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体験版 008 ザ・ファンタジー


        8



 いや、誰もが耳を疑っただろう。

 ちょっと何を待てというんだ?

 肉を齧ったぶんの罪をも、きっちり償わせようというのか?

 ――そういえば目も疑っていた。

 機械的に僕を含めたおそらく5人全員が。



「グンモーニン! エブリワン!?」



 外見描写はおいおいやろう。

 情報量が多すぎる。


「あっ。あーっ! ほらいたでしょ!? ピンクのやつ!」


 当然警戒するだろう。駆け寄ることなくその場から、

 これは僕に聞こえるように言ったのか。

 たった1秒間の分水嶺。

 あと0.5秒でも行動が遅ければ、女子2人は今風に奇人をスルーして彼方へ消え、男側は主に無個性なギャル男から、攻撃を防御に変えていた。


「うオグゲエケケッ!?!?」


 だしぬけに蹴り上げられた、チビでメガネのニライスが、奇天烈極まる悲鳴をあげた。


『!? !?』


“最早ホラー”でなんでも通じる。

 意味不明なもんは全部ホラーさ。

 顔面から落下したニライス君が、野太い声でのたうちまわる。


「オーッ!? オオーッ!?」


 既視感しかない理不尽感。

 躊躇いゼロで暴力に訴える、屈託のないロジハラ臭。

 僕は終盤で『一杯食わされた』という敗北感を味わわされても一向に構わないから、後でこっそり確信してはいなかったことにしてもいいことに今決めて、彼女はズドオちゃんと何らかの繋がりがあるに違いないという結論に、全財産をベットした。


「全ての『不思議』に構ってあげるほど、お人好しであるべきだとは思わないが、『不可解』に目を瞑って生きる人間を、野放しにしておくわけにはいかない。何よりも後世のためにな」


 何あれ欲しい! 額には #00FFFFの猫目が、暗がりの有機ELディスプレイ内をパチパチと流動する《猫耳サンバイザー》。

 ダーク×ピンクのバレイヤージュは、微塵もゴキらず、後頭部でモフモフとテルマってるツインテール。

 虹彩は両方とも、(うす)()に侵される直前までのタイムラプス。プラネタリウムを封じ込めたグリッターブルー。


「何が『不可解』なのかを、今すぐに白日のもとへさらしてやろう。だいたいこういう時は、弱そうな方を徹底的にボコすれば全部吐く」


「ひいっ!」


 僕はナチュラル・ボーン・パリ症候群なので、魔女だとか騎士だとかレンガの街並みだとか、中世のヨーロッパだとかいった《ザ・ファンタジー》に憧れを抱いたことがないために、その魅力がいまひとつ解らないのだけれど、多分にアレは、《エルフ耳》というヤツなのだろう。

 そうでなければ《宇宙人耳》だ。

 とにかく両耳尖ってる。


「おい、そこのポニーテ女子!」


「はい!?」


「お前“ovulation”近いのか!?」


「ハァ!?」


 要領を得ない中盤を、理解できる頭が僕にはないので、一気に描写し切ってしまおう。

 おおまかな全体像は《女子テニス部員》。若しくは《ザ・チアリーディング》。カラーリングは白を基調に、黒も除けば頭髪の“アストニッシングピンク”と、眼球を筆頭として要所々々に差し込む“広義のブルー”、以上2色で構成されている。


 左腕には、指先から肩まで綺麗に隠す、純白のロングアームカバー。

 絶対領域は、男子が最も好むレングス。

 足にはスプリントしやすそうな、小ぶりのランニングシューズ。

 そしてお尻には、なんとも“イラブー”な縞々の、猫の尻尾が2本もうねうね生えていた。

 ――実家のような安心感さえある、キャラ設定の詰め込み過ぎ感。


「言います! 言います!」


「ようし じゃあ吐け」

 

 投げ込まれなかったニライスが、呼吸を整えるついでに、0.5秒間キョロキョロと、白状を逡巡してしまったため、やっぱりふん掴まれて、良心的にリュックを剥がされ、


「言う、言う、言ううううってエァ!?」


 同じチャンスは2度と来ない。

 鬼のスマイルで海へ(ほう)り込まれた。

 ホラーも行きすぎると笑けてくる。


 しかしこの彼女(?)が、《ベリサリオン・イイポズドオ・β(ベータ)》であるのなら、今のこの僕は無関係を装うことから、まったく容易ではないのだった。

 なに、言うってなに、と、思ったことを口に出さずにはいられない活発ちゃんが、一方的に話し合う。


「普通に考えてみろ」


 秘密の左腕で軽々とニライスを引き上げながら、


「今の時代、女にひとつも容赦がない男が存在していたって、なんら不可解ではないってことは、小学生でも想像がつくよな?」


『……??』


 想像はつくけど、バカには言わんとしている行間が、あと2、3時間ないと読めん。


「俺が今赦せねえのは、そっちのいたいけな少女2人を、どれだけ危険な目に遭わせても、良心が痛まない極悪人の存在だ」


『…………』


「ホレ、自分で言ってみろ。誰に幾ら握らされた? それとも今すぐにブン殴って欲しいか? お?」


「っ、っっ! フッ!」


「ッオイ……!」


「俺は真実が大好きでね」


「フラティモ君に! 500Z(ゾル)もらって……」


『!?!!』


 チッと舌打ちの音が聞こえる。

 フーッと重たい吐息が上書き。

 ウミネコの鳴き声、ユリカモメ。


「やっつけられる……、役すれば、それだけで良いって」


「目先の金に、目がくらみやがって、このゲボ野郎!!」


「ギェエエエエエエッ!?!?」


「オラァッ!!」


「ディテクヒブ!!?」


 明らかにこの場では一番罪が重い悪党であるはずのフラティモ君までドン引きしていた。


「おい! よく考えろ、今から永遠によく考え続けろ、そっちのいたいけな少女2人!!」


 今風に話はここでいきなりブッツリと切れて終わる。


「あっ、依頼料のことなら心配しなくていいぜ? 何故なら――」


 去り際にもう一度、格好良く振り向いて彼女は言った。

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