第三章 肉声祭 005 ご想像にお任せしません(仮)
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処女作なのか?
ご想像にお任せしません。
ということで、101号室にやってきた。
「おおっ! めっくんやん。どないしたん? 夜這い?」
「うん、夜這い! なんか我慢できなくなっちゃって……」
「湯上りで準備万端やん。あっ、うちまだ風呂入ってないわ! さっきまで寝とったけん」
ぱたん。
短針は11を指していた。
そんなわけのわからんルールは、無免許でヒット作をウェブ上に転載するメシマズの料理研究家による、本当は教えたくない「さしすせそ」の中にしか存在しない。
うひい、そういう風に勿体をつけられると、すっごく知りたくなっちゃうよぉ白目。
「あっ、よかった。まだおったぁ♪」
「はやっ!」
かちゃ。
髪の毛まで乾いていた。
これだからショートヘアは敵なんだ。
「うふふ。めっくんていろいろ凄そうやね? ええにおい♪」
「うるりんの方こそ」
ここからが本当の戦いだ。僕はデルタを凝視した。すすすっと両の手が、おなかへ降りてきて合体! ハ~トマ~ク。それをぐいんと持ち上げて、左目で覗き込む。
どっちなんだ?
まあ、普通に考えれば、二百パーセントベテランだ。
いや、『3パターン』あるのか。
独り寂しく、しかし我慢できずに?
何をどう考えても普通ではないこの、ウルカリオン・ウルフマインが?
単刀直入にお願いする?
まさか。一言でも嫌と言わせたらアウトなんだよ。黙って攻めろ。
「めっくんて手先器用な方?」
「あ? ああ、まあ、不器用ではない、と思う」
「ほなこれお願いしようかな♪ がんばったらひとりでもできるんやけど……、ひとにしてもぉた方が気持ちええけんな。かんまん?」
「お、おお! よゆう、まかせろ!」
先制攻撃を仕掛けたつもりだったのに。
僕は誰もがよく知っている、”例の穴”へ出し入れするための、二種類の棒状の道具を受け取った。あとティッシュも。
うん。耳かきだ。
「え? 簡単じょ? 五百回を、たった十セットするだけ」
甘すぎた。
一日五千回だった。
そりゃこうなるわ。
「ウヒヒ! こそばい」
ひと思いに触ってやろうと閃いて、すんでのところで思いとどまる。危ない。最終目的は処女作の有無を視認することなんだから。はいじゃあ今日はここまでーっ♪ と言えるチャンスを与えてはならない。そこの君! 15禁的に無理なのは解っている顔はやめたまえ。ああ、お前だけずるいと一身に批難を浴びよう。
そう、映さなきゃ問題ないんだ。ささっと指をひっかけて、すいすいーっといろいろして、それから……結構ハードル高いな。北風でも太陽でも無理だ。億を超える年収と大豪邸が要る。どうでもよくなってきた。触りたい。
まあ、触れなかったのだけれど。当然YをXにもできなかった。いや本当に頑張ったんだぜ? 褒められるところは全部褒めたし、撫でたりくすぐったり、お尻を触られた仕返しをしたり、口の中を見せてもらったり、唇を接写したり、指ジョン・Dへ誘導して失敗したり(噛むな)、押し倒して首筋をちゅうちゅうしたり……。
あと一歩のところだったのに!
扉が外側から乱暴に殴りつけられている。
誰かが何かを叫んでいるようだ。
嫌だ、落石に注意しようがなかろうと、このまままっすぐ突き進むんだい!
こんな時に限って、機械的に真顔へ戻れる女獣が、口を吸われたその瞬間だけいたずらっぽく演技した。
ああ……。
ゼスト・メリトクラシー冒険団長と、メドウユウラ、あ。自分で言っておいて……、違う。これはリポーターとしての使命を果たすため、みんなのために、決して混じりけのない利己心からではなく、女性器を、それに籍を入れてからするのとはわけが、
え?
今なんて?
「だから俺が意を決して夜這、いや忍び込んだときには、もう部屋に居なかったんだよ!」
「とにかくどこ捜しても居れへんねん! まああの娘、初めから人間ちゃうかったから、いきなり成仏した可能性とかもなきにしもあらずなんやけど!」
「女子生徒連続神隠し事件!」
「絶対妖魔とか妖霊の仕業やろ! ついにここまで来た! どぉしよぉ~~~っ!」
ふぅふぅするときの口の形ってかわいいよねと聞かせる雪景色がパリンと割れた。
初めて出会った骨肉の、ひとつひとつまで思い出されるヤバい、泣く。
猫か。あの『談合王猫』が、なんかの組織の下っ端だった!?
「あとメリオのやつもいねえんだよ!」
え。
「あいつら仲良かったから、一緒にどっか行ってるのかも知れねえけど、」
「ほれやったらまだましや! 楽観的すぎるわ! もしかしたら化狐の血が騒いで……!」
ウルカリオンが答えを言った。ふたりがそろってぎょっとした。メドウさんに飛びかかられて――、ぎゅっと抱き枕にされる。震えてる。
何がどうなった?
防ぎようがあったのか?
次の瞬間にこの世から消えてなくなるかもしれないという恐怖で、どうしようもなく身がすくむ。死へのカウントダウンをずっと続けていますよと一度たりとも歌うことのない、アナログ表示のデジタル時計を普及させる夢が手に入る。
ああ、うるりんが相手だったから、こいつは怒り狂わなかったんだ。
僕は悠長にそんなことを考えた。
あっ。
すり抜けやすい体質と、底の知れない胃袋。
空を飛べることと、殺傷力の高い電撃技。
でもあたしの能力があったら……?




