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第四章 匍匐漸進 009 Don't cry over spilt milk(仮)


        9



 秘密を知り、首を突っ込むだけに留まらず、牙を剥いて暴れた危険因子を、すんなり帰してくれるような性格なら、もとより女子生徒を何十名も誘拐したりはしないだろう。


(閉じ込められた――)


 ジュリアスのように焼き払っておくべきだったのだ。

 待機班なんか作らずに。

 ん?


「あ、ジュンジューライだけど? お前今どげん場所で何しちょっと? 何しちょっとね?」


 あれ? 存在感は確かにあったのに。

 これが噂の集団催眠?

 全然違うのかもしれない。


「なに!? 激オコローリヨ状態でもピンチ!? いや、場所を言えゆうとっちゃがぁ。どこね?」


 別に遅れて登場してるわけじゃなくね?

 そう見えるように映してるだけじゃね?


「なんね? そぉね? まあー、そがん風に言われてもうちら知らんてぇ? えー。えー」


 だって誰よりも早く、揉め事の真ん中に飛び込んでいるじゃないか。

 主役どもはいつだって。


「――真ん中に決まってる、お宝はバツ印の真ん中に埋まってるに決まってるんだとよ」


 五分歩いたら五分で来た。

 部下ローリヨたちの乗った船が。

 電話って便利だなあ。





 そうだ、レモンライムも初めから、レモンとライムのふたつでひとつだった!


(守れなかった……!)


 赦されるだろう、今度は遺灰に直通するとしか思えなかったのだから。

 また船長の名前を叫んでる。

 やはり巨大でも強いやつは強いのだ。

 雷雨のち雷。

 唇以外はまあ、お通しだ。


(僕も用法・用量を!)


 間に合っても遅かった。


『っっっ、あああああああああああああああああああああああああああああああああ!!』


 マジか、こいつ! マジか!? あああ! マジで放電しやがった! あああんん!?

 えっ。まさか、この男は――!


「訊きたいことがあったのよ。ただそれだけ。個人的な怨恨なんて全く込めていないわ」


 ほんとにそうか?

 絶対違う。

 しかしその――、


「『坊系(ぼうけい)の能力者』。だったら」


 死ぬわ。と、赤い三日月を(しかもふたつも)惜しげもなく鋳造した『ツー』サイドアップちゃんは言った。


「というか再生できなくなる。最悪ね」


「いやお前、最悪も何も――!」


 アフロになりようがない彼、ぼう超パワーのぼうからは、貴重な永久歯がリアルに抜けていた。


(オトーシ……)


 マンガ肉の暴風雨に襲われる。


《生きる力マン・ホタルイカクロウミガメ》が、頂甲板こうこうばん椎甲板ついこうばん肋甲板ろっこうばん縁甲板えんこうばん臀甲板でんこうばん、――甲ズレしてない背甲の釁隙(きんげき)を、燐光させて激昂する。


「もも肉を、骨付きで、粗末にしてんじゃねぇぇぇ~~~ッ!!」


「セセリならいいのか!? セセリならいいってことかぁ!? あっはははあ!?」


「ド畜生ぉぉぉ~~~ッ! よくも一番うまい部位をぉぉぉおおおっ!! うまい」


 食うなよ。

 毒が入ってたらどうすんだ。


「ッ! カッハァッ!?」


 ほら見ろ、言わんこっちゃねえ!


「の……、のど……! かわいた」


 なんだ、ただ単に渇しただけか。

 驚かせやがって。


「卑しい良心がしゃしゃり出てきて、非情に徹しきれまい! ジャーッ! ジャコブヒツジww! ジャーッ! ジャコブヒツジww!」


 頭にツノを十四本も生やした、ジャイアントジャコブヒツジが、勝ち誇ったように笑う。


「《首謀する頸筋肉(バンデリリェロ・)達磨闘牛アンコーレ》!!」


 幸いウミガメは、潜頸亜目せんけいあもくの出身だったので、常識人が蚩笑(ししょう)で訂正してくれるように頭部を完全に――は、不可能であっても、『頸部』に限っては、実のところ収納することができた。


 ジュンジューライの足下に、弾力性のないナタ・デ・ココがバラバラと散らばる。

 こいつら二体を合わせて、三幹部だったのだろう。

 ジャイアントジャクソンカメレオンじゃない方は、おそらく、ジャイアントグリーンイグアナだ。


 人型の戦闘員も複数名倒れていた。

 判別のつかない雑多な骨と、牛の頭蓋骨で埋め尽くされた地面に。

 悲痛な養豚の断末魔が、居住区のある方角を告発してくれる。


 漁師の間では、海中を飛ぶように泳ぐ姿から『鳥』と評されているらしい。

 肩から生えた翼に見える、オール状の前肢には、オスに顕著な親指の爪が確認できた。後肢は推進器官である、烏賊イカの漏斗になっていた。人間の手足は別にあった。尾は太くて長い。

 上嘴を有した黒の亀仮面が、目元と口元を、秘めるようにあらわにする。

 ギザギザに伸びた後ろ髪は青い。


「カッコイイかたな、壊れちゃった、ね……☆」


《ホタルイカクロウミガメ》は何も答えずに、あの、つかの先にはつばしかなかった、首飾りの日本刀から、ワンタッチで飛び出させたモリを――、



 大道芸人のように呑み込んだ。



 海水を真水と塩化ナトリウムに分離できるスキルこそが、ウミガメの真面目(しんめんもく)であったのだ!

 砕かれる前の《塩刀(えんとう)》、《塩犀(しおさい)》は、立方体の欠片もない、透き通った偃月刀(えんげつとう)であった。


「何度でも蘇る! 激おこ! 《鉄柵ルート完全攻略コンフォートゾーン・ブレイク》ウウウ!!」


「何度でも砕け散れ! 《大団円する(ピカディリー)最期の饗宴(・マタドール)》ッッッ!!」


塩犀しおさい》と《ワトゥシランス》が激突する。





 オコローリヨが一籌いっちゅうしゅしたのは、その、国をも傾けると言われる、美貌のためだった。


 煙が晴れる。

 女の薄皮を突き破られなかった意気地のない突起物が、情けなく硬直している。

 その通りであった。

 確かにお宝とは、バツ印の真ん中に埋まっているものであった!

 あと少しでみんなを守れた船長が、破られてしまい、敗れてしまう。


「あれは……『坊系ぼうけい』……、なのか……!?」


「何言ってるの! 坊系ぼうけいの究極じゃない! 究極の坊系ぼうけいじゃない! 恐ろしい……!」


 そういえば亀仮面を被っていたときから、『賊眼ぞくがん』とやらはもう既に解放されていた。

 マザーボードを手に入れた究極の烏賊の眼も、心理戦には歯が立たなかったようだ。

 雑魚の猪突は見切れても。

 むしろ感度が上がったからこそ、より強く惹きつけられてしまったのかもしれない。

 半ば自ずから、つけ込める隙を与えてしまった。

 男から強さだけを抽出するのは難しい。


「どうして……、どうして《シトラスミント》や《ブラックミント》は出てこないんだぁ!?」


 食後の口臭ケアのタブレットに、もうなんの関係もないじゃんあれ、とジュンジューライがつけ加える。商標登録されているからだろうとイイポズドオが推量する。企業に許される如何にかかわらず、その座席を無断で独占する行為から、汚い利己心を見出さないでと訴えるのはお門違いなのだから。


 ゆとり仕様とも男女雇用機会均等法とも、海外から逆輸入した萌えとも違う。これは――袴が自分の好きな色になっている――、ランドセル化現象だ!


 何故もとの色を赤じゃないと断言できたのか? それは、楽器へと進化した弦の多いそいつが、まるで天使の羽のように肩から生えていたからだ。


 上半身は、胸当てを地肌に直接装着した《人魚》。

 判断の根拠は、ヒトデの髪飾りが非常によく似合う湯上り風(グレース)ロング。

 歩行音がぽろん♪ ぽろろん♪


「オーヴァードーズ? ええ、確かに。わたくし《ハープライラ》と《マーキュードー》を、それぞれ半ケースずつ、いちどきに服用致しましたわ」


 ウケたがり屋のボケ下手キャベジがまたしても、お前女だったのかって結局言っちゃう。


「、まさか。腹立ちが紛れたら胃袋が膨れるのか? ッ馬鹿が」


 どうやら本当に、チートズドオちゃんの貉系(むじなけい)の異能力は、無効化させられているらしい。

 憧憬型主人公は、燃え尽き症候群顔で、尾の切れた黒の稲妻(スリップボルト)を虚しく貼り直し続けていた。

 渦巻き模様が散りばめられまくったグレースウイングに、光の音符アローが(めぐ)んでゆく。


「本当に、何を食べろって言うのさ……。海に還れ! 《モロ被りする(デノミネイト)鯔背な音楽用語(・サイネレイリア)》!!」


「あれ? そういやメリオのやつは?」


 そこはバーちゃんじゃないの。





 青紫の虹を描いた《モロ被りする(デノミネイト)鯔背な音楽用語(・サイネレイリア)》が、一本残らず僕の身体に直撃した。


「んぐぐぐふっ!?」


 何言ってんのかわっかんねぇー。


「いや、それはお前だ! しっかりしろ! 生きてるか!? 息してるか!? 人工呼吸か!?」


 そういえば、ズドオちゃんとは、まだ一回も……。


「って、マジで息してねぇーぞ! やべえ! おいみんな! ッッ!? まさかお前――!」

 ああ、そうさ。

 この場面でこれ以上、形容を枯槁させるわけにはいかなかったんでね。


「馬鹿野郎ォォォ~~~ッ! いくらパサ度の高いササミやむね肉じゃないからといって、お冷やを一杯も飲めないこんな場所で、ジャイアントもも肉の照り焼きだけを、喉が詰まるまでドカ食いするやつがあるかア!?」


 頼みの綱のウルカリオンすぺしゃるも、途中で切れちまったんだ……。

 ガチで窒息死する。

 そう、諦めかけたときだった。


 いや、牛乳はもっと白いだろ? それに冷蔵庫から出してからこんなにも長時間、常温に晒していたのなら、腐っていて飲めやしないよ。


 Tシャツがいつの間にかじわりと開眼していた。彼女はもう一度、妹と一緒に雨宿りをしている際によく自前のオンボロ傘を押しつけてくる、坊系ぼうけいの能力者のような顔で、これは牛乳だと言い張った。


「!」


 もしかして、そいつが――!


「『覆乳乳に返らず』! 『Don't cry over spilt milk』!!」


「ッッッ……! セ……、テンキュゥゥゥ~~~~~~ッッッ!?」


 うわあ、腥温なまぐさあたたかい。


(ニュージューwwwwww)


 でも牛乳は納豆の次に苦手だったので、目を閉じて鼻をつまんで頑張った。

 ぺかーっ。


『こ……! これが……、《生きる力ゼストオブリビングマン・レモンライム》の、真の姿……!?』


 僕を殴った《生きる力(ゼストオブリビング)マン・ハープライラマーキュードー》の拳が即、鮮血にまみれる。


「いだっ! 痛ぁ~~~い! 痛い! いてェ! 無理! マンガのようにはいかんわ」


 要するに口からビームを吹きかけられる。


「ッ、水分を含んだ『生きている樹木』は、少なくとも生身の哺乳類よりは燃えにくいッ!」


「っ、ちくしょおおおぉぉぉ~~~~~~っ! 唾が染みる」


 あとはもう、振り上げて見せただけで、白旗を引き出せちゃった。

 あと、冷静になってからよく考えると、普通に水筒に麦茶があった。

 まあそれでは弾力性も兼ね備えた茎針を、毛根から引き出せなかったのかもしれないが。

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