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体験版 007 避暑地の深海



 事件はあっけなく解決した。

 目がチカチカする蛍光オレンジ。

 というのも、ずばり窃盗犯が確保されたからだ。


 水着に白衣の話じゃないけれど、事実、目の前にいる彼女は、独創性が著しく乏しくないキャラデザに関する欲求を、こんなにも出世欲の枯れ果てた、アンバブリーな自分にさえ蘇らせた。


(それでも何もかも既出なのだろうが――)


 推理するに、もともとは『ザ・避暑地のお嬢様』という、白統一のコーデだったのだろう。

 場所はいかにも“千鳥”が“島ロケ”で“どういうお笑い”をかましそうな“船着き場”。

 具体的に言えば、おぷてぃみ壮の一同で、妖狐(ズドオ)ちゃんを迎え入れた、だいたいあの辺だ。


「そんな、貴方が卑劣漢だったなんて――!?」


 聴き集めた情報によると、彼女の名前はバニールヨ。

 白ワンピには透けない下着の、上だけを覆う救命胴衣(ライフジャケット)

 透け感しかないつば広帽子。

 乾ききらない衝動性の残滓が、ひしと身を寄せた頼れる背中へ癒合する。


「――なんかよくわかんないけど、気分悪いよ。あたし、付き合いの長い順で評価する人間、嫌いだったんだ。でもこんな事されたら、仲良しを贔屓するしかなくなっちゃうじゃん?」


「…………」


 ニライスとかいうチビのメガネは、ただただばつの悪そうな顔でうつむいている。


「オイなんとか言えよ、お前ええぇッ!!」


 首根っこをつまみ上げたまま怒鳴る、パツキンのギャル男、フラティモ。

 こぼすまいと見開かれた充血の瞳で、しかしクソデカため息顔をつくろってみせる陰の者。

 主要メンバーは四人で閉じる。

 犯行の動機等、問い詰められている。


(まあ今時、四人のうちの誰が犯人でも意外性はなかったけどな)


(ジェリービーンズの、アホな下っ端連中でもなかったか……)


 謝罪させても問題になる。

 確かにスマホは本体が戻ってきたからそれでいいという話にはならないが、


「もういいって! そろそろ機種変するつもりだったから」


「機種変すりゃいいって問題でもねぇーだろ!?」


「うるさい! しつこい!」


「痛って!? なんで俺が!??」


「まあまあふたりとも……、これからどうするかを考えましょうよ」


 避暑地ちゃんが仲裁に――

 後ろ姿でさえ、ふんどし祭りより騏驥過隙ききかげき


「とりあえずなんか食お! その前に風呂入ってさあ。なんかどっかあるでしょ? どこにでも。プールでもいいや」


「ん。調べる……」


 T島でラムネ狩りコースかな?


「おいおいルーイ! 焦げてんのは食うなよ!? 病気になるだろ!?」


 片付け、大掃除、――つまり肉体労働で、そりゃあストレスを発散できるタイプか、運動神経よし子ちゃんは。


「俺も手伝うって、おい!」


「じゃあこれ全部返却してきて!」


 引きの()だ。わかるだろ? 立体感の必要ない紙芝居みたいな構図。右から左へ海パン野郎が、ピュンっと行って、戻ってきて、キキーッ、ブレーキ、振り返る。


「~~~っ、てかコイツ、ダレ!?」


 パースだ、パース。パースちゃん。

 今度は僕の目がカメラになって、イタリアの海隠喩と交わる青い空が、一番の奥になる。

 右奥にはもう、モーターボートをレンタルしてる女性陣。


「こわっ、お前、こわっ! なにその日傘!? え? 生霊? なんか言えや!w?」


「…………」


 ――無理かな。

 まあ、何系であれガチクズは、ゴリ押しするつもりはなかったけどね。

”陰”こそ深海の生物の様に、際限なく多種多様だ。


 突き飛ばされた格好のまま、立ち上がろうともせず、地べたというかコンクリートの上で、自分の荷物を明日の用意。移動時に零れ落ちないように、とにかくチャックを閉めて背負う。


「フ~ラ~ティ~モ~っ!」


「ああっ、ハイハイ! ってか俺、邪魔じゃね!? 独りだけ!? えんりょ?」


「そう思うなら今すぐ帰りな。ヘタレな紳士はオーストラリアの猫より先に絶滅した方がいい」


「行く行くw 行きますよ!w」


「ふふっ……♪」


 うつむいたまま立ち上がり、ふらふらと反対方向へ歩き始めるニライス。

 祝福される光の道へ、進みゆく半裸の男。



 僕は自分の耳を疑った。

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