体験版 006 見返りゲゼルシャフト美人
並べられているのは。
さっき作った目玉焼きと、JJニキの持ってきた、脂身だらけの『豚肉の捨てるとこ』。
あとは普通に牛脂と、おからパウダーと、凍らせて解凍した豆腐の水気をきったもの。あと節分の豆。それに生卵と、さっきも使った調味料一式……。
ああ あと、いま作ってる普通のハンバーグもあった。
正直そいつが一番わからん。
ちなみにが多いが、僕の服装は、黒のジーンズに黒のカッターシャツ(長袖)だ。
インナーも黒で靴下も黒。
結果、どう見ても厚着になったジュンジューライが、暑い暑いとこぼしていないことからも判るだろう?
夏の室内はガチで凍える。そのうえ屋外では灼熱の太陽が、ウホウホ トレンド入りしているんだから、こいつがマジでベストなのさ。
「ん~、チーズも要るかなあ? 冷凍庫?」
「はいっ!」
「ついでにケチャップとウスターも取ってぇ」
「りょりょりょ!」
実にシュールな絵面だ。
「ま、とりあえず食べてみてよ」
僕もとりあえず、生まれつき感激屋ではないので、JJニキに両目を向ける。
無論、ヘッドフォンは2人とも、食べるときは外してある。
聞かせる人数が多くなるほど、標準語の割合が増す――これは、『ゆとり』以降の新時代人に共通する、『オレがオレが!』の少なさの発露――即ち、当たり前に腰が低い、世渡りマナーのリテラシーなのかもしれない。
「てげぇうめぇ!」
いきなり例外。
よく見るためにグラサンも外したら、感涙しているのが見えた。
「てげてげ、うめ!?」
(そういやこいつ、ハンバーグ大大大好きマンだったっけ)
手際が良すぎたことから行間を読めなきゃいけない。
『壁ドン』に続いてメインの意味が入れ替わった『メシウマ』も度が過ぎると、讃辞も馬耳に東風、いや釈迦に説法なのさ。
どざーっと付け合わせが来た。お皿の上のキッチンタオルに、油の影が駆け上がる。
そうか僕は、新鮮な赤身肉よりも、あふれ出す肉汁よりも、揚げたてのカリカリでホクホクなフライドポテトが好物な派閥に属する者だったのか。
素手でなくフォークで刺して食う。
しみじみうまい。
ちまちまいけるおつまみ系めっちゃ好き。
「だからそのー、私が言いたかったのは」
見返りすぎてゲゼルシャフトのメイン意味が。
「その中に残ってないでしょ、ってことなのよ」
残ってない?
「全部お肉になってる!」
自分でも割って食べて頬。
「逆にパン粉とか玉ねぎは、無理すればほら、見つけられないこともないけれど……」
さすがに気づいた。
「ああ、『卵』が?」
「そう! 卵! 生卵はミンチ肉とよく混ぜて火を通すと、完全に肉の一部になるのよ!」
僕は絶対に先人の誰かが既に実行しているだろうなと思ったけれど、傍白にとどめておくことにした。
「焼いてからみじん切りにして混ぜ込んで形成して焼いて割って中身見たら、完璧には溶け合っていないのに!」
「卵から肉を作るってこと?」
冒険団長は、何気に聴き上手でもあったりする。
「そうそう♪ 人類の永遠の夢! 卵から直接肉を作り出すっていうのは、人類の永遠の夢なのです! その実験を――、これからやります♥」
牛や豚を1頭も殺さないで済む未来には、結局たどり着かないからといって、今廃棄されている『ほぼ脂身な部位』を、誰ひとりとして“キャベツウニ”する必要がない、ということにはならない。
ただ、赤身肉の価格が下落する危険性をはらむのであれば、歓迎されないのかもしれないが……、
特別自由人だからというわけではない。
そりゃあ比較的容易に『NO』と言えるけれど。
さっきコーヒーを淹れたのと一緒さ。
どの道最終的には、人類は《利益社会》へ行きつくんだからな。
是非とも進化は先取りしたいね。
俗語的適当な籠を捜しに行って、戻ってきて、脱ぎ散らかしてあった服を拾い上げ、ポケット等に何か入っていないか確認する。なし!
僕は誰に断るでもなく厨房を後にして、洗濯機の置いてある裏庭へやってきた。
問題ないさ。こいつはオゾン式洗濯機だから、下水道へ流さなくても河川等を汚さないし、水だって汲み上げてる地下水だから永久に無料なんだ。
どうして『好きなことで生きていく』が、最近になって急激に厳しくなってきたのか?
その答えは“フェルディナント・テンニース”にあったのだ!
町に火が迫ってきている時に、水系の能力者が、自分に今できることをやらずに、幼い頃からずっと憧れ続けてきた雷系の能力を、どうしても今身につけたいんですと、本音を吐露してみる選択は賢明だろうか?
人類ばかりを守り続けてきた結果、地球は人間だらけになった。
これは大昔にも予測できた。
要するに、一番初めと同じような状況になったんだよな。個人に着目すると。
それなのに“現在は”競争相手が同族――。そのため、人情だの同胞愛だのに重きを置く《共同社会》の方を、《一親等》より優先して守り抜く! とは言っていられなくなった。
他に敵はいないんだ。
人間の天敵が人間になったからだったんだよ。
今まさにすぐそこにまで、火の海が迫ってきているからだった。
え?w まだ余裕でしょ? ――じゃあガチでなくって。
それなら『嫌いなことで生きていく』というのは、嫌いなものを好きになる努力に血反吐を吐いて、それでも心の9割9分9厘を占める『嫌い』にはなんの影響も与えられなかったという暗礁へ乗り上げ、進退窮まるも、最終的には、世界一楽をして生きて行けるようになる、ということになるのだろう。
植物は、動物にとっては命そのものであるとも言える“酸素”を、苦心して生産していないどころか、まさかの“老廃物”として、この世に産み出している。
『100%間違いなく絶対に必要ない』という結論は、対象をたった一面からのみ観察した結果、得られたものに過ぎなかった。
二酸化炭素なんかも、動物にとっては必要が無さすぎるが、昼間の植物連中には絶大な人気を誇る。
『100%間違いなく絶対に必要ない』という一面を持つ事象を世界からピックアップして、『100%間違いなく絶対に必要』という側面を探してみるだけの、簡単な……お仕事……。
互いに神様だと崇め合っている。
苦心して消費してはいないどころの騒ぎではないのに。
死んでも嫌な『あっち』へ進んで、意志の力を総動員していたのなら、成功の要因も『諦めなかったから』で正しくなろう。
その場合、『楽だろうが適性があった道の方を無暗に諦めた意味不明な奴』という汚名も、同時に“挽回”してしまうが。
僕は老廃物でもなんでもいいから、本物の植物が作った酸素の方を生涯吸い続けたい。
本音を吐露してみられたら、女だろうが幼女だろうが、いいから早く水を出せとぶん殴る。