第四章 匍匐漸進 007 心臓部を護る楯(仮)
「お前は、あのときの、名前なきぼくろ!」
「名前なきぼくろは誰にでもあるでしょ!」
「ああそうか、『ミズヲ』、『ミズオ』か……、ミズオオトカゲ。ずっとコモドドラゴンだと思ってたわー」
「あんな顔デカメンと一緒にすんなし」
「二位のやつね?」
「二位って言うな」
マイクロビキニから紐を取ってみた。
みたいな感じ。
鱗ゆえに密着してるし半透明だし、境界の線だけ描き込んだ? ってなる。
若しくは、それこそ、シール貼った?
動いたら剥がれ落ちそうでもある。
「で、どうしてお前の勝ちなんだ?」
「は?」
真の姿のミズヲさんが腰かける。
首筋や手足に残っている鱗が卑猥さを助長していることは認めざるを得ず、不覚にもオジサマがたの性癖に、同調してしまいそうになった。
耐久力は高そうだ。
「人質」
「取り返せなきゃどうせ死ぬだろ。それは殺されるのと一緒だ」
「ははは! 死なねぇーよ」
ギャップ萌えじゃない萌えの方が存在しなかった。
しゅた、しゅたっとふたりが着地。
チビオオトカゲたちが、クマノミのように一斉に引っ込む。
オタサーの姫は野郎どもにしっかり護られていた。
「一応訊くけど」
「じゃあ何を食べろって言うんだよ」
「お前さっき普通に鶏、食ってたろ」
「チッ、死ね、ペッ」
死ねとか言うな、唾吐くな。
《鬼御礼参り》。
「えっ?」
「きゃああっ!」
チッ、外したか、クソが。
「な、ななな、何を考えているの、貴方は!」
「うわああああああああああっ!」
「よくも……! よくも俺達の親友をを……、殺してくれたな! ミズヲヲトカゲ娘!」
『いやいやいやいや、生きてる、生きてる!!』
ズガズガ乱射された麻酔弾が、『虫類注意』に書き換えた。ルリセの両目がぼーんて飛び出る。ちょっと待ってと言おうとするも、途中でケージごと感電させられ、墜落してアフロになった。両目は渦潮。噴き出す汗がS字に変わる。
ごち~ん。ピクピク。星も出た。
「~~~ッッ! てめえの舌はぁ、青色だぁああああああああああああああああっ!!」
「正気じゃねぇぇ~な、オイ!!」
うるせえ、覚悟なんて単語に甘えんな。
豚扱いする悪人に、なりたくなければ豚になれ。
僕も経験から学ぶべきなら、オレの話を聴いてあげない。
「なっ、なにィィィ~~~ッ!?」
「はっはぁ! どうだこれで完全に手出しできまい!」
「いいや、違うね! 本来の目的は邪魔な足枷をあえて積極的に破壊することではなく!」
「ひぃい! たすけて!」
「お前を殺処分することなんだからな!」
「おなじことよ!」
貴重な交渉材料を守るため、彼女が咄嗟にとったのは、右手で喉を、左手で腹部をガードする、S字を描いたポーズであった。
掌は両方ともこっち向き。
なんかの拳法っぽい。
「ハッハァ! 驚いたか。この姿になると、ハーティ・シールドが使えるようになるのだ!」
母音、母音、母音、母音、母音、母音、母音、母音!
「ふーふふふふw 効かぬ、効かぬぞぉ! そんなゆるふわパンチでは、わらわの心臓に直截ダメージを与えることなど、到底叶わぬ! 到底叶わぬううううっ! ふふふふふ!」
母音母音母音母音母音母音母音母音母音母音母音母音母音母音母音母音!!
「あああ、ちょおお、なんか違う、う、う、思ってたのとなんか違う! たんま。すとっぷ。ちょい待って。あん♪ ちょっ……、いやぁぁん」
どうして味方に制止されなければならなかったのか解らなかったので、今まで我慢してきたことを、指でできる範囲で解禁してやった。
そこは怒らないのか。
そういえば別段我慢してもいなかったか。
ミズヲさんは女の子座りで上げ下げしながら、
「この膨らみは……《心臓部を護る楯》じゃ、ない……?」
何に使うのかを解説したら、共喰いじゃんと驚愕された。
お前らにだけは言われたくない。
「……んん、でもなんか違和感。なんか……隠してない? なんか。嘘でしょ、あ、嘘だ」
「じゃあほんとのことを言うから。背中伸ばして、胸張って。そうそう。手は後ろに――」
手首を縛る。
お尻でいんじゃね?
麻酔グサー。




