかに、遠慮なくズバズバ斬り込む、S側の人間だったらしい。

 Sでダメージとは疎遠なんてことはあり得ないから、ひとつも不自然ではないのだけれど。


「――抜け道がある、と言いたいんだ俺は」


「うそくさー。それこそそれこそ、ザ・理想論なんじゃないの??」


「はいっ! みんなが刹那主義になる!」


 服が反対だったら、無防備な生脇へズームできた。

 それだけさ。


「私、帰化動物は全部駆除できる発言、そのものが脳筋過ぎて嫌いなのよね? それだけの費用があるのなら、今すぐに全額、希少種を隔離して保護・繁殖する方向へ使えばいいのに」


「んっ。なんだ? まあ、核心だな。そういう感じだ」


『?』


「つまりだな」


 焼けている肉。

 赤身肉。


「『5億人ゲーム』だと考えるんだよ」


『「5億人ゲーム」??』


「豊臣秀吉だよ。『筋肉は裏切らない』ってやつさ? 人類を統率する神様だか悪魔だかには決して好きにはさせない信念で結託する自由人グループは、説き伏せられたものとする」


「強引ね」


「だって80億人全員が、子孫に『末広がり』を求めたら、また話は冒頭に戻ってくるだろぉーが!?」


「私は解ってるわよ……!」


「血の繋がりの薄い他人なら、たとえ実は近所で生活していたとしても、正直どうだっていいんだろう? 誰でもいいから15、6人ブッ殺して来いと、命令される方がマシなのか?」


「まわりくどい。順序よく話してよ」


「倍率2000倍の『働き蟻ナンバーワンコンテスト』には、産まれてから20年以上もの間、笑顔で金銭まで捧げ続けられるのに、たかだか16倍の『生存競争』には、打つ手がないと絶望して、生きている間じゅう取り乱し続ける。――こいつはおかしいと俺は言いたい」


「…………」


 籠の中の鳥じゃない刹那主義子は、ハイお待ち遠さま。バニラアイス2個目。大きな口で頬に紅。


「加担することは肯定することに繋がる――とかじゃなくて、今! エンペラーの立場を想像して、5億人選出せよ。と言われたら、すらすらと名前を挙げられるだろう? という話だ。そして知的生命体である人間には、金魚やハムスターとは違って、外見の他にも武器がある」


「――つまりそこに名前を挙げてもらえるように、あらかじめどうにか『秀吉』しておけば、ひとまずは安泰……いえ、それしか残された道はない、と言うべきなのかしら?」


「現実的だろう? 手前(テメエ)の未来は、今現在の『鍛え残しの余白』如何で決まるということだ。お(かみ)が無差別に殺しに来るからじゃあ決して無い。無論――それでもこれは、先進国に生まれついた“選ばれし人間”にしか、そもそも背負えない責任の話になってしまうわけだが……」


「でも今はスマホ持ってたら、どこでも勉強できるし、国がどうとかは関係なくない?」


「んん、まあ、確かにそうだな」


「それでも80億人全員には、参加権は行き届かない……か――」


「先進国でスマホ持ってる方がスマホ社会だろ? ってこともありえるよな? 逆に」


「言いたいことは解るけれど!」


 もう少しつまんで喋りなさいよの困り眉。

 女の子というよりは、純粋にキッズの、ファーストリアクションだったというわけか。


「だから『正義』ってのがより一層、茫漠としてくるよな? いや映画とかでもさあ、『人類を守る』って、ざっくりしすぎなんだよマジで! 自作の非実在青少年でお人形遊びしてみた動画はもういいから、現実世界に出てきて実際に人類を守ってくれない!? 人口爆発を助長する結果に終わったとしても、果たしてヒーローは真の救世主であると言えるのか!?」


「はいはい」


 だんだん、父と母と娘の関係に見えてきた。







 どちらかといえば犬っぽい方が、素直にクイズを楽しむ説。


「おうふっ!? なにこの手!?」


 脇腹から手刀。


「あかんやん。あかんやつ」


 ぺちぺち。


「マー子のクローンは今現在、我が社で楽しく労働しておりますので、オリジナルの方を削除しに参りました。ぐさ」


「えっなにそれこわい」


「そう! クローン技術で取り戻せるのは『容れ物』だけだ。『(うつわ)』だけ。全身の神経細胞に蓄積された『経験』がまるで違うからな」


 畜獣なら子供を産ませて、育てれば、完コピできたことになる。

 肉ではなく心のサルベージ。

『器』にインストール……いや、無理だ。

 実際、産まれてからの全ての記憶を、クラウド上に完璧に保管できいる人間が、総人口の100%を占める時代が訪れるのは、まだまだ先の話だった。


「そうねえ……たとえば私が未来人じゃなくても、今から過去に行けるなら」


「おっ?」


「んーでも、拡声器を持って大声で警鐘を慣らしたら、圧力をかけられるか……最悪その上に、誰も信じてくれなかったり。しそうな予感がガンガンするから、やっぱり結局、無難にネット上に出現するでしょうね」


「Cicada3301!」


 そういえば初めからずっと吸い込まれ続けていた煙。

 今度は炭火を選んでみようと自発的に閃く流れから、リピーターが現れてくれるシステム。


「――んー、特には。よくよく考えれば、今生きてる著名人にしても、録画映像を一方的に、受け取ってるだけの関係だったし。それなら永遠に、お気に入りの動画を見続けるだけで不老不死。大昔の女優さんは――ご存命だったら、とんでもなく炎上するわけでしょ? 我が子にはまだ、出会えてすらいないしねぇ」


「もし昔の戦争を無かったことにできたら、自分が産まれてこなくなっちゃう?」


「残酷だよ、まったく。もし生きていられたら、自分が誕生しなかったのなら、どうしたって過去の大きな“人死に”を、そこにどれだけ“理不尽”が関与していようとも、感情で全否定するわけにはいかなくなる」




 愛……クローン。

 別……時間移動。

 離……世界改変。

 苦……死者蘇生。




 表には、近代日本医学の父。


(これはまた、珍しいものを……)


「その辺に生えてるわけないでしょ。農園とか行かなきゃ?」


「でも何すんの? オリーブの木なんか見て」


 お勘定は十文字(ジュウモンジ)ちゃんが男気を見せた。

 遠目には判りづらいだけで、まあ普通に最年長(しゃかいじん)だったのだろうし、街じゃなくても見かけた美人ツイートとか、やっぱり不審者感★満天の星空★御用★同音異義語だけれど、ルイ子、ニル代の2人は、間食(おやつ)程度にしか食べていなかったわけで。


「いや、もこみちいねーかなーと思って」


「いるわけねー」


「いるわけねー」


 鬼門(レシート)にはいつもの様に、ええいどうにでもなれと唱えながら、現金でお釣りを返して、


「ありがとうございましたァ、またお越しくださいませえ!?」


『ごちそうさま♥』

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