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第四章 匍匐漸進 005 卵胎生の異能力(仮)


        5



 制欲の話。

 うにを入れれば六人もいた。

 翌日の午前九時、この僕、メリオリスト・ああもう長いの住まう小部屋は、女嬌姿きょうしの女皮膚呼吸で、漫喫漫画喫茶になっていた。

 飽きてはいないが、流石に麻痺する。


「めろもいけるよ?」


 そりゃあなあ、聞いちまったら行きたくなるよなあ、この歳だと特に。


「ぼ、僕が残ります! どの道買わないつもりでしたし、ジャージで充分かな、と」


「じゃあめろものぉころお。んふ♪」


 ああああああ!


「大丈夫よ」と、ジャニュ姉が言う。「うるりんちゃんは、仕事があるから」


 そ、そうっすか?

 めろが助手席に座るとして……。


「あっ、だめかぁ」


「駄目ですね、完全に……!」


「残りのきょうだいも行きたい行きたい状態になったら無理でした」


 え、ま、あ、そ、それもありますけど……?


「まんてんちんおかずまんてなに?」


「な、な、なんだろなぁーっ!?」


 大変な状態になっていた。


「しゅーっ、ふしゅーっ! サキュバスり(じる)がヤヴァいwww しぬう、ウヒウヒ!?」


 ウルカリオン・ランドセルに、機動力の大半を削ぎ落とされてなお。


「――で? あたしはなんで呼ばれたわけ? 何をすればいいの?」


「お前、僕のこと好きか」


「うん、好き。だーいすきっ♪ ん~、ちゅ。ちゅちゅちゅ♪ ぺろぺろぺろぺろ……」


 雄鶏を放り込まれた雌鶏小屋のような喧噪が、冒険団長を淫夢からも引き剥がした。

 ばたん。

 お前がどうした、服を着ろ。


「あ! ちんちんない!」


 そうだなとしか言い様がない。





 訓練に費やした貴重な一時間は、安らかに眠ってもらうしかなさそうだった。


「だ、だめぇ~~~っ……! あきまへん」


「あらあらあらあら」


 呼んだのは勿論ゲマインちゃんだ。

 先のパルコポセイドン島で意気投合したらしい。

 まったく不遇には見えないが、次女や三女に、ひとつ屋根の下でガチリア充生活をイチャられたら、長女なんてどうせ重いですよと心病んでしまうものなのだとか。


 ぐいぐい押しのけたあとに、ぴちっと正座。

 好きだよと言う代わりにハグしようと近づいたらにっぱり拒絶された。

 なんで!?


「この距離がいい。これがおちつく」


「ええ~~~っ!? 生殺しだ!」


 私だけを見て、私に触るな、好きになっちゃ駄目、失恋しても駄目。

 失恋しても駄目には笑った。

 もうわけがわからんわ。


「それならあたしがもらってもいいよね?」


「あかんんっ! いややあ」


「……まあ別に、いらないんだけどさ。こんな非筋肉」


「なんてことを言うん! あなたしつれいよっ」


 尖った黒い耳の向こう側に、複雑な表情が太めの線で、ぐるぐるぐるぐるつむじ風。

 非金属じゃないんだからぁ、もう~っ、こらこらこらぁ~っの方がよかったかな♪

 作戦その二に移行するか。


「運動嫌い。暑いやん。死んでしまうわ、足首痛める。デブやから足首痛める! めんどい女やと思たやろ? メンヘラの失敗製品やねん。中古価格でも売れん喪女やねん。さらぴんやのにwww 私のことなんか放っといて。好きってゆぅて! うわぁん、話しかけるなぁ、ううう」


「いぃい加減に……!」


「ちょっ、ちょっと待て!」


 慌てて銀狐リオンちゃんの手首を掴む。





 解決するのに丸一日かかった。

 解決できてしまっても、お? もっと打ってこいよ現世、ってモヤモヤするけど。


「ほんでもほしたら、お前んとこの鋏でうちの子が大怪我したやんけ、どないしてくれるんじゃボケ、慰謝料寄越せってリア凸してくる、私みたいなモンペ絶対出てくんで?」


「だから『鋏×ファッション』って地点も同時に目指す感じで進むの。その方が低コストで供給できるし――

鼻毛しか切れないミニ鋏あんだろ? あれ可愛いじゃん」


「鼻毛www」


 スポーツ用品店へは歩いて行った。散々話し合ったあと、夕方、涼しくなってから。メドウユウラ・メルヴェイユとふたりで。というのも他の面子は大体、友だちその一としての感心――を、持ってくれてるだけでもありがたすぎるんだけどね?


 普通キモい死ねって追い出すだろ。

 いや、ひとつでも選択を誤ればそうなるのか。

 ……。


 俯瞰すればこの散歩も人間関係を円滑にするために重要だ。と僕は時折マイナス思考の背中をさすった。フェイスライン以外はすごくかっこいいランナーとすれ違って、やっぱりジャージでいいと思う。


 到着して一瞬躊躇った。最後にあれを買おうと言い合う。車が欲しいという感覚は、これに似ているのだろうなと当りをつける。でもたけえ。


 帰りはジャニュ姉が迎えに来てくれた。本当にご迷惑をおかけします。ありがとうございます。

 子どもたちに渡るころには、ソフトクリームはさらさらと溶け出していた。


「『身に着けて電源入れてパワーアップ』。な?」


「おー」


「変身ベルトもコンパクトも、拳に装着してメリケンサックに代えるわけではないだろ?」


「あー」


 誰もが潜在的に残虐性を持ち合わせているのがどうした。子どもが好きなのはボタン押しだ。快感を得られる反発を探究することが大事なのであって、武器としてではなく――あっ、


「ちょうどいいや、『変身鼻毛切り鋏』にしよう」


「『変身ハナゲキリバサミ』!?」


 全員メドウユウラであったとしても解決できたなと、僕は遠い目で過去の人格を弔った。

 カビと戦うお風呂の洗剤に倣ったのだ。

 つまり――

『色恋』を根本から諦めた。


 惚れるなんて柄じゃなかったのさ。『誰かを選ぶ』――こいつが悪だったのだ。それはつまり、色欲第一で生きている証明に他ならなかったから。


『生活費を稼ぐことよりも女の方が大事』『女よりも生活費を稼ぐことの方が大事』――どちらを信念にする夫が、より妻想いだと言えるか?


 どっちもどっちに見えるけれど、少なくとも前者は論外なのだ。男には後者を選ぶ以外の道がなかった。――なんて発言しようものなら、あれあれ? 『人間万事金の世の中』肯定派ってことですか? ふーんそうなんだあ買った心で満足できる非情野郎なんですね? 氏ね。といった風な正論を刺し込める脇腹を、無駄に潔く無防備にさらけ出してしまう結果に繋がるのだけれど。


『女』『お金』『一点の曇りもない勇者でありたいと希う正義心』――この鼎立ていりつであったのだ。

 ヒロインズではなく、このみっつの中から、いずれかを選択しなければならなかった!

 女を護りたいのなら、仕事(おかね)が一番好きですと、嘘つきになるより他になかった。


 サキュバスりじるでどうしようもなく思い出し笑いする。

 何回連呼したよゴノポディウムって。

 スワロー系とリボン系の作出が大変だよ。

 なまじ卵胎生の異能力を、獲得できてしまったばかりに……。


「ドスケベの中のドスケベだな、お前」


「えへへ……肉食うてデブってるから……もいーん。でもメリちゃんやって性欲あるやろ?」


「んー? ないわ、お前ほどは流石にないわ」


 こういうキャラを貫き通すしかないわ。

 経済力のド乏しいクソガキのあいだは。


「私のこと好き? 嫌い? 嫌いなんやろ。んん? 聴いてんの? あ、もう一個あんの?」


「あー……、え? ちょっと待って……」


 カタカタ。カチカチ。

 賢者になられるスキルはチートだ。


「浴場型地球!?」


「ああそうさ、土があって川が流れて草木が茂って家屋が並ぶ――という常識に、とらわれすぎていると僕は思うんだよ。宇宙は広いっていうのはそういうことなんじゃないのか? 地面はタイル、太陽は電球、雨はシャワーから降る。湿度は90パーセント、結露は冷たい、」


「ほんで? 何がどうなるん、そこで」


「プロットだから答えから言わざるを得ないんだけど、そのー、あれだ。『妹と一緒にお風呂入るとか日常茶飯ですけど?』系のイケメンラノベ主人公っているじゃん? だからそいつらがそんなことを軽々しく口走った瞬間に飛ばされる。気がついたら別になんとも思わない全裸の妹がいない。焦る俺。探す僕。そして邂逅する、前髪がギザツンな、最大公約数顔のドッペルたち……」


「え? それは全裸で? 全裸で?」


「浴場では一糸もまとわぬのがマナーだ!」


「キャーッ!」


「理想のアバターとリアルなアバターが架空の妹を奪い合う、全員全裸系浴場コメディ!」


「架空のとか言うなwww」


《おふろーどろーぶ!》。

 第一話はとりま衣類を求めて冒険の湯浴みに出るぞと男円陣を組むシーンで終わります。

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