第四章 匍匐漸進 007 ◆◆◆◆◆◆
冒険団長、ゼスト・メリトクラシーが巻尺で測定すると、八十七センチもあった。
化物だ。
「ランドテトラ? え? これ、こういう形の島だったの?」
タブレットが航空写真を見せてくれている。
焼肉諸島の真上の海には、島嶼全域と同じくらいに巨大な『X』が、押し潰され気味に描かれている。
「クロスボーン島にしようぜ! ブラッククロスボーン島にしようぜ!」
三十日の午後三時であった。
「…………」
ヤンキーの子どもを無性に検索したくなる。
イケメンな牛とか馬もいるよな?
関東では一位、関西では一位、漫才では一位ですってなに?
逆光線で定説が覆る。ペンギンだって直立二足歩行できるし、アンバムに至っては足のそれまで“拇指対向性”になっている。骨格を見たことねえのか? 否、水の向こうには船がある。
「? お前さっきから何見て……って、うおっ! なんだあれ!? やべえ、でけえw 首なげええええっ!!」
ゲームで見慣れているからだろうか。
ネガティブに呑まれるのが辛いのか。
待機組の声の方が安全圏から悲痛である。
「ジャイアント……、モ……!」
メリトがごくりと喉を動かす。
足跡が砂の上に一歩々々作られる。
蹴爪が後方へ真っ直ぐに伸びている。
「ッッ、ジャイアントシャモだ! ジャイアントシャモが出た! DEKEEEEEE!」
「見たらわかるわ! でけえええええっ!」
「キモwwwwww! ムキムキすぎwww!」
「直立!! 背筋ピーンなっとるやん! 人! 人や! 人入ってる!? 巨人入ってる!?」
真摯な眼差しを潤した瞬膜は青白く濁っていた。
飛行機が飛んだ。
大事故だった。
今度こそ体面遊びをやめなければ殺される。
「めっくん!」
「メリちゃん!」
「バーちゃん!」
誰がバーちゃんか。
ついに出やがった。
どの道もう助からないだろう、例の有名なバクテリアによって。
海水で洗浄しようものなら、融け込んだ血の匂いを嗅ぎつけて、ホオジロザメにイリエワニまで呼び寄せないとも限らない。
はためくマントが喧しかった。もある派だった曹操が、劉備を打ち破って蜀を手にした。自分をぶん殴って砂浜へ叩きつけた犯人を、左目で発見するまでの間に。叫び声が聞こえなくなる恐ろしさに包まれる。アシナシトカゲとは反対だ。
「うぉるゎああああああああああああああああああああああっ!!」
今更ながら、口からビームって、正義の要素、皆無だな。
職場でのベストパートナーが、目からビームを出してくれた。
センキュー!
頭頂眼からのビームは、避けることの方がより、リスクも低い上に容易だった。
お餅つきの要領だ。
《紅蓮の霹靂》をぶち込まれて反り上がった頭に、握り合わせた両掌を全力で振り下ろす。
ラッシュ、ラッシュ。殴りまくる。
ボコ、ボコ。
人間と蚊に置き換えても解るように、巨大であることには利点もあった。
(コンバット・ダンス中ではなかったとでも言うのか!?)
海へ逃げ込まなかったのは、銀狐リオンちゃんの灼撃を回避するためだと思ったのだが、よく考えるとそれもおかしかった。
止められない。
ワイヤーかロープがあれば、こちらの手が千切れただろう。
《稷狐大砲》ならどうだ!?
僕は相方を求めた。
「!!」
ずっと気になっていた中身が判明。
お前、なんでも持ってんな。
みんなもこれ使えばいいんじゃね?
次弾が丁寧に装填される。乗せてる娘が急降下。不殺の権化のような麻酔銃でも、ウルカリオンの手にかかれば、凶暴な声で劈くようになるらしい。
しかしながら厖大すぎた。
普通の象には一発、リーダー格の雄の象には五発、命中させる必要がある。
先の”ジャイアントシャモ”なら十発は必要だっただろう。
温血の恒温動物でそれなのだ。
間違いなく弾の数が足りなかった。
去る者を追うのは心苦しい。
他にも居る可能性があるのなら、この個体にとどめを刺す意味はないのかもしれない。
(どこかを目指している……?)
「ハッははははは! あははははは!!」
唇がなければ言語を操られない、本家の方が遅れているのか。
「私の勝ちだ!!」
尻尾がアルミを更に殺した。鳥の巣はハンガーが編み込まれていなくても汚い。自分には判っている完璧な置き場所を目掛けて、ゴミ袋のように投げ捨てる。
発掘を終えた“ドラゴン”が、卵を抱くように輪を描く。物陰からにゅっと顔を出した幼体の数は軽く千を超えていた。
鳥肌が立った。
食われないために登るんだったか。
体の大きな同賊に。
爬虫類注意という看板を大量に貼りつけられた檻の中に――、
尋ね人、ルリセリ・ハコベメル。
ピントが合わなくなった背景で、長い尾がダイオウイカになる。
吐き出すように口が開いた。シュタイン先生の方がよく見ると怖かった。ぬらぬらと濡れそぼつ、青紫のスプリット・タンを残して、その他の部位が変容を遂げる。
世界一気持ち悪い食レポだ。
やはり騙していたんだな。
僕はまっすぐ地面へおりた。
そして言う。