第四章 匍匐漸進 011 エレメノピィ・ジュンジューライ(仮)
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交差させた大腿骨の中央に頭蓋骨。
「生き返らせようと思ったから」
自由が手に入ってしまったからだ。インターネットが激確立され、携帯電話が激進化して、カタルシスを得る方法が激多様化したからだ。激細分化されたためだ。
確かに自由があれば共感は要らない。自由のためなら共感なぞ諦められる。完璧なハッピーエンドに見えた。
しかし生身の人間は消えない。
共感を得られなくても構わないだけでは済まされなくなっていた。
あいつが独自の方法で、自由にカタルシスを得た場合、代わりにオレにストレスが溜まる。そしてオレが独自の方法で、自由にカタルシスを得ようものなら、あいつにストレスを与えてしまうのだ。
スマホが実在しないという絶望が、万人を公平に苦しめていさえすれば、人は罵り合うことなく、萌え系ソシャゲキャラの大麻比古とニコちんで、死出の旅も楽しめた。
ペットを家族の一員として、人間と同じように扱うおばあちゃんは、百パーセント正義側の人間であるはずだった。
孫の代わりにおいしいお菓子を食べさせてもらって、結果ちょづいた小型犬は、馳走をくれないムカツク他人に全速力で噛みついた。
自宅では流血も、絆創膏を貼るだけで隠蔽できたのに……。
ドッグフードの方が添加物満載で、生体に悪影響なんですって。
捕食動物の社会について学びもせずに、与えてもいいんですとぬけぬけと。
大好きな邪魔者に先立たれた、不幸な私のアガメムノンは、新しい顔を投棄し続けられるキス奴隷なんだから。
地元民が車道を利用する。愛好家が轢殺されたリュウキュウヤマガメに悲憤する。追い込み漁がニュースで流れる。どちらも『私は悪くない』。
主義を持たない傍観者が槍玉に挙げられる。牙を盗られた象が腐敗する。角を切られた母へ擦り寄る。密猟者が痩せゆく我が子にもう一度勇気をもらう。
保護活動のプロが、単なる亜種に過ぎないキタシロサイを、ミナミシロサイで復元しようと閃けない。
たとえばヤエヤマミナミイシガメが、残り『メス二匹』のみになったら普通、京都か滋賀か、その周辺の、ミナミイシガメのオスをとりま同居させて、卵を、ベビーを取るのだけれど。
それとも、ひとつの種が地球上から永遠になくなる瞬間に立ち会いたいと、本音ではワクワクしているのだろうか?
動物園で、勤労の代価として賃金をもらって勤務している飼育員が、『ホワイトタイガーを誕生させるには、ホワイトタイガー同士を掛け合わせるしかない』という『無知の極み』の壁に、ぶつからなくてもいいのにぶつかる。
涙を流して嘆き悲しむ。
メダカでもアルビノのきょうだい同士なんて掛け合わせない!
メダカでもアルビノが出たら、通常色で掛け戻して、外見は通常色な「F1」同士の子である「F2」に、四分の一の確率で、『色変』を求めるものなのに!
世代を経るごとに、奇形の要素が膨らんでゆくから。
それを防ぐために『掛け戻しの手法』が存在するというのに!!
人間は本当に『メンデルの法則』を知っているのだろうか?
知らないと答えれば『小学生並みの知能』であるという烙印を、自らの手で自らの額に焼き付けてしまう結果になる、といったような『自己の保身』に関しては、素晴らしく頭が回るらしい。
『問①』の法則と『問②』の法則と『問③』の法則。
『問③』なんかどうでもいい。
知ったところで認識できない。
中学校を卒業した全ての人間が、『問②』さえ完璧に答えられれば、ホワイト同士を掛け合わせる以外の道で、外見の美しさと肉体の頑強さを兼ね備えたホワイトのベビーを誕生させられて、何を悩むこともなく、動物園でホワイトの見学を楽しめたはずなんだ。
ましてやプロが知らないなんて、一体どういう了見なんだろう?
勤労の代価として相当の賃金をもらっておきながら。
就職した大人に、わざわざ教えなきゃいけないものなんだろうか?
義務教育の内容って。
無知のために、絶滅しなくてもいい野生動物が、むざむざと目の前で消滅する。
そいつは悪だ。
無知のために、繁殖させてもいい希少動物が、ぐちゃぐちゃに奇形化して死滅する。
そいつは悪だ。
愛する妻子を必死で養うパチンコ店の店主が、てめえの家族なんか知ったことかと、パチンカスを更に堕落させる悪行は善だ。
競馬場がなくなれば、勝ち組の種馬様でさえ、食肉化を余儀なくされるのだから。
実験室で脈々と受け継がれてきた生命は、例の団体の温かい思い遣りによって、突如、根こそぎ焼却炉へ焼べられた。
四十にして激惑った遅咲き籠りは、人の上に飛び出した人よりも正しい。
信じる者は桶屋の明後日。
遠目山越し白河夜船。
人はまだ”メンデリズム”を知らない。
Q:あなたは”メンデリズム”を知っていますか?
A:はい、知っています。
残すのはいいが捨てるのはいけない。
このルールを順守するのはいかにも容易に思われた。
人はどこまで、物事を関連付けて考えなければならないのだろう?
彼女は名前をつけて弟のように可愛がった。冷蔵庫に仕舞い忘れれば腐るということから知らなかった。約束してあったでしょと言われる。莞爾として笑っている。お前がしたのはこれと同じことなんだよ。両親は泣き叫ぶ娘を押入れへ軟禁し、自分の手でペットを殺させて、食べさせた。何かが壊れる。正義の味方の告げ口で、娘は生みの親から引き剥がされ、思い出の家屋は廃墟になった。
「それでも私は、いや、僕は、俺は、遺棄された遺体から善意で摘出した説を支持するよ」
ああ、きっと真犯人は、弁解を貫き通す、人食い帆掛け船なんだ。
行動力がないとはひとことも言っていない、とかじゃなくて。
「えっ? なにほれ」
うるりんはそもそも“迎え舌”という単語を知らなかった。
じゃあ不正解だな。
鍋の中ではなんだかよくわからないものが煮えている。
椎茸、人参、鶏肉、ネギ……。
豚汁? 麦飯の――雑炊?
「え、知らんの、そばごめじる」
なんだそりゃ。
本人もこれが郷土料理だということを、今初めて知ったらしい。
遅っ!
まあ、甘いお好み焼きと比べたら、インパクトに欠けるかもな。
東北のっぽい?
ああ、言われてみれば。
「正解はー、食べ方が汚いこと。いらちやけんかなあ。どないしてもどっかについとんよー」
「口が小さいからじゃない?」
保守派と急進派は、育成厨と攻略厨のように、社会全体をまず第一に、幸せにできるという点に置いては同一であった。
調子に乗って陸へ上がって、結局窒息する雑魚よりは、一クールでも長く生き延びたシーラカンスの方が断然アロい。お前の今居る学習机で恋バナ(バナナ)を作れ。
墜落死することになろうとも、翼と太陽を欲することこそが人生だと考える努力厨が、個人重視の耽美派である。生きた化石のまま暗黒の深海で、無味乾燥に延命してなんになる。
胡坐をかいているときに寝首をかかれ、後悔して時間を巻き戻せば胡坐をかかない。
豚が食えばセミも食われる。
えー、とにかく。
『ライトノベル執筆マニュアル』が解析されたわけだ。完全に。
『面白さ』が、世界一の馬鹿にも解るように数値化された。
ゲノムさえできちまう凄腕の人間様には楽勝よ?
んで、開示されて、自称ライトノベル戦国時代が黒歴史になって、『み~んなひでよし! み~んなラノベ作家♪』時代が幕を開けて、全国の飲食店も壊滅的な打撃を受けた――と。
いや、軽率な『ラノベでけたら漫画化すんだろ』発言に腹立つ気持ちはわかるけど、やっぱ『漫画』って字面は格好いいから。それはもう仕方ないじゃん? 謙遜格好いいとも、パラドックス格好いいとも言えないわけだからさ。『ブサメン』の方がどうしてもボトムなんだよね。
《人中》。
これは有機物であり無機物であり、同時にお弁当でもあったのだ。
うまいことを言っているんじゃない――こいつが激☆マズかった。
『それ単体でも嗜める上に、どんな料理にも合う究極の調味料』という見方をしてみよう。
(塩かけご飯と味噌だけ汁に、適当な本を組み合わせてンホォッ! 激多幸感~っ♪)
『強み』がガチで反則なんだよ。
炊事は独りでもできるけれど、謎解きを独りですることは何をどうしたってできない。
これは前にも言ったが、このふたつを比較することが危険だったんだ。
作ってくれる他人が絶対に必要なこちらだけ、永遠に需要が尽きないから。
永遠に需要が尽きない――そんなチート飯店に現世で繁昌されてみろ。
劫初、町のおもちゃ屋さんは、ウェブ上の店舗の侵攻を受けた。
商店街に舌が長いねとリプした百貨店も、炎上の甲斐なく順次。
比喩でなく本物の食べ物なんだ。飲食業の世界へ飛び込んで、鎬を削っているという自覚が要るんだ。どの道オリジナルの妖怪は作らなきゃならないんだから、えっ、どこがオリジナルなの……?? 妖怪のパクリだろwww と、穴しかない正論を書き込まれて断筆するな。
では新時代の『起・承・転・結』をなんと言うのか?
『謎・焦・解・落』と言う。
人間がありもしない触手まで動かしてしまいがちな娯楽の要素を箇条書きにする。謎解きと、その他に分ける。その他の要素を適宜和えて完成させたおいしい餡を、謎と解でサンドイッチする。
文語的適当な『焦らし期間』を挟まずに、謎に解を連続させたら、謎は謎でなくなってしまうからだ。
そいつはいけない。
『起・承・転・結』なんか、四章作れば、おのずとそうなってる。
わざわざ意識するもんじゃない。
――で、ここまで。『謎・焦・解』までのかたまりが、『過去の自分から譲り受けたお題』。オチをつけるというのは要するに、自作の大喜利に、自力で解答するということだったんだ。『まだ解答あったのかよ!』これが『意外性』。
『初心を忘れるな』って言われてもわからん。
『作中作感をいつでも心に』。
虐げられたということは、幸運に恵まれたということでもある。脳味噌先輩を思いだそう。世界中がズタズタになっていた。人はそこに、肉体を治癒する仕事の需要を見出した。炭火で肉を炙る炊事は、なんだかんだ結局、自宅ではやらない。そして焼肉諸島が誕生する。
「シンガポールと台湾よ。すっごく楽しかったわ、あの取材旅行」
レンタル水上バイク屋のおっちゃん(ネンネン)が、ひいひいと数えてぶん殴られる。
天然で計算高い女オコローリ代(重複)ちゃんは、様に様に様をつけて揉んでいた。
何故単為生殖で男性が産まれたのかというと、青龍には鰐も入っているものだから。
「坊……だ……! こいつは新種の、瓜坊鳥だァ――ッ! かわいい」
メリトの卵がついに孵った。
金の鵞鳥はまだ目覚めない。
「秋になってからがんばりたいですっ」
とか揺れる重い肉体充が感じやがったので、また呼んで来させた。録画を開始。
えっ、いきなり?
いきなりそんなに激しく舌を!?
絡め合ああもう、喋るな、エレメノピィ・ジュンジューライ!
愛護団体の訴えも、尤もだと思ってみた。人間を直接強化できる薬品を開発できてしまえば、悪用されるに違いないけれど。
治験のアルバイトには大勢の人々が集まった。改造動物もいっぱい産まれた。『ZOL‐MAN‐TABLET』が完成した。逃がされたり逃げ出されたりした。焼肉クルーズがヒットする。集まった女性の唇を目当てに、瀬戸内海海賊が湧いて出る。
あるいは。
僕は白ジャージのツイン三日月テールに追いつかんと加速した。
Z力や坊力や貉力に、頼らなくても生きてゆけるように。




