体験版 009 計六十三
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「31年と5ヶ月経った……」
「?」
「いや、15年と3ヶ月か」
「……?」
V字回復してトレンドメーカーになるノーハウを履修できる、ブラックリバーの再現ドラマ。
詰め込まれていながら圧迫面接のない群集心理が、廃油で淀む現人を、台湾美人へ華やがす。
「『0』の次が『1』ならば、その次には一体何が来る? 当然――『2』だ。ではその次は?」
「、クイズは好きじゃないんだ」
「クイズじゃない。パズルさ」
パズル……?
否応なく浮かびあがってきた『3』が、案の定 不正解の憂き目に遭った。
遊具に腰掛ける未就学児の、猫や狐や少年の、してやったりなつり目スマイル。
膨らませてしまった荒ぶる巨漢を、修正する義務感を、これ以上は積みプラモ。
「どうして『6』なのかって? 簡単な算数だよ。素数なんてあらかじめ暗記しておかなければ、数え上げ様がない」
わら。
「あるいはキミがもう既に、生き過ぎてしまったヒトならば、今この場所が何時なのかを知っていよう」
「…………」
モニュメントは、
ナイフから伝わる歯触りが、きっと未来のお菓子なんだろう、金属ナトリウムおいしそう。
ネオジム磁石のマグネットキューブで、物理を無視してゲームみたいに空中楼閣してみた。
有明の、ビッグなドットでせり上がる、ホエールテールに重なり踊る、二股人魚の青銅像。
由来は“Navy”濃紺、海軍、+マーメイド。
ネイヴメイド店長の個人的な結晶を、なんでもない単語が並ぶ看板に雀躍する外国人観光客よろしく熱心に撮影する、リュックを背負った後ろ姿。
動く広告、膝裏えくぼ。
暫くぶりに外へ出てみたりすると、『美人多くね?』ってなる。
当人に舞台上で脚光を浴びたい欲求が希薄。という理由で、ランキング外なのは理解した。
……どうも、好みのブスの定義が180度違うようだな、戦争だ。
「――ところでさあ、ここって今、開いてんの?」
「んん? ああ……」
入れよ、なんて、自分で建てたわけでもないのに自慢げに、我が物顔でふるまわないなら、結局お客がうちで飯食っていけば全員にとって得なのに、どう動けばいいんだっけ?
「店長に訊いてみる」
「おおっ! やっぱりお店の人!? バイトだよね?w」
いいだろ別に、エクストリーム・非正規社員でも。こちとらワラジは4足目?
OKが出た。店長がおっとりと、内側からカラコロ開けて、準備中をOPENへ。
木漏れ日や――カナカナカナカナ、箱根かな――。
地球温暖化が進めば、ウチナー時間も大胆に北上するのさ。
いい感!
的なセリフでも叫ぶのかと思いきや、
「ちょっ、なにこれ……!? 炭火焼肉店じゃなかったの……!?」
なんでそんな小声なの。
「えっ、だってほら、初めてのお店でいきなり大騒ぎして、モンスターカスタマー認定受けても嫌だし……!」
なんとなくギラリちゃんに似てるよな。
じゃなくて、
急に女の子感が出た。
「焼肉屋さんなのに、実はお好み焼きが一番人気的な?」
「いや、そういうのもあるけど、」
「あるんかいっw」
「お好み焼きは単なるサイドメニュー。これはアレだよ。半分シャレというか。掃除が楽だから、みたいですよ?」
「おっ? 接客モード?」
そりゃそうだろ。
「意外と似合ってるじゃん♪ その制服」
それはどうも。
「でも鉄板いいよね、鉄板♪」
おしぼりとお冷を迅速に提供させていただく。
「こちらのテーブルをご利用いただきますと、肉のメニュー限定ですが、5%割引でおめしあがりいただけます」
「えっなにそれ!? じゃあここにするわ。ここにすわる。でも採算取れてんの? それ」
「まあ、ほぼ直売店っていうか。地球の裏側から輸入してるわけじゃないからな。あと意外と、自分は断然炭火焼派スけど――香りが全然違うから」
「うんうん」
「――とにかく鉄板で焼き目つけたい! みたいな派閥もあるらしくて」
獣臭さに過敏じゃない体質に、脂の旨味を楽しみたいって欲求が綺麗に重なった場合とか。
「超高級そうなのは、シェフが鉄板で焼いてくれてるのテレビで見るよね」
「ですね」
回転を速める。クレーム対策。店員の負担も軽減。当然、炭と網の出費もおさえられる。
炭火焼肉で誘っておいて……、お客様自身に、安くあがるテーブルを発見させる。
「えっもうこれで注文しちゃっていいの?」
「こちらの方で操作させていただくことも可能ですがっ……!?」
「えっ? なに? え? タッチぐらい自分でできる――って、ああ……。アレクサ扱いしたがるお客様も居るってことね? サービス業は大変ねえ」
ご注文を繰り返しても繰り返さなくても大変です。
「なにこれサービス卵ってなに!?」
うん。そういうのも、いきなり差し出したら、無料でも要らないって、笑顔でガチギレされる方がいらっしゃるから……。
「あっ、一回しか押せないんだw えっちょっ何頼もう。おススメは?」
誰でも好きなものには、右見て左見てテンション上がってる。
「サービスのオリーブたまごでございます。オススメもオリーブ牛でございます。あと、オリーブ牛で育ったオリーブ牛ワニのお肉も人気でございます」
「ほぉほぉ……。あっ! で、さっきのなに!? でも待って言わないで、大体アレでしょ? カレー! お蕎麦屋さんのカレーみたいな」
「正解でございます。こちら、当店オリジナルの『おぷてぃみ黄金カメカレー』でございます。レトルトの方が人気です」
黒地に金メッキで甲羅が描かれた、シンプルなパッケージを新元号。
感嘆詞のち質問の嵐。
メインの香辛料は黄金生姜。芋はくず芋でも鳴門金時。そのため、お子様の舌にも激辛ではないのに、食べ進めるほど体が内側から温まってくる――甘いと熱いを同時に体感できる――、よくばりカレーになっている。
ただ、飲食店で常備しておくカレーには、日持ちしなくなるという理由で、芋類は入れないものだという常識があって――、実際にここで手作りのものを食べようとすれば、トッピングする芋をちょっと、揚がり終わるまで待ったり、蒸かし芋のペーストを、自分でルーに混ぜなければならなかったりして結局、ゴロゴロと見ごたえのあるサツマイモが、いい塩梅で溶け込んでいるレトルトを湯煎したものが、表へよく出るようになって――
「へーじゃあそれも頼もうかな? 2つ……で、いいか……」
名前にカメが入っているのは、売り上げの一部が《国亀》の保護活動資金になるため。
無論、発案者はウルカリオン・ウルフマインだ。
スポンサー獲得の営業から、生産工場への委託まで、全部ひとりでこなしたらしい。
束縛を嫌って正社員を断ったのに、時給はアップしたとかしないとか。
緑のメッキ、ご長寿“蓑亀”パッケージには、ほんとにスッポン粉末が入ってる。
「あっ、お好み焼きも頼まなきゃー♪」
「失礼いたします。着火いたします。こちら、ピンクの取っ手の起こし金は、生の肉を調理する際にご使用ください」
「はいはいー♪」
バイザーを外し、手際よく背油を鉄板にぐりぐり。
ジェヤヮ――と、適当に目玉焼きを作ってみて撮影。
久しぶりに集中していたので、来店の音は聞こえなかった。
袖はロングだが丈はミニ。
黒地に蛍光イエローで『ZIPANGU DRAGON 47』と編み込まれた、ふくらみとくびれが強調される、タイトなサマーニットワンピ。
ピーコックブルーにチラチラ輝き覗くあいつは、しかし安心してほしい、ビキニである。
蛍光オレンジのシルエットが、内側から光り浮かび上がって見える。
ベルトで簡単にくびられた、ノースリーブのマキシ丈ワンピは、オレンジと白の市松模様。
シミラールックじゃないけれど、長髪も簡単に結わえられている。
どうやらメイクはガッツリする派らしいバニーちゃんは、その辺雑なルイ子とは対照的に、かなりの垂れ目になっていた。
『お洗濯、完了しましたぁ♪』
「おつ、」
「2人とも、こっち、こっち!」
「…………」
交換条件でもないけれど、
畳んだり干したりする代わりに、洗ったり着たりしてもいいよと、いったような内容を伝えたわけだ。
乙女の緊急事態だったんだからやむを得まい。
私服だし構わないだろうじゃなくて、事後承諾も連絡つけたけど返事は無し!
生肉練ってる時にスマホなんか、素手でポテチ以上にイジりたくないだろうしな。
(なんかデカい貉系が、この焼肉諸島全体を覆ってる系か……?)
焦らずに急いで白ご飯を届ける。
丁寧にハキハキとごゆっくりどうぞと、キビキビを意識して頭を下げる。
「ツキ・タキナ!? サザンヒルズの!? いや顔違うし、嘘だわ!?」
「あっ、ほら、これって刺繍じゃない?」
「おいニル代、お前今、俺の胸を触ったな?」
「ジュウモジ?」
「十文字でしょ」
「揉むならいっそ、1万回以上揉んでくれ!」
女子でもバストカーストの上位者を、揉み返すのには度胸が要るらしい。
入店時に判明したけど、時と場をわきまえられない無神経ではないしな。
不条理に直面すると、憤りで心の“侠”が暴言を吐くタイプ?
「ああわかった!」
ルイ子がパンと手を合わせる。
「ジュウモンジ・ツキタキナね?」
「そう! 俺の名前は!」
ひっくりかえした豚いか玉に、刷毛でやっぱり超几帳面に塗りたくられたソースが、こぼれ落ちてジグジグと、幸せの羊羹、とけるほど香味した。
「十文字、プルエルフという!」
「えっなにそれ。ああ、耳がエルフってるから?」
「唐突すぎ。脈絡なかった」
「…………☆」
どういうウインクだそれは。
そういや女子って3人だとバランス悪いんじゃなかったか?
「そういやうちらの島で、エルフ祭りあったよね? 今日だっけ?」
「今日“も”。ああ、それで来てるわけね」
「まあそんな感じ。経験はお金で買える宝だからな。それにジッとしてるのは趣味じゃねえし――」
「じゃあいろいろ行ってるわけ?」
「ああ、こないだなんかは――」
「こちらお下げしてもよろしいでしょうか」
「はい! アイスください! バニラ」
「、違うでしょ、これで自分で――」
ピッピッピッピ。
ウォーターピッチャーを持っていくタイミングを、ドキドキチラチラ見計らう。