第三章 肉声祭 006 ZOLマン・タブレット(仮)
頭の回転が止まっても、そうじゃないだろうと批判する、厭世心だけは無駄に健在だった。
「オコローリヨ! あいつが誘拐犯だったんだ! ちくしょう、ゆるせねえ!」
「潜入捜査やってたんかも!? ほしたら私らの所為で台無しに!?」
運転手も黙っていた。
船にはすぐに追いついた。
「止まれーっ! そこの海賊船ーっ! うちの大事なクルーを返せ! 決闘しろ!」
メドウさんが、流石にそれはないかと俯く。情熱的な冒険団長に乗るしかない。頭の悪い僕にはもう、どうやってここまで来たのかも思い出せなかった。何かやましいことがあるから、逃亡をやめないのだろうし。こちらが乗り込んで乱闘に――
「ええ、うそ! なんだこれ!? え!? こ、お……、遠っ! ぜんぜん届かん」
なる心配はなさそうだった。
団長は、帆船しかなかった時代を舞台とした映画みたく、『ぴょいん』と飛び乗る腹積もりだったらしい。かわいい。
「たった1、2メートルがあ!」
1メートルも垂直飛びできる人間が――いたとしてもこのスピードじゃ、両脚を離した瞬間、真後ろへ吹っ飛ばされるぜ?
何かを閃いたときの「あっ」が聞こえた。追い越してジャンプか? 振り向くとメリトは、名刺サイズの清涼菓子、クーレットらしき物体を手に、嬉々として格好をつけていた。
いや、ドヤ顔でチャッチャッと振られても。
なにそれ?
「《ZOLマン・タブレット》だ!」
わからん。
「ついにこいつを、使うときが来た!」
どっ! と大きく傾いだ。ずぶ濡れではあったけれど、船は未だ走っていた。オコローリヨ・ネンネーシナが、ゼスト・メリトクラシーの右手首をねじり上げていた。ゆっくりとそいつを奪い取る。先の金髪は優越感で、後の金髪は悔しさに、それぞれ顔を歪めていた。
「かっ、返せよ……!」
「そいつは無理な相談だ。なにせ俺はこれから、1、2メートルあっちにある俺の船まで戻らなきゃならねえんだからな」
「そんな仕様もないことのために、変身されてたまるか! あーっ!」
美少女が全裸で眠る古代文明の遺跡のように猛々しい喉仏が、躊躇と逡巡と錠菓をぐるりと咽下する。
変身?