第零章 烏糸欄 03 慈鳥は…
最高の名誉と最低の汚名と莫大な阿堵と死の危険。
まあ未来の情報だから、いま何に投資すれば儲かるのかは判る。解き明かして、わかったと叫ばずに、こっそりと将来のために準備を開始する。これが最も安全で賢い道かな。その場合、もうひとつのメリットである名誉とも無縁になってしまうが……命には代えられまい。
歴史に名を残せる。
アホかと言われたり、そりゃ未解決の歴史ミステリーを解決できたら歴史に名を残せるのは当たり前だろアホと言われたりするけれど、答を持つ我々には、以下の『トレジャーハント編』が、一の謎ではなかった場合の未来しかないのだ。いま尻込みすれば、そこで舌打ちされる。
明日にでも死のうかなと絶望している同類には、デメリットがメリットになる。
未だだかつて実在したことのない職及び、口にしたことのない食の提供、それに後輩の支援。
金賞――じゃなかった大賞には縁のなかった我々だが、全ての面で不運だったわけではない。人は幸運の種類を選べない。我々が成功ののちに公約を守れば、師に恵まれなかった同類は、この種の幸運の連鎖に携わることができる。反対に破れば、嘘吐き、守銭奴、エリートニートなどと、我々をくそみそにこきおろす愉しみが手に入る。我々がここで保守的になって、だんまりを決め込むことに比べれば、美しい人間の皆様の未来に娯楽が増えるだろう。そのために我々は今、ここで堅く約束しなければならない。
我々は四つの歴史へ分かれゆく、ひとつの時間の先端に立っている。その四つの歴史とは、一、記録しない歴史。二、記録された歴史。三、偽られた歴史。四、逆流する歴史である。
栄枯盛衰、盛者必衰、生者必滅。驕る平家は久しからず、草木国土悉皆成仏。
これまでは確実にシンプルだった。これからは複雑を超えて混沌になる。
我々も最早、純粋な弱者ではありえない。
かつて、虐げられて否応なしに飲まされた数々の苦渋が、舐めるしかなかった無数の辛酸が、ガチで最低限の衣食住しかリアルに必要としない、化物じみた耐久力を培ってくれたのだ……。
キラキラネームが赦せないあなたへ、一言だけ釈明させてほしい。我々もあなた方と同様に、生身の我が子には、五劫のすり切れ的な命名は決してしない主義であると。未練未酌がない我々とは違って、心根の優しいあなた方は、我々の実子がおもちゃにされる可能性を憂えてくれていたのだろう?
現実では極力、波風を立てないように。仮想現実では成る丈、爪痕を残せるように。目的のためには手段を選ばない――というよりも、我々は、勝利のために勝負事を選び抜くのだ。
中二病とは、現実の自分よりもスペックの高い対象へ、遊びや仕事の時間以外でも自己投影していることに、自覚がない症状または、それに罹患している当人を指す。ハスキー犬に育てられた、かわゆい猫はもとよりかわゆい。鵜の真似をする烏は溺れる。そして我々は、自らが朱盆サイドに属してはいないなどとは、一秒たりとも思わない。
血液型だ。たとえるならば。『我々』とは何なのか? 一文字で言い表すことはできない。科学的な根拠はない。表舞台には表舞台に相応しい話題がある。そして我々は言うまでもなく、頭の頂から爪の先まで表舞台には相応しくない。科学的な根拠はない。
最近、何かがおかしくなってきていると感じたことはないか? 女性の時代は受け入れた。パソコンが一般家庭にまで普及した時代ではない。決定的なポイントは、スマートフォンが携帯電話の代名詞となった年代だ。ボーダーレスになった全世界が、新世界が、夢のおもちゃで隅々にまで行き渡った――、
O型が四割強を占めている日本人を想像してみてほしい!
現実とは現状とは現代とは、まさにここなのだ……。
ねえ、『デス♀バード』って知ってる?
今はまだ覗き見を楽しんでいる段階だと思う。質問には答えても良いが、絶対に目を合わせてはいけない。ベストの選択はさっさと夢を見つけて、我々のことなんか忘れて、元気に外で遊ぶことだ。『ですめすばーどじゃないよっ』『へぇー、阿堵ってお金のことなんだ』『功名心をくすぐられたわけじゃないし、謎解きが好きなだけ』『難しいっていうかそれ以前の問題でぇ、ヒントがほぼ皆無なのー』だから一緒に――、
ねえ、どうしてあのとき、こんな所まではやって来られないだろうなんて思ったの……?
絶対に目を合わせてはいけない。
最後に。
慈鳥は、完璧に正解だが残念ながら……。数学の証明問題と同様、『デス♀バード』も解だけでは点を取られない。言ってしまえば鳩も雀も『デス♀バード』なのだから。自然、何チョウも、ナントカドリも、なんちゃらオルニスも『デス♀バード』だということになる。
犬好きの人がいたとする。犬嫌いの人がいたとする。全てを知るとは一体どういうことか? 前者は上手に躾ができて鼻を高くする。後者は顔色一つ変えずに解剖ができて得意になる。
正反対な2つの意味を内包する2つの虹が鍵になる。
この世には絶対に掘り返してはならない議論がある。