第三章 闇髪の注瀉血鬼 04 六千億回の死亡体験
「~~~っぷ、はぁ!? いやいやいやいや、いやいやいやいやっ! 十八兆~~~年て!」
俺は十八兆~~~年振りに、現実世界で大きな声を張り上げた。
「!」
「!?」
「長っっっっっっっっっっっっっっっっっっっっが! 結局数百年分しか憶えとらんし!?」
「ちょっと、お兄さん! 大丈夫ですか!?」
「そ、その声は!?」
しかしよく見るとこの場所は、夢の中と見分けがつかないほどに十八兆年前のあの場所で、逆十字の電気毒針は、まだ天高く振り上げられたままだった。
「なんだ、ジャジ子か……」
「ジャジ子!? だれ!?」
ああ、ごめん。勝手につけたあだ名だ。
俺の右腕に注射針が容赦なく突き刺さるぶすう!
「ギャーッ! お兄さん、刺されてます! 今刺されました! うわぁん、やっぱり死ぬんだ私たちっ!」
「?」
何が痛いのか、何が怖いのか、何故泣くのかは解っても、全く感情が動かない。電気毒痺れる針を、素手で掴んで引き抜くと、スー姉まで一緒に目を見開いて絶句した。
なんというか、当たり前だけど、六千億回の死亡体験は、テキトーなモブでさえ異常なモンスターに変えるらしい。
「血ぃ出てますよぉ~~~っ……!?」
「えっ? っていうかなんで、無目敵に触られたのに、無目的になってあっ、ひゃ!?」
ジャジ子は小か中学生だったから自重しただけであって、大人のお姉さんに――やっても、普通にセクハラになるか、まあいい。十八兆年振りの再会なんだ。ハグちゃんくらいするさ。
「瞑鑼」
「そう。解ったわ。全部解りました。もう何も言わないで。人間の声なんか聴きたくないの」
「…………。今夜一緒にお風呂」
「嫌よキモい。違うでしょ、変えないで。じゃあこれ、預かってて。壊したら去勢するから」
「はい……ろ」
「来た来た来た来た! ってかこれ『俺ごと殺れぇ』の恰好になってるぅ! 助けへぇっ!?」
スー姉をハグしたまま、預かった軍用の防音イヤーマフでジャジ子の耳を保護する。
吸血の破壊針が白銀の金属バットへ鋭い音を立てて突き刺さった。